ガラスはもろい? それは、どんなガラスの話だい?
筆者は、取材で自動車のサイドウインドウを、かなづちでぶっ叩いてみた経験がある。真ん中あたりを叩いているかぎり、渾身の力で叩いても割れることはなかった。
強化ガラスというのはそれほど強いのだ。ちなみにどんな感じかというと、“ベヨン”としなって力を吸収してしまう。物理的に“固い”というわけではないのだ。
ところが、カメラ用交換レンズメーカーとして有名なシグマが、そんな強化ガラスよりも、はるかに強いというガラスを採用した、保護フィルター(レンズプロテクター)を発表した。
素材内部まで強化
あまりカメラに詳しくない方のために説明しておこう。通常、一眼レフカメラのレンズには、フィルターを装着することができるようになっている。
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それで写真に色をつけたり、シャをかけたりと、光学的な効果を持たせることができるのだが、特に効果を出したいわけではない場合でも、保護フィルターをつけるのが一般的だ。それは高価なレンズ本体を守るためだ。
従来、高強度保護フィルターと呼ばれるものには、化学強化ガラスが使われていた。これは化学処理によって表面を強化したものだ。
ところが、今回シグマが発表した保護フィルターは、クリアガラスセラミックという素材だ。
これは、ガラス内部に、スピネルと呼ばれる鉱物の一種の微結晶を、熱処理によって析出させることで、素材内部まで、まんべんなく均一に強化するものだという。
これによって、化学強化ガラス以上の硬度と、サファイアクリスタルガラス以上の柔軟性をあわせもつ素材になっている。
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また、キズが入った場合も、ヒビが入りづらい特性を備え、ガラスが飛び散る可能性を低減しているという。
下の写真は、従来のプロテクター(上)とクリアガラスセラミック(下)の比較だ。
航空・宇宙産業用素材の透過率を向上
クリアガラスセラミックは、航空・宇宙産業などでも用いられるガラスセラミック(結晶化ガラス)を使用し、光学機器に使用できるまでの透過率を実現した新素材だという。
これは、ガラス素材メーカー・株式会社オハラの新開発素材をいち早く採用したものだ。
このクリアガラスセラミックを使うことで、同じ厚さの化学強化ガラスを使用した高強度保護フィルターと比べて3倍以上、従来の通常の保護フィルターと比べれば10倍以上の強度を誇るという。
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実際は、強度がある素材を使用しているため、保護フィルターとしての強度は従来以上を実現しつつ、ガラス厚を最大で50%薄くし、軽量化を図っている。
この新製品の名前は『WR CERAMIC PROTECTOR』。さすがに、従来の『WR PROTECTOR』の1.5倍以上の価格になっているが、口径の大きい高価なレンズなどの場合は特に安心感が高いだろう。
こういった強度の高いガラスが出てくれば、これまでガラスが使えなかった場所にも、ガラスが使えるようになってくるかもしれない。
ガラスというのも、一見すると同じようで、さまざまな技術革新がある分野のようだ。
【参考・画像】
※ シグマ
【動画】
※ SIGMA WR CERAMIC PROTECTOR – YouTube