【コラム】 目をつむれば、東京の空 映画「ライブテープ」

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2009年12月30日 16:05  よりミク

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よりミク

「ライブ=演奏」を「ライブ=生」で記録した「ライブ=人生」のテープ  2009年元旦の東京・吉祥寺。着膨れした参拝客に入り混り、神社の前にたたずむ一人の青年。黒いサングラスに、もじゃもじゃの髪の毛。井上陽水とボブ・ディランを足して2で割ったような風貌の青年は、おもむろに抱えたギターを鳴らし歌い始めた。   失楽園(※)でぬいてた18の夏   奥日光高原ホテルの寮の部屋で (「18の夏」前野健太)
神社の前で歌う前野健太 (C)TipTop
神社の前で歌う前野健太 (C)TipTop
 ミュージシャン・前野健太が吉祥寺の街で歌い歩く様を、ワンカットで収めた映画「ライブテープ」。神社、商店街、公園などをステージにゲリラ・ライブを敢行。脚本代わりの地図を携え、編集なしカットなしの一発勝負で74分を撮りきった「奇跡」のドキュメンタリーだ。    監督は「童貞。をプロデュース」などの傑作ドキュメンタリーで知られる松江哲明。2008年に祖父、父、友人を立て続けに亡くし、やけ酒ばかり飲んでいた松江監督は、「こんなんじゃいけない」と、元旦に仲間を集めて映画を撮ることを決意。つらい時期を支えた前野健太の歌を主人公に、自身の育った吉祥寺の街をフィルムに焼き付けた。   だんだん ぼくら 歳を かさね かさねていくね   好きになったひと 嫌いになってしまった人 ぜんぶかさなっていくね   (「sad song」前野健太)
井の頭公園で迎えるフィナーレ(C)TipTop
井の頭公園で迎えるフィナーレ(C)TipTop
 映画には、いわゆる筋書きがない。ただ何曲かの歌と、時とともに表情を変えていく街の姿があるのみだ。歌うのは、ほぼ無名に近い前野健太というミュージシャンで、舞台は何の変哲もない夕暮れの街。一発生撮りの74分。下手をすれば単なる無名シンガーが歌うビデオで終わったかもしれない。しかし、映画の神は、元旦の吉祥寺に舞い降りた。「当たり前にして奇跡的な」瞬間の連なりが、このテープを100%「映画」として成立させたのだ。歌は映像のためのBGMでなく、映画の主人公としてそこに存在し、また前野健太そのものも、歌のための背景でなく、映画と彼自身の人生の主人公として、そこにいる。カメラが見つめているのは歌の生まれたところ、すなわち生活や人生、ひいては生きることそのもの。「ライブテープ」を映画たらしめているのは、生の人生を記録しよう、という揺るぎない眼差しだ。  人は誰しも「筋書き」のない人生という名の物語を生きている。人生には「編集」や「カット」が効かない。一発勝負の、長い長いワンカットの物語である。タイクツな時もあれば、期せずして訪れる素晴らしい瞬間もある。  映画は夕暮れの光が照らす井の頭公園でラストを迎える。見る者の人生がスクリーンに溶け出す感動のラストは、ぜひ劇場で。(キキ/mixiニューススタッフ) ※ 渡辺淳一の小説「失楽園」を原作とした映画やドラマ。ドラマ版は古谷一行と川島なお美が演じ、濃厚な性描写が話題になった。 ■「ライブテープ」2009/日本/ mini-DV/74分  監督:松江哲明 唄 演奏:前野健太 撮影:近藤龍人 録音:山本タカアキ 第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門 作品賞受賞 吉祥寺バウスシアターにて1月15日まで公開。全国順次レイトショー。 ■前野健太(まえの・けんた) 1979年埼玉生まれのミュージシャン。2007年、アルバム「ロマンスカー」にて勝手にデビュー。2009年にセカンドアルバム「さみしいだけ」を発表。現在はサードアルバムを制作中。 ■松江哲明(まつえ・てつあき) 1977年東京生まれ。1999年、日本映画学校の卒業制作で撮った「あんにょんキムチ」が国内外で高い評価を受ける。代表作に「童貞。をプロデュース」「あんにょん由美香」など。
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