【コラム】 体罰は「悪」か。戸塚ヨットスクールの功罪「平成ジレンマ」
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2011年02月05日 13:07 よりミク
■戸塚ヨットスクールの30年 そして、現在
引きこもりの数は全国で70万人。その半数近くが30代だ。安倍内閣が掲げた再チャレンジは度重なる政権交代で雲散霧消し、就職氷河期が深刻さを増す一方で、「失敗した者が這い上がる」ための手筈は、未だ整えられていない。
引きこもりが長期化・高齢化する中、彼らを受け入れ、再出発を支援している施設がある。戸塚ヨットスクール。1980年代、2名の死者と2名の行方不明者を出し、日本を騒がせた、あの戸塚ヨットスクールだ。
ヨットマンだった戸塚宏が1976年に開いた戸塚ヨットスクールは当初、単なるスポーツ教室としてスタートした。しかしある時参加した児童が、不登校を克服したことが評判となって、次第に情緒障害児の矯正施設へと方向性をシフト。家庭内暴力などの非行少年を数多く受け入れ、「体罰は教育」の信念のもとスパルタ指導。マスコミはその取り組みを賞賛し、全盛期は100人を超す訓練生が戸塚に在籍した。そんな折、戸塚ヨットスクール事件が発生。世間は一転、スクールを糾弾する。戸塚は逮捕され、傷害致死で有罪。体罰は学校教育におけるタブーとなり、戸塚ヨットスクールの存在は、世間の表舞台から姿を消していった。
しかし2006年、刑期を終え出所した戸塚はすぐにスクールに復帰。訓練生と向き合う日々に戻る。60代の戸塚はなぜ、再び闘うことを決意したのか?
映画『平成ジレンマ』は、戸塚宏という昭和の怪物に密着。『光と影 光市母子殺害事件・弁護団の300日』などの問題作を世に放ってきた東海テレビが、戸塚ヨットスクールを通して浮かび上がる、現代社会の歪みを描いた。
平成ジレンマ(c)2010東海テレビ放送 | | |
■だれが? この国を?
スクールの入学金は315万円と高額だが、再入校の場合は免除。卒業後に失敗しても、何度でも復学が可能だ。体罰は封印されたものの、訓練生達は今も厳しい規律の下にあり、その単調さに耐えられず脱走する者も後を絶たない。戸塚らに強制力はなく、訓練生が「自分の力で自分の人生を変えたい」と気づく日まで、ひたすらサポートに徹する。
ある日、いじめ被害で引きこもり、リストカットを繰り返していたという、17歳の女子高生が入校してくる。スクールは通常、自傷癖のある者を受け入れていないが、弱り果てた母親を見かねて、戸塚が入学を許可。少女はぎこちないながらも他の訓練生とうち解け、笑顔を見せていた。しかし入校3日後、突然スクールの屋上から飛び降り、死亡。一瞬の事故だった。
「本当に止められなかったのか?」「スクールに責任はないのか?」30年前と同じように詰問するマスコミに、戸塚は怒りを抑え「なぜあんな子ができたの? その元を追求してくれんかなあ」と問い返す。なぜ不登校は増え続けるのか。なぜ子供たちは引きこもるのか。誰が、彼らを救うのか。カメラの前で戸塚はふと本音を漏らす。「見とったらわかると思うけど、誰もやりたないよね? 寧ろ、それを作らんほうに回りたいよね。教育の方にね。」
映画の終わり、スクールは新たに40歳の引きこもりを迎える。彼を見つめる戸塚は、69歳。もう一度、這い上がる。社会の片隅で、敗者たちのリベンジは続いている。(キキ/mixiニューススタッフ)
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『平成ジレンマ』製作・著作・配給/東海テレビ放送 (c)2010東海テレビ放送
ナレーション/中村獅童 プロデューサー/阿武野勝彦 監督/齊藤潤一
2月5日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
■東海テレビドキュメンタリー傑作選 −−−ポレポレ東中野にて−−−
2月19日(土)『光と影〜光市母子殺害事件 弁護団の300日〜』
2月20日(日)『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失くした兄 息子を殺された父』
2月21日(月)『村と戦争』
2月22日(火)『約束〜日本一のダムが奪うもの〜』
2月23日(水)『毒とひまわり〜名張毒ぶどう酒事件の半世紀〜』
2月24日(木)『検事のふろしき』
2月25日(金)『裁判長のお弁当』
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