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佐賀県の山口由美子さん(68)の顔や手などには今も痛み・しびれが残っているという。2000年5月、当時17歳の少年が佐賀〜福岡間の高速バスで起こした「西鉄バスジャック事件」。山口さんは10箇所以上切りつけられ、約1カ月半入院する大けがをした。死者1人、負傷者2人のうちの一人だ。
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しかし、山口さんは彼を一方的に責めることはしない。それどころか事件以降、少年院で自身の体験を語り、少年たちの立ち直りを後押しする活動を続けている。一体どうしてなのか。
成人年齢を18歳にする改正民法が国会で成立する前日の6月12日、衆議院第二議員会館で開かれた少年法の適用年齢引き下げを考えるシンポジウムでのこと。
「事件で唇を切られているので、言葉がはっきりしない部分があると思いますけど、よろしくお願いします」。
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山口さんはそう切り出し、理由を語り始めた――。
「少年が牛刀を振りかざし、『このバスは俺が乗っ取った』と言ったとき、私はその姿から、直感的に彼がつらさを抱えていると感じました」
当時の報道によると、この少年は中学校時代にいじめ被害にあっていたようだ。不登校で高校は中退。精神的に不安定で、バスジャックを起こしたのは入院した病院の外出許可中だった。
山口さんには、そんな彼の姿が不登校だった娘とダブって見えたようだ。「実は私の娘も少年と同じように不登校の経験があり、だから他の被害者と違って、(私は)彼がつらいと共感したのかもしれません」
山口さんは事件後、少年と少年の両親と示談書を交わし、「少年が会ってくれるなら会いたい」との一文を入れた。
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山口さんがこの少年と再会したのは、事件が起きて4年ほどたってから。彼には、5年以上の医療少年院送致とする保護処分がくだっていた。
誤解がないように説明すると、この事件をきっかけに少年法は改正され、16歳以上の少年が故意に人を死なせると、原則として大人と同じように検察に送致され、刑事裁判の手続きにかかるようになった(原則逆送)。おおざっぱな表現ではあるが、凶悪事件については、少年院ではなく刑務所という運用だ。
話を戻す。初めての面会で、加害少年は深々と頭を下げ、山口さんに謝罪した。
「私は彼の背中をさすり、『これまで誰にも理解されずつらかったね』と言いました。そして、『だけど、あなたの罪を許したわけではない。許すのはこれからです。これからの生き方を見ているから』と伝えながら、彼のつらさを肌で感じて涙が溢れてきました」
しばらくして、彼から届いた手紙には、「自分の罪深さと暖かい思いが同時に湧き起こりました」と書いてあったそうだ。
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山口さんはその後、この少年と2回面会している。最後の面会は、彼が自ら殺めてしまった女性の墓参りをした直後。大きなショックを受けた様子で彼は何も話せなかったという。亡くなった女性は山口さんの友人でもあった。
その後、加害少年は2006年に少年院を退院。しばらくたって、彼から山口さんのもとに手紙が届いた。そこには、自分がなぜ事件を起こしてしまったのかが丁寧につづられていたという。以来、彼が再び罪を犯したという報道は見当たらない。
「被害者として、加害少年に求めるのは、再犯して欲しくないということ。そのためにも、なぜ事件を起こしてしまったのかを考えてほしい。少年院の育て直しの教育の中で、彼は確実に変わっていったと思います」
刑務所では、反省しようとしまいと時間が来れば外に出られる。一方、少年院では、子どもたちにさまざまな課題が与えられ、一定の要件を満たさないと出られない。この違いは大きいと山口さんは語る。
6月13日、成人年齢を18歳にする改正民法が国会で成立した。これを受けて一部で少年法の適用年齢も18歳に引き下げるべきだという意見が出ている。
山口さんは引き下げに反対の立場。少年院の子どもたちと接する中で、「18歳が決して大人とは言えないこと」を身に染みて感じているからだ。
「必要なのは、信頼できる大人や仲間との出会いであり、再教育の場。子どもは出会いで変わります。罰では変わりません」
成人年齢が18歳になっても、酒やたばこは20歳から。目的によって「大人」の年齢が変わっても問題はない。すでに凶悪犯罪については、前述した原則逆送の仕組みがあり、それ以外の犯罪でも、刑事処分が相当と考えられれば、逆送致をへて罰を受ける。議論すべきは、より軽い犯罪についても、罰や責任を重視すべきなのか、それとも立ち直りや再犯防止を重視すべきなのかだといえる。
「できるだけ長く、少年法の教育を維持して欲しいと願っています。同じ社会で共に生きていくために…」。山口さんはそうスピーチを締めくくった。
(弁護士ドットコムニュース)
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