福島第一原子力発電所の事故で、日本においては原子力発電という危うい技術の安全神話が崩壊したわけだが、核反応には原子力発電に使われる「核分裂」のほかにもうひとつ「核融合」という種類がある。この核融合もまた、半世紀以上前から強力なエネルギー源として活用することを目指して研究が進められている。
「核」という言葉に拒否反応を起こすひとも多いだろうが、核融合は核分裂とはちがう作用だ。核分裂では重い原子が分裂して別の物質に変わることでエネルギーを出すが、核融合では軽い物質がくっつく際にエネルギーを出す。
核分裂よりも発生する放射性物質は少なく、また原理的に暴走することがなく、燃料は無尽蔵に入手可能だといわれていて、以前から将来のエネルギー源として期待されてきたが、その実現は非常に難しく、まだ実用には至っていない。
しかし、MIT(アメリカ・マサチューセッツ工科大学)が核融合炉の現実性を一気に高めるという研究発表を行った。同大学のウェブサイトで紹介されている。
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10年後に核融合炉が実用化される?
核融合の科学者が聞き飽きた定番ジョークにこういうものがある。「核融合炉の実用化にはあと30年かかる。ただし、いつまでたっても”あと30年”のままだろうがね」というものだ」という一文でこのMITの記事ははじまる。しかし、ついにその期間が“10年”に短縮されそうだというのだ。
その進化の大きなカギとなるのが新しい磁場技術だ。希土類-バリウム-銅酸化物(REBCO)の超伝導テープを使うことで、強力な磁場を作り出すことができる。それが、超高温のプラズマを封じ込めることを可能にし、従来想定されていたよりもずっと小型の核融合炉を実現するというのだ。小型にできるということは、より低コストで、短い期間で建設できるようになることを意味する。
核融合においては、重水素などの物質をたいへんな高温(1億度以上)に熱しないといけない。その状態では物質はプラズマ状態(電荷を帯びたガス)になる。強力な磁場を形成することができれば、その超高温のプラズマを、核融合炉の中心に封じ込めておくことができる。逆に、それができなければ核融合炉は実現しないといっていいだろう。だから磁場の形成が重要なのだ。
そして、核融合反応の効果は、磁場の強さの4乗に比例して大きくなるという。したがって、磁場が倍になれば、核融合反応の強さは16倍になるというのだ! 今回採用される超伝導物質が作る磁場は、従来の倍の強さまではいかないものの、核融合反応を従来の10倍にまで高めるだけの強さはあるという。
低コストで建造可能
現在計画されている世界最大の核融合炉はフランスに建造中のITERだが、従来の超伝導技術をもとに設計されているため、その製造コストは400億ドルにのぼる。MITが計画している新し核融合炉は、その半分の直径で、はるかに少ないコストと短い期間で建設でき、それでいて同等のエネルギーを取り出すことができるという。
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また、MITが開発した新しい核融合炉は、炉全体を解体することなくドーナツ型の反応炉から核融合コアを取り出せるようにして、仕様変更を容易にしたり、ブランケットと呼ばれる部分に固体ではなく液体の材料を使うことで、劣化したときの交換を容易にしたりというアイディアが盛り込まれている。
いま世界にある核融合の実験炉はすべて数秒間しか作動できないが、このMIT開発の新しい炉はITERと同様に連続運転が可能になる。現時点の設計では、運転に必要な電力の3倍の電力を出力できるにとどまるが、これは5〜6倍に改善できる可能性があるという。
核融合の実用化に関しては、まだ議論が必要だろう。前述のとおり原子力と比べると核廃棄物の排出は少なく、メルトダウンも起こりえないため、より安全ではあるようだ。しかし、多少なりとも核廃棄物が出ることは間違いない。また、建設にたいへんなコストがかかるいっぽうで運用が難しいので、作ったものの不具合が多くて運転できないなどということになったときの損失は大きいだろう。
しかし、将来的には原子力に代わるエネルギー源となる技術かもしれない。
【参考・画像】
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※MIT News
※国立研究開発法人 日本原子力開発機構 核融合研究開発部門
※一般財団法人 高度情報科学技術研究機構