「葬儀か仕事か?」 〜とある地方出身な長男の嫁の場合〜

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2013年10月04日 20:00  MAMApicks

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「仕事と私、どっちが大事なのよ!」
という問いには、
「ごめんね、そんなさみしい思いさせて……」
が正解なのだそうだ。

ん?

……答えがイケメン過ぎる。
そもそもそんな質問、オトコにしたことないし!
むしろされる方だし!!

という“働きマン”な皆さまへ。

仕事とプライベートが、ここ一番というときにバッティングすることは確かにある。もしかしたら女のほうがそういう二択を迫られること多いんじゃないか?とは、産後、仕事に復帰してからよく思ったりしている。

たとえば……
「納期と子どもの発熱」
「運動会と休日出勤」
子どもの行事系はあらかじめリスクヘッジしてるお母さんたちも多いと思うのだが、
「絶対に穴をあけられない仕事と、葬式」。

この場合、どうしたらいいのだろうか。


■#1「届いた知らせ」
筆者がそのとき、WEBの仕事で担当するテレビ番組の放送を3日後の日曜に控えて会議をしていた木曜日のこと、夫の祖母の訃報が届いた。

歳も歳だし入退院を繰り返していたので、みんなある程度覚悟はしていたのだ。
さて、問題は、葬儀がいつか、である。

「月曜日って友引だから、週末のうちじゃない? 当日かぶる?」
「夏場だからそんなに後ろ倒しじゃないと思うよ」
会議にいた同僚がいろいろと声をかけてくれたが、これはとりあえず帰って夫に状況をきくしかない。

「何かあったらやるよー」と、同僚が言ってくれる。
しかし、今回のフローを把握してるのはほぼ私だけ。SNSの管理者アカウントが必要、20個の項目をリアルタイムでフォームに埋めながら放送のタイミングでドンと出す。タイマーは使えない。

……今ここで説明していることの20倍くらい実はめんどくさい作業であり、これを丸投げするのは気が引けてしまった。

これを帰ってから夫に説明するのも、また同じくらい気が引ける作業であったのだが。

とにかく、実際に引き継ぐかどうかは別として、すぐさま私は引継ぎ用に仕様書を書き始めたが、最悪、テレビとネット回線とパソコンがあれば、いける!
夫から義母には、当日私は仕事がある旨伝えてもらった。



■#2「喪主の妻・入門編」
今回の葬儀、私のポジションは「喪主の妻」であった。
じつは夫の父が早世しており、いろいろあってそうなっている。
このフォーメーションでの葬儀や法事、何気にすでに5回近く行われているので、ある程度慣れた。

そりゃまあ、結婚後の初めてのイベントが「喪主の妻」というのは、大変戸惑ったものであった。なにしろ自分の実家はそのあたり、ゆるゆるだから。
父は率先してお経でノリノリになり、墓石に祖父の名前を彫り忘れたのを17年も気づかなかったような一家である。

一方、夫の実家はそんなに堅苦しい家ではないものの、私以外はみんなわかっている地方独特の風習があり、でもそんな事前説明がほぼないまま、本番突入。
「喪主の妻」って何しなきゃいけないかくらいはさすがに聞いたり調べていったものの、まったく思ってたのと違ったのだ。

一番最初の葬儀のときはまだ子どもが小さく、抱っこしてないといけなかったし、始終泣いていたので、後方に陣取り、子が泣いたら遠くに離れる……の繰り返し。
台所では町内会の奥様方がご飯の支度をし、その横の居間で泣く子を抱えて通夜が終わるのをただ待っていた。

翌日、ホールでの葬儀は始まったとたんに子どもが泣き出すと、会場係の方がやってきて、別室に案内され、終わるまでここにいるように言われた。二人でいるには広すぎる和室だった。
息子は1時間ほどギャン泣きしていただろうか。
途中、お焼香が部屋まで回ってきたころには泣き疲れてスヤスヤと熟睡していた。

慣れない土地、謎のしきたり、わからない立ち位置、通じない言葉、いつもはハブになってくれる夫は喪主で忙しい。そして、一族の中で一人だけ県外の人間であることの疎外感。
それらが頭のなかをグルグルと回っていた……。



■#3「法事・ホーム&アウェー」
今回はそこそこ息子が活発になっていたので、ずっと抱っこということはなかったが、その代わりに、初めて「喪主の妻っぽい事案」が発生してくる。
並びのポジション、お焼香の順番、などなど。

義弟の奥さん(結婚12年目くらい)を参考にしようと思ったら、あれあれ、子どもに追われて場所が定まっていない。
ほれ、あんたは前に行けという者、あんたは後ろでしょという者。
……どっちだよ!

子どもがあんまり言うことを聞かないので叱ったら、ここぞとばかりに義母のもとに駆け寄り泣き出す始末。隣にいた親戚と思われるご婦人からは、「そんな風に叱るんじゃないの、かわいそうに」と私が怒られた。

なんか、いろんな意味でアウェーだ……。

すっかりご機嫌のなおった息子は、お花で飾られた棺の中の祖母に近づき、
「おおきいおばあちゃん、きれいだよ」
と、誰が教えたわけでもないキザなセリフを言うものだから、場の全員がぶわっと声をあげて泣いた。私は私で、悔しさといらだちも混ざって泣いていた。


■#4「働きママ・参上」
さて、話は戻るが、結局、仕事は引き継がなかった。
ここまで自分が全部準備したので、最後まで面倒をみたかったのだ。

他の家族が納骨に行っている間に失礼させてもらい、義弟の部屋を借りて番組のオンエアを待った。ネット回線チェックなどをしているうちに、1時間はあっという間に過ぎた。

タイミングを合わせて何とかやりきったが、リアルタイム対応は毎回吐きそうになる。これが生放送だとさらにストレスは倍だ。なのに、なぜやめないのか。


子どもがいる母親である今、「何で働くの?」という世間の問いには
「生活費ですっ!」とキリっとしながら言いたいところなのだが、正直それだけではない。

仕事が好きなのだ。

しなかったら自分を見失うし、仕事をしていない自分がまず想像できない。
学生時代から仕事を続けているから、“そうでない自分”には何もない、ダメな人間なのではないかと怖くなる。
実際、家事全般は正直苦手だ。これで稼ぎが少なかったら夫に申し訳ない気分になる。

もちろんいろいろなサポートが必要ではあるが、環境が変わっても独身時代と同じクオリティで仕事をあげること。それが今の目標だ。


喪服のまま、床にあぐらをかいて、眉をひそめてパソコンを操る長男の嫁を、義母はどう見ていたのだろうか。
「賛同はしなくてもいいけど理解はしていて欲しい」。
それが今のささやかな願いである。

ワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在は日本テレビグループ・LIFE VIDEO株式会社のデジタルコンテンツ全般を担当。

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