広がらない日本での理解
東京女子医科大学放射線腫瘍学講座教授 唐澤久美子先生がん治療の1つの選択肢である「放射線治療」――「世界的にはがん患者の50%以上、米国では65%以上が放射線治療を受けていますが、日本ではまだ30%前後と大きく遅れている現状にあります。その理由として、日本人が放射線に対し、“被ばく”“障害”といった拒否的感情を抱いていることなどが考えられます」と語るのは東京女子医科大学放射線腫瘍学講座教授の唐澤久美子先生です。
日本放射線腫瘍学会はこのほど、放射線治療に関する正しい知識を広めるため、「患者さんと家族のための放射線治療Q&A 2015年版」を発売。それに先立って11月24日に開催されたメディアセミナー(主催:金原出版株式会社)では、同著の編集責任者を務めた唐澤先生が、私たちが抱える放射線治療の「なぜ?」を解説しました。その内容を紹介します。
Q.放射線治療とは?
A. さまざまな放射線を用いて病気、主にがんを治療する方法です。使われる放射線には、エックス線、ガンマ線、粒子線などがあります。
がん治療には、手術、放射線治療、薬物療法の3つの柱がありますが、1つの方法のみで治療するケースは少なく、「手術+放射線+薬物療法」「放射線+薬物療法」など組み合わせて治療する集学的治療が一般的です。
近年は、肺がん、前立腺がん、乳がん、子宮がんといった放射線治療が有用ながんの罹患が増加しています。今後、高齢化が進むにつれて、高齢者に多い肺がんや前立腺がんはさらに増えると予測され、放射線治療の需要が高まると考えられます。
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Q.放射線は体に悪いのでは?
A. 放射線は太古から地球上にあります。体に悪い食生活や禁煙などの生活習慣と比べると、放射線治療の悪影響はずっと少ないといえます。医療被ばくの線量は診断や自然放射線に比べずっと多いのですが、放射線被ばくを伴う医療行為の利益のほうが勝っていると判断できる場合に実施されます。
なお、医療被ばくは医師の裁量に任されていて、線量限度はありません。
Q.放射線治療のメリットは?
A. まず、臓器の温存が挙げられます。手術によるがんの切除は、がんのあった臓器をなくすということです。体に不必要な臓器はないはずです。
また、がんの手術は、体にとって“大けが”です。放射線治療では、正常細胞は放射線を感じにくく、がん細胞が選択的に死ぬ仕組みとなっていますので、体への負担が少ないといえます。
Q.良い放射線治療施設の見分け方は?
A. 日本放射線腫瘍学会の認定施設であること、同学会放射線治療専門医が常勤していること、専従の医学物理士が常勤していること、放射線治療専門放射線技師が従事していること、を確認することをお勧めします。
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- 「患者さんと家族のための放射線治療Q&A 2015年版」(日本放射線腫瘍学会)
- 日本放射線腫瘍学会 ウェブサイト