高田漣が教えてくれる、高田渡の音楽的豊かさーー父子の絆を感じさせるアルバム2枚を聴く

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2015年04月20日 14:41  リアルサウンド

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高田漣が教える、高田渡の音楽

 2005年4月16日に56歳という若さで高田渡がこの世を去ってから早10年。そのタイミングで、高田渡のベスト盤『イキテル・ソング〜オールタイム・ベスト〜』と、彼の息子である高田漣によるトリビュート・アルバム『コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜』がリリースされた。この2枚は、ともに音楽の道を歩んだ父子のそれぞれの音楽人生を感じさせるかのような関係性のアルバムだ。


 高田渡の『イキテル・ソング〜オールタイム・ベスト〜』は、その名の通り初のオールタイム・ベスト盤。選曲、監修は高田漣によるものだ。高田渡といえば世間的には「自衛隊に入ろう」で知られる「フォーク歌手」だろうが、高田漣によってここにまとめられた高田渡というミュージシャンはとてもモダンだ。「フォーク歌手」という先入観を吹き飛ばすには充分だろう。


 たとえば「この世に住む家とてなく」や「鉱夫の祈り」のギター・プレイ、「自転車にのって」のバンド演奏はカントリー・テイスト。また、「私は私よ」や「私の青空」は、管楽器も入ったニューオリンズ風味のバンド演奏だ。特に「私の青空」では、間奏での「柳田ヒロさんよろしく」「もっと陽気に」「もっと力強く」といった高田渡の声がユーモラス。「ヴァーボン・ストリート・ブルース」はスウィング・ジャズで、高田渡もひときわ力強く歌っている。「フィッシング・オン・サンデー」ではスティールパンも響く。この楽曲でピアノとアコーディオンを弾いているのはヴァン・ダイク・パークスだ。


 「当世平和節」は、添田知道の「東京節」などを下敷きに世相を歌ったものだ。添田唖蝉坊や添田知道のような明治〜大正演歌の要素もしっかりと収録されている。このベスト盤では、高田渡のアメリカ志向が明確になっており、同時に彼が過去の日本へアプローチしていたことも記録されているのだ。


 こうした楽曲群は、高田渡の音楽性の豊かさをしっかりと教えてくれる。また、歌手としての高田渡は飄々としたイメージがあるが、彼のヴォーカルの表現の幅広さも実感させてくれる。


 「コーヒーブルース」は改めて聴くと非常に洗練された楽曲だ。コード進行といい、歌詞を語りっぽくするタイミングといい、まったく無駄のない弾き語りである。1971年の名盤「ごあいさつ」の収録曲はどれもまぶしい。


 最後は代表曲「生活の柄」のライヴ・ヴァージョン。このベスト盤には、やはり代表曲である「自衛隊に入ろう」もしっかりと収録されている。ここでの「自衛隊に入ろう」の冒頭には、「非常に誤解されてる歌でございます」というMCが収録されている。この楽曲の持つアイロニーを明確に伝えているヴァージョンだ。


 同時に、やはり代表曲と言えるであろう「鎮静剤」や「値上げ」といった楽曲を収録していない大胆さもこのベスト盤の特徴だ。それは、前述したような高田漣による編集の意図ゆえだろう。このベスト盤を入門編として、ぜひオリジナル・アルバムにも触れてほしい。


 高田漣は、Yellow Magic Orchestraのライヴ・サポートをしたり、メンバーの関連作品にも参加したりと、シーンで大活躍しているマルチ弦楽器奏者だ。その高田漣による高田渡のトリビュート・アルバム『コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜』は、まず声質の違いに驚くことになった。父親に比べるとかなりソフトなヴォーカルなのだ。


 そしてサウンド面でも大胆な解釈を展開している。「フィッシング・オン・サンデー」はアコースティック・ギターによる弾き語りで、ブルースのような渋い味わいへと変貌している。ここでの演奏のニュアンスの豊かさ、複雑さには唸った。「コーヒーブルース」もストレートなカヴァーのようだが、原曲以上にブルースだ。「ブラザー軒」も弦の響きの寂寥感が歌を浮き立たせ、原曲とまるで違う味わいになっている。「生活の柄」での繊細な弦楽器のアレンジは、まさにマルチ弦楽器奏者である高田漣らしい。「おなじみの短い手紙」での揺らぐかのようなギターは、マルチ弦楽器奏者としての真骨頂。高田漣のヴォーカルの魅力をも引き出している。


 また、『イキテル・ソング〜オールタイム・ベスト〜』には収録されていない高田渡の楽曲のカヴァーも「コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜」には複数あり、そのなかでも最後に収録されている「くつが一足あったなら」は7分にも及ぶ。『イキテル・ソング〜オールタイム・ベスト〜』の選曲がサウンドを重視しているとするなら、『コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜』の選曲は「歌」を重視しているように感じられた。高田漣の歌は、そう感じさせるほど深みがあるのだ。


 高田渡と高田漣は父子の関係であり、2006年には共演盤『27/03/03』もリリースしているが、音楽的には同じ道を歩んできたわけではない。しかし高田漣がこうして父に捧げるベスト盤とトリビュート・アルバムを制作したことは、ともにミュージシャンである父子の関係において理想的な「親孝行」と感じられた。


(文=宗像明将)



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