『ワラッチャオ!』に見え隠れする『ウゴウゴルーガ』の影

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2013年10月22日 09:31  MAMApicks

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NHK BSプレミアムで10月からスタートした4〜6歳向け子ども番組『ワラッチャオ!』(毎週日曜午後5:30〜6:00)をご存じだろうか。

3月に#1と#2が放送され、レギュラー番組が始まったのかと思いきや、それ以降の放送予定はなし。「早くも打ち切りなのか?」「やりすぎたからか?」などの声もあったが、秋から本放送とのアナウンスが出て、パイロット版であったことが判明。そして数ヵ月経って思い出したかのように#3が放送された。

ちなみに前クールの同枠は、「おしりかじり虫」をメインキャラに据えた子ども向けバラエティ番組『おしりキッズ』で、4月ごろから『ワラッチャオ!』のコーナーが登場。『おしりキッズ』内では時間を短縮し、着ぐるみたちが暮らす「テコリンハウス」内の出来事(コント)を中心に放映していた。


3月にあった『おとうさんといっしょ』の先行放送を見ようとして、たまたま続きで見たのが初見であった。

まず、テーマ曲の作詞・作曲が、ももクロにも楽曲を提供する音楽プロデューサーのヒャダイン。そこまではいいとして、歌詞がギリギリ。(どちらかというとアウト)
お姉さん役の女性アナの進行がぐだぐだ。(なぜか広島放送局の桑子真帆アナウンサー)
個性あふれるキャラクターと妙な設定の細かさ。(目に傷のあるリスや顔の半分色が違うネコ、蛇口のついたリンゴ、メタボ気味なスマートフォンなどなど)
シュールなアニメにYO-KING作曲の歌、子どもにムチャ振りをする大喜利。
エンディングでは、食堂で着ぐるみとお姉さんが反省会。「広島まで歩いて帰ればぁ?」とネコ(CV:山崎バニラ)に言われる始末……。

何だろう、ざわざわする。
この後味、何かに似ている。

……そうだ!『ウゴウゴルーガ』だ。


■テレビが「おきらくごくらく」だったあの頃
同じことを思っていた方はたくさんいたようで、Twitterなどでは同様の意見をたくさん見かけたが、せっかくなので『ウゴウゴルーガ』の話をちょっとだけしたい。

30代以上の方なら覚えている方もいるだろう。
フジテレビで1992年から1年半だけ放送していた早朝の子ども番組である。
“子ども番組で1年半”。同局の「ポンキッキ」を思えば、それは大変な短命である。

当時、高校1年だった私は、中学時代からの癖で一夜漬けのテスト勉強をしており、深夜番組隆盛期のフジテレビを、勉強の合間に“チラ見”どころか“ガン見”していた。
そして深夜も過ぎて空が明るくならんとしているときである。

「やばい!なんかやばいもん見た!」

オープニング。フルCG、巨大なボディコンのお姉さんが高速道路上に現れて、ハンドバッグでビルをなぎ倒していく。
90年代に「ビデオドラッグ」というのが流行ったが、それに似た、鮮やかで目がチカチカするような、すばやくうごめく模様。
その上に乗っかったロゴは『ウゴウゴルーガ』の文字。

今みたいにすぐ検索して調べたり、リアルタイムでほかの人の反応など見られない。新聞の番組表にはなんだかわからない、3文字あればいいような番組名の掲載。
翌日、クラスメイトにその話をしたような気がするが、リアクションも寂しいものだったわけで……。


とにかくCGがすごかった印象と、「子どもに何させてんだ(笑)」というシュールさ。
文字通り「シュールくん」という名前のフランス人っぽいキャラクターが、当時小学生の「ウゴウゴくん」と「ルーガちゃん」に、「きめてきめて」と内角低めの二択を迫る。

「“羽田派の旗揚げ”と“はたはたのから揚げ”、いただけないのはどっち?」
「“海水浴場”と“海水で欲情”、危ないのはどっち?」
(……今ならたぶん、そっと何者かに消される)

そして小気味よくインサートされるCGアニメーションたち。
印象深かったのは、「ミカンせいじん」と「しかと」「あにき」あたりだろうか。
それから、ウンチの形をした「プリプリはかせ」。
線画に哀愁が漂う「がんばれまさおくん」。

数えあげたらきりがないのだが、のちにエンディングテーマをプリンストンガ(クリエーター・田中秀幸+ピエール瀧のユニット)が手がけたことで、私の中で「絶対に見逃さずに見る番組」としてランクインすることになる。


番組の人気も高まり、地方局でのネットも始まり(その初日がエイプリルフールだったので「何か面白いことしなきゃ」と全編「プリプリはかせ」をオンエアしたところ、編成などから大変に叱られたことは、ウゴウゴルーガに関するいろんなインタビューに詳しい)、ゲームセンターのクレーンゲームには「トマトちゃん」などの人形も登場。学校の帰りに取れるまで粘った記憶がある。

はじめから「子ども番組の皮をかぶった大人のバラエティ」要素はあったものの、「おしえてえらいひと」のコーナーに、YMOの細野晴臣や田中康夫がゲスト出演したり、「渋谷系」という言葉が流行っていたころ、19時台に『ウゴウゴルーガ2号』がスタートすると、テーマ曲のピチカート・ファイヴ『東京は夜の七時』がヒット。ちょっと敏感な大人にとっては大変豪華な番組になっていた。

CG合成による5日連続の生放送や、なぜか実写版ミカンせいじんが海外から生中継を行ったり、美術館でCGを使ったイベントを行うなど、実験的なことをいくつも行った、いろんな意味でチャレンジな番組であった。

しかし、編成の方針転換と、「全員前のめりに倒れた。もうできません」(「テレビくん」の中の人、桜井プロデューサー談)とのことで、1994年に番組は終了。
そして当該時間枠には『めざましテレビ』が鎮座することとなり、番組で活躍したCGクリエーターたちのその後については、知る人ぞ知るようなことになる。たとえば「おしりかじり虫」の作者、うるまでるびもその一員であった。


筆者は広義の“コンピューターグラフィック業界”にいるのだが、この番組がなかったら今の仕事はしていないと言い切ってもいい。当時、番組で使用されていたAmigaではなく、時代背景的にMacを買うことになるのだが、多感な時期にこういうショッキングなものに出会えたことは幸運であった。

ディレクターの福原氏は、インタビューで『ウゴウゴルーガ』を「交通事故みたいなもの」と例えていたが、その“後遺症”は視聴者の中でまだ、季節の変わり目にズキズキと痛んではそのたびに思い出すのだ。あのサイケデリックな色彩を。


■『ワラッチャオ!』への期待、のようなもの
さて、話は『ワラッチャオ!』に戻る。
オープニングCGに若手を起用したり、大人ウケするミュージシャンを使ったりと、『ウゴウゴルーガ』を彷彿とさせる感じは随所にある。

構成作家にバラエティの人をだいぶ入れているので、そこをあざといと思うかで意見が分かれそうな気はするが、コントの中で、リスの「ドックン」が金縛りを解くために、「AKBの新メンバーに池上彰!」と、しょーもないことを連呼するシーンは腹が痛くなるほど笑った。

うん、そういう「しょーもないこと」で笑ったりしたい。最近、とくに。

当然ながら90年代と今では、時代も人の感覚もテレビのあり方もだいぶ変わってしまった。
「PTAに怒られるバラエティ番組」の冠がシャレで済まなくなった。
そんな中で最大限のエッジを効かせている子ども番組のひとつに、『ワラッチャオ!』を挙げたい。
アートディレクター秋山具義さんの描いたキャラクターがかわいい(毒があるけど)、というのもポイントが高い。

できることならそのままで、ギリギリアウトとセーフの間をずっと縫っていって欲しいと思う。

『ウゴウゴルーガ』のように生き急いで短命で終わってしまうのも切ないが、クリエーターの登竜門であったり、せめて21世紀の子どもたちに、いい意味でトラウマを植えつけ続けるような存在でいて欲しいなあと思う。

ちなみにこの番組の趣旨は、「子供たちをただただ楽しく笑わせる」だそうで。
でも、よく「親が笑顔だと、子どもも自然に笑顔になる」っていうではないか。

……それが狙いなのだとしたら、この番組、結構な策士なのかもしれない。

ワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在は日本テレビグループ・LIFE VIDEO株式会社のデジタルコンテンツ全般を担当。

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  • ウゴウゴルーガ…また見たいなぁ�Ԥ��Ԥ��ʿ������� 深夜枠とかでイイから復活してくれないかな。しかし1年半しか放送してなかったことに驚いたww
    • イイネ!5
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