「トランプはロシアに弱みを握られている」は誤報なのか

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2017年01月12日 19:12  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ドナルド・トランプ当選後初の記者会見前夜、一部メディアがトランプはロシアに牛耳られていると報道。すべてに裏付けがあるわけではないが、米次期大統領についての疑惑は深まるばかり>


 ナンセンス、フェイクニュース、いかさま記事――ドナルド・トランプ米次期大統領は11日、ニューヨークのトランプ・タワーで行われた当選後初の記者会見で、ロシア政府が彼の弱みを握っているという報道について聞かれると、トランプ節を炸裂させ、火消しに躍起になった。


【参考記事】トランプ初会見は大荒れ、不安だらけの新政権


 トランプが記者会見を行うのは昨年7月27日以来のこと。報道陣は多数の質問を準備していたが、一部メディアが前夜にロシア政府がトランプについて「いい情報」を握っていると報道をしたため、会見でもその話が中心になった。なかでも最も破廉恥なのは、「バラク・オバマ米大統領とミシェル夫人がモスクワを訪れたときに宿泊したホテルの部屋にトランプが複数の売春婦を呼び、ベッドに放尿させて眺めた」というもの。この部屋はロシア当局が諜報に使う部屋で、カメラ等も予め据え付けられているという(この一件が事実かどうか、確認は取れていない)。


 CNNによると、米情報機関のトップ4人――ジェームズ・クラッパー国家情報局長官、ジェームズ・コミーFBI長官、ジョン・ブレナンCIA長官、マイケル・ロジャーズNSA(米国家安全保障局)長官は先週、ロシアのサイバー攻撃についてオバマとトランプに報告を行い、ロシアがトランプの不名誉な情報を握っていた疑いがあることを説明した。米ニュースサイト、バズフィードは11日、真偽については「確認がとれておらず、虚偽の可能性がある」と断った上で、英情報機関の元工作員によるものとされる35ページの文書を公開。そこにはロシア政府はトランプを利用するため数年前から工作を行っていたと書かれている。先の売春婦の一件もこの文書に書かれている。疑惑を記した文書は、米情報機関とワシントンのジャーナリストの間では何カ月も前から回覧され注目されていた。裏が取れないので、会見の前日にバズフィードがこれを公開するまで報道されなかった。


【参考記事】オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃


「ロシアに借りはない」


 真偽のほどは定かではないが、この文書にはトランプはロシアから脅迫される立場にあったと書かれている。トランプは記者会見で、この文書は「絶対に書かれてはならず、公開されてはならない」ものだと怒りをあらわにした。ロシアのホテルに滞在する際には側近やボディガードに小型カメラに注意するよう常に警告しているぐらい注意している、とも語った。


【参考記事】ロシアのサイバー攻撃をようやく認めたトランプ


 就任式を9日後に控えた今回の会見では、メキシコとの国境に建設する壁や大統領職とビジネスの「利益相反」問題、空席になっている連邦最高裁判所の判事の指名問題なども取り上げられたが、報道陣の最大の関心はロシアとの関係にあった。トランプはこう言った。「ロシアとは何の関係もしていない。取引もない。借金もない。不動産デベロッパーとしては、私は極端に債務が少ない男だ」


 トランプは、前日にロシアとの関係を報じたCNNとバズフィードを侮辱した。とりわけ、裏付けもなく問題の文書をネット上で公開したバズフィードを「くだらないガラクタの断片」と決めつけた。CNNは確認が取れない文書についての報道を控えているが、それでも同社のジム・アコスタ記者が質問しようとすると、トランプは「おまえらの組織はひどい。黙れ、黙れ。おまえらはフェイクニュースだ」と質問を封じた。


 トランプはツイッターでも、バズフィードの報道は「フェイクニュース」「完全な政治的魔女狩り」だと大文字でツイートし、「すべて完全なでっち上げ、まったくのナンセンス」「フェアじゃない」、「政敵がカネを払って」文書を偽造させたと主張。「ロシアが私に影響力を行使しようとしたことは一度もない」「ロシアとは何の関係もない。取引も、債務も、いっさいない」と怒りを爆発させた。


 ロシア政府も疑惑を否定した。同国のドミトリー・ペスコフ大統領報道官は一連の報道を「低俗な作り話」で「両国の関係を傷つけようとする企て」だと批判した。会見で、プーチンが自身を勝たせようとしたと認めるか問われたトランプは、こう言ってのけた。「もしプーチンがドナルド・トランプを好きなら、それは財産になる。負債ではない」


オバマケアは廃止か代替


 会見ではトランプの弁護士を務めるシェリ・ディロンが、事業の経営を2人の息子 ― 長男のドナルド・ジュニアと二男のエリック ― に任せるとするトランプの決断について、かなりの時間を割いて説明した。「大統領と副大統領は法律上では利益相反を問われない」と彼女は言った。「それでもトランプ次期大統領は、利益相反についてアメリカ国民に何の疑いの余地も残さないため、自らを事業から完全に切り離すことにした」


 演壇の横のテーブルに山積みになっているのは「息子たちに全事業を完全に譲るために署名した書類の一部」だと、トランプは説明した。ディロンはトランプの長女イバンカについて、今後は不動産会社トランプ・オーガニゼションの経営から退き、子どもたちとともにワシントンに拠点を移す予定だと明らかにした。


 医療保険制度改革(オバマケア)に話が及ぶと、共和党のトム・プライス下院議員の保健福祉長官への就任が上院で承認されれば、新政権発足後に廃止案と代替案を提出する用意があると述べた。プライスはオバマケアに反対する急先鋒の一人だ。「オバマケアは民主党が生んだ問題だ」とトランプは会見で主張した。「我々は民主党の代わりに問題を取り除いてやる。ものすごいサービスだ」


 メキシコとの国境に築く壁の建設費について、トランプはメキシコ政府の負担を取りつけるまで1年半くらいは待てるとしながらも、「待つのは不本意だ」と語った。最終的にアメリカ国民の税金で建設費を負担する羽目になるとの指摘には、こう反論した。「メキシコに返済させる。必ずそうなる」


 大統領就任後のプランについて、2つの重大な見通しも明らかになった。1つは大統領就任式がある1月20日から2週間以内に、連邦最高裁判所の判事を指名すること。もう1つは、就任後90日以内に、マイク・ポンペオ次期CIA長官とダン・コーツ次期情報長官から「ハッキングに関する重大報告」を受けることだ。


 トランプはまたしても、納税申告書の公開を約束せず煙に巻いた。現在は当局による「監査中」としたうえで、「自分は勝った」からもう公表する必要はないと主張。ある記者が過去の納税申告書を公表することは歴代大統領の慣例だと指摘すると、小馬鹿にした様子でやり返した。「ええっ、そんなの一度も聞いたことなかった」




ルーシー・ウェストコット


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