「家庭ゴミはプライバシーのかたまり」 自治体の「ゴミ開封調査」は憲法違反?

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2014年11月17日 15:11  弁護士ドットコム

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家庭ゴミを収集する市区町村のなかには、ゴミの分別がされているかチェックするために、ゴミ袋を開封し、違反した人を特定する「開封調査」をおこなっている自治体がある。このような調査に対して、「プライバシー侵害ではないか」という声があがっている。ネットでは10月中旬、ゴミの開封調査を積極的におこなっている千葉市の熊谷俊人市長と一般ユーザーがツイッターで論争し、注目を集めた。


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あるユーザーが「ゴミの開封調査でプライバシー権の侵害とのニュースがでましたが、監視カメラの貸出などの方向性で変更するなどのご意見は無いのでしょうか?」と質問。それに対して、熊谷市長は「報道を見ても否定派の識者が憲法を持ち出して情念的に疑問を呈しているだけに感じます」「開封調査をしている自治体は当然政策法務がチェックしていますし、法的根拠はあります」など回答し、開封調査は問題ないとの姿勢を示した。



ゴミの開封調査は千葉市のほかにも、横浜市や札幌市などで実施されているが、法的な問題はないのだろうか。とりわけ、自治体がゴミ袋を開けて個人情報を探ることは「プライバシー侵害」にあたるのではないか。憲法問題に取り組む伊藤建弁護士に聞いた。



●家庭ゴミから個人の趣味や嗜好がわかってしまう


「家庭ゴミは、プライバシーのかたまりです。たとえば、捨てたレシートからはどのような物を買っているのか、捨てた書籍からはどのような思想の持ち主なのか等が分かってしまいます」



このように伊藤弁護士は切り出した。個人のプライバシー権は、憲法で保障された重要な権利だと考えられている。



「憲法13条から導き出される『プライバシー権』とは、かつては、『私生活をみだりに公開されない権利』だと考えられていました。ここでの『私生活』とは、趣味や恋愛遍歴、離婚歴、犯罪歴など、幅広い内容を含みます。



ところが最近では、大量の情報をコピーしたり、分析したりすることが、以前に比べてはるかに簡単になっています。そのため、最近の判例は、氏名、生年月日、住所、電話番号なども、『プライバシー権』で保護される対象だと考えるようになっています」



たしかに、家庭ゴミには、私生活上の情報や住所・氏名などが多く含まれているだろう。しかし「要らない」といって、みずから放棄したゴミなのだから、その後どう扱われても仕方がないのではないか。



「ゴミの『所有権』と、個人の『プライバシー権』は、別々に考えるべきです。私たちは普通、ゴミ袋の中身を他人に見られずに、そのまま収集されることを期待しています。ゴミを捨てたとしても、『プライバシー権』まで一緒に捨てたわけではないのです」



●ゴミの開封調査には「憲法上の問題」がある?


そうなると、自治体の開封調査について、どう考えるべきなのだろうか。



「ゴミ袋を開けて、どこの誰が捨てたゴミかを特定するということですから、まずは、宛名の付いた郵便物などを見つけることになります。



しかし、郵便物は、破られたり、シュレッダーにかけられたりしていることも多いですね。そうすると、調査員は、捨てた人を特定するために、レシートや食品のゴミ、趣味のモノの箱などを細かく探り、捨てた人の趣味や嗜好というプライバシー、特に私生活を分析することになるでしょう。



このようなことをすれば、ゴミを出した人のプライバシー権を大きく侵害することになります。したがって、開封調査は憲法13条に違反する可能性が高いと考えます」



このように伊藤弁護士は、ゴミの開封調査にはプライバシー権を侵害するという憲法上の問題があると指摘する。それでは、プライバシー権を侵害しないように配慮すればよいのだろうか。



「仮に、プライバシー権を侵害しないよう十分に配慮して調査した場合、かえってルールに違反した人を特定できるかどうかが疑問です。



ゴミ袋をパッと開ければ、すぐそこに、住所や氏名などが印刷された紙が入っているわけではありません。



そのため、実際問題としては私生活を細かく分析していかなければ、ごみを出した人を特定するのは困難でしょう。そこまでしても、実際に特定することができるかはわかりません。



いずれにせよ、開封調査には、侵害されるプライバシーに見合った実効性があるかは疑問ですね。監視カメラのほうが、よっぽど実効性がありますし、プライバシー権に対する侵害も小さいでしょうね」



伊藤弁護士は「自治体も、プライバシーを侵害したくて開封調査をしているわけではないはずです。みなさんの自治体がこのようなことを行わなくてもいいように、ゴミの分別には協力するようにしましょう」と締めくくっていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
伊藤 建(いとう・たける)弁護士
1986年10月2日生まれ。28歳。慶大院修了・法務博士(専門職)。NHK教育テレビ「真剣10代しゃべり場」への出演をきっかけに憲法と出会う。司法試験合格後は、大学や「ロースクール・ポラリス」、「BEXA」という教育機関で法学教育を行っている。
ブログ「憲法の流儀」(http://ameblo.jp/lawschool-life/)
Twitter@itotakeru

事務所名:琵琶湖大橋法律事務所
事務所URL:http://biwako-ohashi.com/



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  • マンション清掃をしていますが、ゴミ集積場に分別されて無いゴミや収集が終わっているのに出されているゴミは開けてみて名前と住所が分かったらその人の玄関まで戻してます。
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