ストレスチェック制度始まる これからのメンタルヘルスケアのあるべき姿とは

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2015年12月04日 14:10  QLife(キューライフ)

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メンタルヘルス原因の休職者の約半数が再発

 12月1日より、従業員50人以上の事業所に対し、1年に1回の「ストレスチェック」を義務付ける制度が始まりました。近年、メンタルヘルス不調による、休職あるいは退職した労働者の割合が増加するとともに、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合も増加。企業側もメンタルヘルスケアについて真剣に考えなくてはならない時期に来ています。

 くわえて、メンタルヘルスの不調で休職した場合、復職後の再発率が高いことがわかっています。身体的な病気が原因の休職の場合、復職後に8割が「ほとんど再発していない」のに対して、メンタルヘルスが原因の休職の場合「ほとんど再発していない」のは5割。約半数が何らかの形で再発を繰り返しているのです。

 こうした背景を受けて、近年、うつ病治療において、症状の改善だけでなく、社会機能回復(うつ病になる以前と同様に職場や家庭、学校などにおいて社会的な役割を果たすことができる状態への回復)までを含める考え方が重要視されています。

 11月24日、都内で「うつ病治療の真のゴールを目指して」と題したセミナー(主催:ファイザー株式会社)が開催され、自身もうつ病経験者で現在も治療中である、インターネット認知行動療法サービス U2plus編集長の東藤泰宏氏と、国立精神・神経医療研究センター 理事長の樋口輝彦先生が、うつ病治療と社会復帰について講演しました。

経験者が語る、社会復帰の難しさ

U2plus編集長の東藤泰宏氏

 東藤さんが、過労のためにうつ病を発症したのは2008年。勤め先を退職後、郷里の実家での療養中、リハビリを行わなければならないと考えた東藤さんは、アルバイトを始めました。しかし、「毎日駅のベンチで出社しようか休もうかと悩んでいた。体力と集中力がなかったため、ランチの時間は昼寝にあてていた。それでも仕事をこなしているうちに、仕事量を増やされ、終電で帰る日々に。終わりのないマラソンをしている気分だった」(東藤さん)

 当時を振り返り、自身の苦労を語った東藤さんは、うつ病を「(心の)疲労骨折」にたとえます。「たとえばスポーツ選手が足を骨折したら、すぐには走れないし、選手に戻るためには、骨折が治ったあとにリハビリが必要。うつ病でも同じこと。症状が改善しても、そのあと社会復帰するためには、リハビリが必要になる」と、東藤さん。

 「スポーツ選手ならば骨折したときは、リハビリ後、練習試合を経て公式戦に出るという流れがある。しかし、会社員では、『会社に戻ること』と『会社で働けるようトレーニングをすること』、『パフォーマンスを上げること』のどれをいつまでに目指すのかが曖昧になっていると感じる。うつ病の場合では、受け入れ側(会社)が、この人はリハビリ中で負荷を強めていけばいいのか、以前とほぼ同じ状態を求めていいのか、結果にコミットしなければならないのか(患者の状態)を判断する必要がある」(東藤さん)

 東藤さんは、リハビリと社会復帰とを分けて考える必要があるのではないか、また、社会復帰の際、医師と患者と受け入れ側で、患者の回復状態の認識がズレており、それが原因でさまざまな問題が発生しているのではないか、と疑問を投げかけます。

 「社会復帰時は環境の変化を伴うことから、変調をきたす人が多い印象がある。そのため患者はヘルプを出す能力が求められると思う。しかし、本人はこれまでのパフォーマンスを取り戻そうと頑張りすぎてしまうし、そもそもヘルプを出すことは普通の人でも難しい」と、東藤さんは、受け入れる側で、事前にヘルプの段取りや、サポートネットワークを作ることが大事になってくるだろうと話しました。

患者と医師のゴール認識のズレが再発のリスク

国立精神・神経医療研究センター理事長の樋口輝彦先生

 続いて樋口先生から、うつ病における社会機能回復の重要性と、うつ病治療のゴールについてお話をうかがいました。社会機能とは、社会的な役割を実行し、成し遂げるための個人の能力で、仕事を順調に実行できる、余暇を楽しめる、家族や親戚との関係を保てることなどをいいます。うつ病では抑うつや不安などの症状のほかに、こうした社会機能の障害も伴います。

 「これまでうつ病は、症状がなくなれば社会復帰できる病気だと考えられていた。しかし、症状が改善しただけで職場復帰した人の多くが再発しており、そんな簡単に社会復帰できるような病気ではないことが近年わかってきた。社会機能の回復やリハビリの重要性が、ようやく最近になって認識されてきた」(樋口先生)

 「一般的にうつ病は、症状が改善すると、社会機能とQOL(生活の質)も同じように改善すると思われがちだが、症状が改善したあとも、社会機能の障害は継続する」と、樋口先生。

 樋口先生は、うつ病患者が「寛解した」と判断するための重要な要素について、海外のデータを紹介。データによると、患者は「前向きになる」「いつもの自分」「職場などで通常レベルまで機能できる」と、社会機能の回復を重視していました。しかし、医師は症状の改善を重視する傾向があるといいます。樋口先生は、医師はそれだけでなく、家庭・学校・職場で「病前の状況に戻ること」も治療のゴールと考えることが必要だと指摘。さらに、「患者と医師の考え方にずれがあるとゴールまで走っていけない」ため、治療ゴールを患者・医師間で共有することが重要と語りました。

 「また、産業医の大半は内科の医師。身体の病気があって休職し、復職した人は再発しない人が多いため、メンタルヘルスの人も同じだと考えてしまいがち。逆に、100%戻ってない人には100%まで戻してから復職を、となってしまう。その結果、復職した本人は頑張らなくてはと考え無理をし、すぐに残業が始まって、ダウンしてしまうことになる。だから、そういったことをどうやってリカバリーしていくかを、私たち(医師)は職場サイドと話し合って考えていく必要がある」(樋口先生)

 今回施行されたストレスチェック制度は、労働者に自身のストレスへの気づきを促すとともに、職場改善につなげ、メンタルヘルス不調を未然に防止すること(一次予防)を主な目的としています。しかし、精神科医・心療内科を専門とする産業医が足りていないこと、ストレスが高い社員が医師との面談を望まない場合のフォローをどうすべきか、ストレスチェック制度を形だけ実施して体裁を整える事業所が出てくる可能性など、課題は多く残されています。今後、こうした課題を踏まえつつ、「ストレスチェック制度」を実のあるものしていくことが求められます。(QLife編集部)

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  • 前つぶやきの続き…制度を悪用する方法論で炎上騒ぎも起きてる…大人の虐めは陰湿だ…本当に仕事の出来が悪い訳ぢゃ無く出来が好いので恰好の餌食って事も実際に起きてる
    • イイネ!10
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