それでもフリーランス記者は紛争地へ向かう

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2014年09月03日 20:40  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

 約2年前にシリアで誘拐されたアメリカ人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリーがスンニ派テロ組織ISIS(イラク・シリア・イスラム国、別名ISIL)によって斬首処刑された動画が先週公開された。この衝撃を受け、世界の報道機関は紛争地帯の取材にさらに腰が引けるかもしれない。


「既に現実になっている」と、NPOのジャーナリスト保護委員会(CPJ)のシェリフ・マンスールは言う。「多くのメディアが、シリアの取材を避けている。特派員を一切雇わないと決めたところもあるようだ」


 CPJのデータによれば、シリアはジャーナリストにとって世界で最も危険な場所だ。反政府運動が11年に始まって以降、少なくとも69人のジャーナリストが殺害された。80人以上が誘拐され、そのうち65人は昨年の被害者だ。


 こうしたジャーナリストを狙い撃ちにした事件のせいで報道機関は萎縮してしまっていると、米紙クリスチャン・サイエンス・モニターなどで中東情勢を伝えるトム・A・ピーターは懸念を示す。誘拐や殺害事件が増加して以降、ピーターを含む多くのジャーナリストがシリアから引き揚げた。報道機関も以前ほど現地取材しないようになっているという。


 ジャーナリストは当然、紛争地帯に入ることのリスクを承知している。だが問題は、財務状況が年々厳しくなっている報道機関が、紛争地を取材するための予算の捻出に苦慮していることだ。それでも報じるべきニュースを伝えるために、報道機関、政府、そしてジャーナリストたち自身も協力して、戦地へ向かう記者が適切な安全対策の訓練を受けられる環境を整えるべきだと、ピーターは訴える。


 紛争地でも特に危険な地域での現場報道の多くは、資金面での後ろ盾を持たないフリーの記者によるものだ。CPJによれば、92年以降に世界で殺害されたジャーナリストのうちフリーランスは17%だった。しかしシリアではその比率が約50%に跳ね上がる。


記者の情熱に付け込む


 中東を7年間取材しているピーターはクリスチャン・サイエンス・モニターと契約しているが、医療保険などは自腹。紛争地帯での保険に加入するために、ピーターは2700ドルを払ってイギリスで「敵対的環境」に向けた訓練を受けた上、毎年600ドルの保険料を払っていた。06年に初めてイラクに行ったときは保険なしだったと言う。戦地報道への情熱を燃やす若いジャーナリストには珍しいことではない。


 そうした情熱がしばしば利用されることもある。資金繰りの苦しい報道機関は、危険を承知で自ら戦地に向かう勇敢な記者に付け込む。


「編集サイドは危険地帯からのリポートを望むが、対価は払いたがらない」とピーターは言う。「国際報道のビジネスモデルの一部が、記事を世に送り出したいがために自腹で前線へ飛び込み危険を冒すフリーランスに依存していると思うしかない」


 一部の報道機関は競合相手への「相乗り」さえ試みることもある。既に別の報道機関から記事を頼まれているジャーナリストに仕事を依頼するのだ。「同業者はみんな経験している」とピーターは嘆く。「『イラクにいるなら、うちにも書いてよ』なんてしょっちゅうだ。まるで私がバグダッドでぶらぶらしているかのように」


 シリアが危険なのは周知の事実だから、フォーリーの死によってジャーナリストの足が今以上に遠ざかることはないとピーターはみている。それでも報道機関は戦地を取材する記者の安全対策を万全にすべきだ。


「『これをしろ、あれはするな』と言ってくれる専門のアドバイザーがいるのは、CNNやBBCといった大手だけ」と、ピーターは言う。「たいていは記者の自己判断に委ねられる。だからフォーリーも自分で考えて行動するしかなかったんだ」



[2014.9. 2号掲載]


クリストファー・ザラ



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