【今どき絵本作家レコメンズ】スギヤマカナヨさん―― 多様なテーマで生み出されるユニークな絵本の数々

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2015年03月13日 12:01  MAMApicks

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「これぞ次世代の名作!」と思えるような素晴らしい絵本を紹介すべく、100人以上の絵本作家を取材した経験を持つ筆者が、独断と偏見からいちおし絵本作家にフォーカスする、「今どき絵本作家レコメンズ」。

今回のレコメンド作家は、スギヤマカナヨさん。現役子育てママとしての視点も活かしながら、多様なテーマでユニークな作品の数々を生み出している絵本作家だ。


『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』
作:スギヤマカナヨ(アリス館)
人気作『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』は、ページを開くとそのままお弁当、という絵本。『ぼくのおべんとう』には卵焼きや鶏のから揚げ、『わたしのおべんとう』にはサンドイッチやミートボールが入っていて、ページをめくりながら楽しく食べ進めていく。中盤でおかずを取り換えっこするシーンがあって、読み聞かせ会などでは2冊並べてふたりで読んで楽しまれているらしい。


ただ、この『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』がスギヤマカナヨさんの代表作(=その作家の特色を最もよく示している作品)かと問われると、なんとも答えに詰まる。

スギヤマカナヨさんの作品は、子どもの悩みを描いたもの、子育てママを応援するもの、親子のコミュニケーションを促すもの、さらには環境、食育……などなど、テーマがじつに多様で、簡単にひとくくりにはできないのだ。

その中からどの作品を紹介すべきか、今回はかなり悩んだのだが、その多様さを知っていただけるようなラインナップをお届けしよう。

■第二子出産前なら『あかちゃんが うまれたら なるなる なんに なる?』

『あかちゃんが うまれたら なるなる なんに なる?』
作:スギヤマカナヨ(ポプラ社)

いきなり対象読者を限定してしまうのだが、この絵本は第二子出産前のママにぜひおすすめしたい。第二子妊娠中から読むことで、一人目の子がお姉ちゃんお兄ちゃんになるための心の準備を促すことができる絵本なのだ。

お話は「あかちゃんがうまれたの!」という、うれしい知らせから始まる。赤ちゃんが生まれると、私は「おねえちゃん」になる。家の中は赤ちゃんのものでいっぱいになって、お母さんは毎日大忙しになる――。

赤ちゃんが生まれたことによって起きるさまざまな変化が、お姉ちゃんの目線で細やかに描かれている。スギヤマさんご自身の育児体験に基づいているため、どのエピソードもとてもリアル。子育て経験者なら誰もが「わかるー!」と共感する、「育児あるある」が満載なのだ。

ときどき赤ちゃんのことがうらやましくなってしまう……そんなお姉ちゃんの微妙な気持ちにも触れつつ、終盤ではきょうだいができたことの喜びや、4人家族になったことのうれしさを表現。読んでいてハッピーな気持ちになれる一冊だ。

ちなみに、第一子出産直後のママには『あかちゃんはおかあさんとこうしておはなししています』(赤ちゃんとママ社)がおすすめ。泣いてばかりの赤ちゃんの相手でお疲れ気味の新米ママを、優しく応援してくれる絵本だ。

■どんぐり坊やの行く末やいかに!?『どんぐりころころ おやまへかえる だいさくせん』

『どんぐりころころ おやまへかえる だいさくせん』
作:スギヤマカナヨ(赤ちゃんとママ社)

誰もが知っている童謡「どんぐりころころ」。「どんぐりこ」ではなくて「どんぶりこ」が正解って知ってた?……なんて話はさておき、お池でどじょうと楽しく遊んだものの、やっぱりお山が恋しくなってしまったどんぐり坊や。その行く末が気になる方は多いはず。

スギヤマカナヨさんも子どもの頃から続きが気になっていたそうで、それならつくってしまえ!ということで、できあがったのがこちら。最初から最後まで、一冊まるごと歌える絵本だ。

お池の仲間にかつがれて池から上がり、カエルにおんぶされてお山を目指すものの、お山かと思ったところがカメの背中だったり、リスに見つかって秘密の場所に連れていかれたり、カラスにくわえられて空を飛んだり……一体どうなるの!?というハラハラドキドキの展開も!

自然界の連鎖や循環について学べるのも、この絵本の特筆すべき点。見返しには、コナラ、クヌギ、マテバシイなどのさまざまなどんぐりや、どんぐりを食べる動物、絵本に登場する水生生物などが描かれている。

どんぐり坊やの大冒険を親子一緒に歌って楽しみながら、自然への興味関心を深めてみてはいかがだろうか。

■妄想が生み出すリアリティ『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』

『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』
作:K・スギャーマ(絵本館)

作風ががらりと変わるのだが、ぜひとも紹介しておきたいのがこちら。大学の卒業制作をもとにつくったいう、スギヤマさんのデビュー作だ。

生まれついての冒険家“K・スギャーマ博士”がノーダリニッチ島への「魂の冒険」の記録をもとに作成した図鑑で、島に棲む奇妙な動物の生態が緻密に描かれている。

K・スギャーマ博士とはスギヤマカナヨさんのことであり、ノーダリニッチ島はスギヤマさんが考えた架空の島。つまりはファンタジー図鑑なのだが、本物の図鑑だと思って買ってしまう人もいるらしい。動物の名前、繊細な絵と詳細な解説、巻末にはABC順の索引―― 見事な想像力で生み出されたリアルな世界がそこにはある。

ポケモンや妖怪ウォッチが好きな子どもはもちろんのこと、想像の世界に身をゆだねてストレスフルな毎日から解放されたい大人もハマれる一冊。植物図鑑も出版されており、動物図鑑で紹介されていた動物が棲みつく植物なども登場するので、合わせて楽しみたい。

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筆者がスギヤマカナヨさんにインタビューしたのは2010年。スギヤマカナヨさんの下のお子さんは当時2歳だった。「時間が自由になる仕事をしているから」という理由で保育園には入れず、日中はしっかり子どもと向き合い、仕事は睡眠時間を削って夜中にしていたというスーパーお母さんなのだが、『おかあさんは おこりんぼうせいじん』(PHP研究所)や『おかあさん、すごい!』(赤ちゃんとママ社)あたりでは、完璧ではないけれど子どもたちのために奮闘する母親像を描いていて、なんだかちょっとほっとさせられる。

ちなみに筆者の息子(2歳)の最近のお気に入りは、向かい合ってごはんを食べるコミュニケーション絵本『いっしょにごはん』(くもん出版)。絵本にはこんな楽しみ方もあったのか!と思わせてくれる一冊だ。

小中学校での出張授業や講演、ワークショップ等の活動にも積極的なスギヤマカナヨさん。今後も絵本の可能性をますます広げていってくれるに違いない。

加治佐 志津
ミキハウスで販売職、大手新聞社系編集部で新聞その他紙媒体の企画・編集、サイバーエージェントでコンテンツディレクター等を経て、2009年よりフリーランスに。絵本と子育てをテーマに取材・執筆を続ける。これまでにインタビューした絵本作家は100人超。家族は漫画家の夫と2013年生まれの息子。趣味の書道は初等科師範。

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