「富士山帰属問題」と観光PR合戦。山梨と静岡、果てしなき攻防

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2016年01月02日 18:10  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

2015年11月21日、インドネシアの首都ジャカルタ。

高級ショッピングモール『セントラル・パークモール』にて、現地市民の日本旅行を促すための『ジャパン・トラベルフェア』が開催された。このイベントには日系旅行業者や日本の各自治体観光局がブースを出し、“おらが町”の魅力を大々的にアピールした。

その中でも突出した存在感を発揮したのが、甲府市のブースだった。

甲府市、というより山梨県下の自治体は、外国人旅客の誘致に熱心だ。山梨にはまず富士山があり、それに伴う自然があり、特産物もある。そのPR活動は、まさに官民合わせた一大事業となっている。

だがそれは、隣接する静岡県との“富士山戦争”を再燃させるものだった。

富士を仰ぐ両県の明暗

富士山頂の行政区域はどこ?

実はこの問題は、未だ決着がついていない。公式には“境界未定地”となっているのだ。

これは日本独特の「和を以て貴しとなす」発想によるもの、ではない。両県の住民感情に配慮した結果だ。日本の象徴である富士山は、そうであるが故に「山頂をどこの行政区にするのか」を決めることができないのだ。

例えば去年、国土地理院製作の電子地図が山梨県で問題になった。富士山頂の住所が「静岡県富士宮市」になっていたからだ。これに対して、山梨県の横内正明知事(当時)が、地理院への抗議とも取れる声明を発表している。

富士山入山料の問題も、大いに揉めた。観光収入を念頭に置く山梨県と、環境保護を全面に出す静岡県。金額の調整、山開きの日程、入山料徴収を任意にするか強制にするかなどで、毎年議論を繰り広げている。

水と油のようなその思惑は、観光政策の違いにも表れている。

観光客誘致に大変熱心な山梨県に比べ、静岡県はそうしたことに重きを置かないのが現状だ。これには静岡県が、日本有数の重工業地帯だということが影響している。

浜松市にはスズキとヤマハ系列企業の本社があり、静岡市にはタミヤやハセガワ、バンダイがある。

三菱電機のエアコン製造工場も建っているし、袋井市にはポーラが進出している。税収の面では、山梨県より遥かに有利な立ち位置にいる。

だが、“富士山戦争”ではそれが静岡県にとってマイナスとなっている。

遅れを取る静岡県

山梨県の観光PRは、「富士山は山梨のもの」というイメージを全国の人々に印象付けている。

現に、一般人の富士登山で最もポピュラーな登山口は、山梨県側の吉田ルートだ。この登山道は、静岡県下である富士宮ルートの2倍以上もの登山客を集めている。これはやはり、山梨県が富士山の観光整備に心血を注いだという証明である。

そういう意味で、もはや「富士山は山梨のもの」になっている。富士山帰属問題の中身は、両県が総力を以って繰り広げる「観光PR合戦」なのだ。

だが一方で、

「山梨県とは“合戦”になっていません。」

と語るのは、静岡県文化観光部の久保田豪氏だ。

<今は静岡県の一方的敗北状況です。商業観光一辺倒の山梨県に対して、静岡県は環境保護の面で一矢報いていますが、そこから一歩踏み出た重層的な施策では、お手上げの状態です。>

久保田氏は静岡県の観光セクション代表として、ジャカルタ市内で行われたトラベルフェアに参加している。

だが実は、静岡県ないし静岡県下の自治体の独立ブースは、そこでは設けられなかった。久保田氏は他県合同のブースで、静岡県をPRする業務に従事していた。

ジャパン・トラベルフェア(澤田オフィス)

甲府市が独立ブースを出し、樋口雄一甲府市長が自らパンフレットを配っていたその横で、静岡県は“富士山見物のオマケ”という存在感しか発揮できなかったのだ。

両県の観光戦略の差は、大きく開いている。

地理的条件の優位

<一番考えさせられたのは、伊豆の件です。トラベルフェアでは、伊豆に関して質問を受けることは一度もありませんでした。>

伊豆といえば、東海道有数の観光地である。だが、日本国外での伊豆の知名度は、まるでないに等しい。東海道新幹線の停車駅があるにも関わらず、だ。

だが、トラベルフェアが閉幕したあとに催された、地元旅行業者とのB2B商談会では伊豆に関する質問が相次いだという。インドネシア側の業者にして見れば、伊豆を含んだ東海道観光ルートは新鮮味があったのだ。

そこで今後は、「日本一早く開花する桜」として知られる『河津桜』を大々的に宣伝し、そこを起点に下田、土肥、そして駿河湾フェリーでの富士山見物を経て、清水に抜ける観光ルートを整備していきたいという久保田氏の話である。

また、よく考えれば静岡県下の新幹線駅は『のぞみ』が停車しない。実はこの点は、外国人旅客誘致に対して大きなプラスとなる可能性がある。

JRグループが提供している『ジャパン・レールパス』という商品がある。

新幹線を含めたJRの鉄道を何回でも利用できるというものだが、実は『のぞみ』は対象外なのだ。つまり、東京から大阪までの“ゴールデンルート”を東海道新幹線で行くとしたら、『ジャパン・レールパス』利用では『こだま』と『ひかり』のいずれかになる。

新幹線(澤田オフィス)

現状、外国人旅客の大半が静岡県で停車しているということだ。となると、あとは「ここに寄り道していこう」という気分を喚起できるか否かという問題になる。

このように、「富士山はどちらのもの?」という議論は山梨、静岡両県の観光客誘致活動に直結しているのだ。

東南アジアから日本旅行を目指す人々が増える中、その争いはこれからより激しいものになるだろう。

【画像】

※ まちゃー / PIXTA

このニュースに関するつぶやき

  • まぁどうでもいいじゃないか、私は静岡県民だがやっぱ富士山は“日本のもの”だろ…!?
    • イイネ!20
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