日本人の性風俗を描いた「春画展」開催――「芸術」か「わいせつ」か、法的に分析

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2015年09月29日 11:01  弁護士ドットコム

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男女の性愛を描いた春画をテーマとした国内初の「SHUNGA 春画展」が9月から12月まで、東京・目白台の美術館「永青文庫」で開催されている。


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春画は、江戸時代を中心に発展した、日本人の性風俗を描いた絵画。海外では、2013年の大英博物館での「春画展」が好評を博すなど、春画の芸術性が高く評価されており、今回の展覧会も注目を集めている。



一方、春画は、エロティックな描写が多く、男女の性器が露骨に描かれているものもある。そのため、展覧会というパブリックな催しは異例で、今回の春画展も、18歳未満は入館が禁じられている。



これまで、性描写が過激な作品は「わいせつ物」にあたるとして、たびたび刑事裁判の対象とされてきた。春画についてはどうか。「わいせつ物」にあたる可能性はないのだろうか。伊藤諭弁護士に聞いた。



●その時代の社会通念として判断


「『わいせつ』について、判例は『いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義に反するもの』と定義しています(大判大正7年6月10日、最判昭和26年5月10日)。



もっとも、この概念は、その時代や場所の社会通念によって変わる可能性があります。



また、『ポルノか芸術か』という議論がよくされますが、判例は、芸術作品であっても、わいせつの文書として扱うことは差し支えないともいっています(『悪徳の栄え』事件。最大判昭和44年10月15日)」



芸術作品でも「わいせつ物」と扱われる可能性があるというわけだ。春画については、どう考えればいいだろうか。



「これらを前提にすると、春画がわいせつ物といえるかどうかは、芸術作品といえるか否かではなく、今の時代の社会通念として、春画がわいせつの定義にあたるかどうかという判断をしていかなければなりません。



春画のわいせつ性について正面から検討した裁判例はありませんが、『春画』という言葉が、先に挙げた小説『悪徳の栄え』事件の反対意見のなかで出てきます。



奥野健一裁判官は『刑法175条の猥褻物に関する罰則は、主として所謂春画、春本、エロ映画の類を取締の対象として規定されたものと思われる』とし、結論として『悪徳の栄え』という小説について処罰の対象とすることに反対しています。



ただ、この反対意見は、立法当時の考え方のあくまでも例示の1つにすぎません。これをもって現代において『春画がわいせつにあたる』と考えるのは早計です」



●いたずらに性欲を興奮させるものとはいえない


「また、男女の性交や性戯場面を露骨に描写した漫画を印刷掲載したという事案において、弁護人が証拠として提出した春画について、東京地裁は次のように判断しています。



『浮世絵ないし江戸時代や明治時代の春画は、それぞれに、著名な浮世絵作家の作品として、あるいは懐古趣味に応える歴史的文物として、興味を抱かせるものであり、性行為の指導書も、夫婦を中心とする男女の性生活の充実に資するものであるなど、本件漫画本とは、読者が興味の対象とする目的及び内容を異にしており、専ら読者の好色的興味に訴えるものとはいえない』(東京地判平成16年1月13日)



これも、正面から春画のわいせつ性が争われた事案ではないので、先例性はありません。しかし、『春画』に対する現代の評価としては、この感覚がもっとも社会通念に合っていると思われます。



つまり、出版物や映像などメディアが多様化した現代の社会通念において、『春画』がいたずらに性欲を興奮させたり刺激させたりするものとはいえず、わいせつ物に当たらないのではないかというのが私の意見です」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
伊藤 諭(いとう・さとし)弁護士
1976年生。2002年、弁護士登録。横浜弁護士会所属(川崎支部)。中小企業に関する法律相談、交通事故、倒産事件、離婚・相続等の家事事件、高齢者の財産管理(成年後見など)、刑事事件などを手がける。趣味はマラソン。
事務所名:市役所通り法律事務所
事務所URL:http://www.s-dori-law.com/


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