【インタビュー】なぜ「ろくでなし子」は「女性器アート」を作るのか?(下)

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2015年04月12日 12:01  弁護士ドットコム

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「わいせつなデータ」を不特定多数に送信したとして、わいせつ電磁的記録送信などの罪で起訴された芸術家「ろくでなし子」こと、五十嵐恵(いがらし・めぐみ)さん。4月15日の初公判を控え、弁護士ドットコムニュースでは単独のロングインタビューをおこなった。


【関連記事:【インタビュー】なぜ「ろくでなし子」は「女性器アート」を作るのか?(上)】



インタビューの前半では、マンガ家「ろくでなし子」がどんなきっかけで誕生し、どんな経緯で「女性器をモチーフにしたアーティスト」として活動するようになったのかを語ってもらった。



後半は、彼女が逮捕されるきっかけとなった「3Dデータ」はいったい何だったのか、なぜそんなものを作ったのか、という今回の事件の背景を中心に話を聞いた。(取材・構成:渡邉一樹)



●3Dスキャンなら「大きいもの」が作れる


――アーティストとしての活動が増えていって・・・そこから次はどんな展開があったんですか?



アーティストとして色々、作品をつくっていたんですが、まんこは元のサイズが小さいものなので、それをかたどった作品は、どうしてもこぢんまりしたサイズで、インパクトも小さくなるんですよ。



たとえば、シャンデリアみたいな「シャンデビラ」っていう作品があるんですけど、アクリルをたくさん使って、18万円もかかったのに、想像よりみすぼらしかったんです。「こんなにお金をかけてこれ?」みたいにがっかりした。



それで、最初から大きなサイズのものが作れないかなって考えたときに、たどり着いたのが3Dスキャンだったんです。それなら読み取ったデータの図面をパソコンで拡大して、大きなサイズのものが作れますから。



●「アート・プロジェクト」の賛同者をネットで募った


――それで3Dスキャンを試してみたんですか?



そうですね。でも、私は3Dスキャナも3Dプリンタも、何も持っていません。だから、アート・プロジェクトとして、ネットでお金を募って作品をつくろうと思いました。いわゆる「クラウドファンディング」の仕組みですね。その最初のプロジェクトが、まんこの形のボートを作って川下りをする「マンボート・プロジェクト」です。



昔だったら、超お金持ちの貴族が1人でパトロンになったりしていたのだと思いますが、ネットで幅広く募集すると一人の負担が少ないし、成功したら、みんなの協力で作品をつくって、一緒にイベントをして、みんなで楽しめるプロジェクトになります。



そして、「CAMPFIRE」というサイトで寄付を募ったんですけど、そこでは何らかのお礼がないといけないルールだったので、どうせスキャンするんだったら、そのデータを送ったらいいかなって思ったんです。



単なる記念ではなくて、それを受け取った人がそのデータを使って作品づくりをしたらいいなという願いも込めていました。



アート・プロジェクトでは、それを企画したアーティスト自身が想定もしていなかったアートが、参加者の中から偶発的に生まれてくることもあるんですね。そういう願いを込めたんです。



そういった意味で、クラウドファンディングを使って賛同者を募ることも、そういう人たちの思いを受けてボートを作ることも、データを受け取った人の反応も含めて、アート・プロジェクトの一環なんですよ。そういうコンセプトのプロジェクトだったんです。



●「笑えるものを作りたかった」


――でも、そのデータ単独は「わいせつ」ではないんですか?



たとえば、女性器を切り取ってそのまんま出しても、それは単なる「標本」じゃないですか。標本に欲情するなんて、よっぽどの変態だと思いますよ。



わたしが送ったデータはスキャンしたCADの図面ですから、標本ではありませんが、図面に欲情というのも、普通しませんよね?



「わいせつ」っていうのは、そういう文脈があって、いやらしさを催してこそのものだと思います。



――今回のプロジェクトについて、誰かを欲情させるような文脈は存在しなかったんですか?



一切ないんで・・・。だってボートですよ? 黄色いんですよ?(苦笑)。



作品からは、エロの匂いとか雰囲気を、むしろ排除していました。笑えるものを作りたかったんです。こんなもので男のチンコを立たせたくないと思っていました。



むしろ、エロいモノを見たいんだったら、アキバのエロデパートとか、ああいう所に行けば良いんじゃないの、みたいな感じですよね。



●リアルじゃない!


あと、ずっと言いたかったんですけど! 「写真」と「3Dスキャナで作った数値データの図面」とを勘違いしている人が、すごく多いんですよね。



データがホンモノそっくりだみたいに勘違いしている人もいるみたいですが、ホンモノとは全然違いますから。わたしの実物まんこはもっと黒いし!(笑)



法廷でもホンモノそっくりかどうか、見比べてほしいです。絶対違うから(笑)。



――データを3Dプリンタで出力すると、リアルになるんじゃないんですか?



3Dプリンタで作れるのは、固い樹脂製で単色のそっけないものです。何も知らない人がみたら、地形図みたいだと思うんじゃないでしょうか。樹脂を積み重ねてプリントするんで、ちょうど等高線みたいな感じもありますし・・・。



「これをエロい目的に使えるの?」って思いますけど。



●表現規制には反対


――ろくでなし子さんの作品を「見たくない」という人たちもいると思いますが、そういう人たちについては?



私自身の作品について、不快だとか、こんなモノ見せやがって気持ち悪いとか非難されることはあります。でも、私が無理矢理見せているということはありません。私の個展やブログを見に来たり、私の名前でグーグル画像検索をしたりしないかぎりは、目に入らない。わざわざ見に来ないと、見られないものだと思います。



どうしても見たくない人が、無理に見せつけられることがないように、ゾーニングはある程度必要だと思います。



でも、表現規制には反対です。



どんな表現でも、誰かは必ず傷つくと思います。たとえば、「今日、良い天気でした」とツイッターでつぶやくだけでも、豪雪地帯の人が「こっちは大変なのに不謹慎だ」と思うかもしれない。何を言っても何かで傷つく人は必ずいるから、それを言っていたらキリがない。



私自身も、たとえば子どもの登場人物が性的対象にされているようなマンガなんかは、見ていて腹立たしくなることもあります。でも、誰かの頭の中で空想した創作物まで規制されてしまうのは、絶対に良くない。



●「くっだらねー」で正気に戻れた


――データが「わいせつ」だとして逮捕されたときは、どう感じましたか?



逮捕された直後は、超不安でしたね。家族とも、誰とも連絡を取れなかったんですよ。



私は留置場で「ニーゼロ」って呼ばれていたんですけど、同じ留置場にいた人に「ニーゼロの罪だったら、罰金をたぶん15万ぐらい払えばすぐ出られるよ」って言われて、それなら・・・って感じたこともありました。でも、罪を認めちゃったら自分の活動を否定することになって、日本で活動できなくなったらアメリカとかに行くしかないのかなって思って、悩んでいました。



それで、当番弁護士を呼んでもらって、逮捕された翌日の夜に接見に来てくれた須見健矢弁護士に、必死で相談したんです。ところが「わたしはまんこのアートを作っていて・・・」と言っても、最初は「ポカーン」とされた。



それで、う〜んと頭を抱えて、言葉を言い換えて、一生懸命説明をしていったら、だいたい伝えたところで、須見弁護士が「くっだらねー」みたいな感じで、「ぷーっ」て吹いたんです。



そのときまで、すっごい必死だったんですけど、その脱力した笑いで正気に戻れたんですよ。やっぱりこんなことで捕まってるのはおかしいよって。それから私はずっと「わいせつじゃない」と言い続けています。



●公の場でしっかりと議論を


――裁判については、どんな風に考えているんですか?



いままでは、「まんこの扱いがおかしいよ」って言っても、みんな無視するか、馬鹿にするか、けなすかで、何も問題にされなかった。でも今回はようやく、裁判という形ではありますが、まんこについて公の場で議論ができることになりました。



ツイッターを見ていると、「まんこ=エロ、だからダメに決まっているでしょ。以上」っていう人があふれていますが、同時に、そういう風には考えない人がたくさんいることも感じています。



これがはたして「わいせつ」なのか。「わいせつ」っていったい何なのか。公の場でしっかりと議論をしたいと思います。


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(弁護士ドットコムニュース)



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