「国民全員の医療ビッグデータ」をビジネスに変えるデンマークに世界が注目

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2016年01月05日 18:10  QLife(キューライフ)

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マイナンバー制度どころじゃない。世界の医療関係者が注目するデンマーク

のどかな風景が広がるデンマークの一都市(Photo By Giuseppe Milo https://www.flickr.com/photos/giuseppemilo/

 日本でいよいよ始まったマイナンバー制度。社会保障と税関連事務の効率化を目指して導入された制度ですが、企業を中心に社内システムの対応遅れが指摘されるなど、私たちがそのメリットを感じるにはまだ時間がかかりそうな情勢です。しかし、日本以外の先進国はほぼすべて同様の制度を導入済で、情報漏えいなどの問題はあるものの、事務手続きの簡略化には大きな効果を上げています。

 その先進国の中でいま、とりわけデンマークが大きな注目を浴びていることをご存知でしょうか?実はデンマークはこういった分野の先駆けであるだけでなく、この制度を活用したとある大胆な取組みで、世界の医療関係者も注目する「医療ビッグデータ大国」なのです。その驚くべき制度と内容をご紹介します。

すべての中核となる「CPR」

日本でいう「マイポータル」にあたる個人用ポータル、borger.dk

 デンマークでは、マイナンバーとほぼ同じ「CPR」という個人番号制度をなんと1968年から開始しています。現在では社会保障など政府と関連する事務手続きだけでなく、希望すれば銀行口座で使用している電子署名を付加し、個人番号カードを銀行のキャッシュカードとしても使えるようにするなど利便性を大きく高めています。その他にも例えば、CPR番号の付与と同時に開設される国民個人専用のポータル「borger.dk」を使えば、引っ越しの手続きがなんと10分程度で完了するそうです。

CPR番号を使った、全国民を対象とする「疾患データベース」と「バイオバンク」

 そして世界の医療関係者が注目するのが、全国民を対象とする「疾患データベース」および「バイオバンク」です。デンマークでは法律により、すべての国民の疾患情報(診療録、薬剤処方の情報など)を、CPR番号に紐づけた形でデータベースに登録するよう、医師に義務づけています(CPR番号に紐づけられてはいますが、このデータベースには個人名等の情報は含まれていません)。このデータベースには、許可された医療関係者はいつでもアクセスでき(もちろん倫理委員会等の査問を受けた後となります)、知りたい疾患の患者が国内のどこにどのくらい存在するのか、担当医師は誰なのか、遺伝的疾患であればその患者の家系についてはどうなのかなど、国内のすべての患者情報を網羅的に得ることができるのです。

 さらに驚くべきはバイオバンクです。こちらも法律で、1981年以降に生まれた全国民について、病院等で受けた検査の際にとられた試料を、決められた施設に保管することが定められています。現在までに保管されている試料の数は約2500万本以上といわれます。この情報もCPR番号に紐づいたかたちでデータベース化され、許可された医療関係者が利用可能なのです。つまりデンマークでは、すべての国民約560万人の医療データが、すぐに臨床研究が可能なかたちで整えられているという、世界にも類を見ない規模の体制がつくられているというわけです。

国民の理解と国家事情が「医療ビッグデータ大国」を生んだ

 これらの制度の目的はもちろん、充実した臨床研究の基盤を整備することで治療法の早期の確立に寄与し、医療費の削減をもたらすことなのですが、国家をあげて体制を構築したのは他に理由があります。すなわち、これらの基盤を外国にも開放し「世界最大の臨床研究フィールド」を提供することで、国家予算にも寄与する知財ビジネスにしていくということです。

 デンマークは他の北欧諸国と同じく、手厚い福祉政策で知られた国です。一方、少子化は克服したものの、日本と同様に今後10年程度で現役世代の中核を占める層がリタイヤするとされており、高齢化にともなう税収減および支出増と向き合わなくてはなりません。現状でも福祉政策を維持するため国民負担率(収入に対する税金等の支払の割合)が7割、消費税率も一律25%となっており、国民にこれ以上の負担を強いることは厳しく、国家としていま持っているリソースを使った新たなビジネスを創造しなければならないという事情があります。

 国民もそのことを理解しています。そして、これまで福祉の充実を着実に実現してきた政府に対しては基本的に信頼感を持っており(OECDの調査で、デンマーク国民の政府への信頼は70%を越えているというデータもあります)、個人データを預けることが効率的な医療福祉政策につながっていることも、さらにそれが国際的にも価値があるということも、政府の広報政策によって周知されています。だからこそ「全国民による医療ビッグデータ」が可能になったともいえるでしょう。人口約560万人の小さな国家ですが、国民全員のデータを利用可能とすれば世界最大級のデータベースとなり、大きな国際競争力を持ちます。実際、その規模と利用のしやすさに着目した日本の企業を含む多くの国際的な製薬会社や医療機器メーカーなどがデンマークに投資を行ない、臨床研究を行っているのです。

 日本ではこうした情報の適切な活用について多くの課題が残ったままである一方、超高齢化や少子化問題の解決にはむしろ積極的な活用が不可欠だともいわれます。デンマークのような体制がベストなのかについては議論があるでしょうが、日本なりのモデルを模索する時期に来ているではないでしょうか。(QLife編集部)

参考リンク

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  • つーか、現状の日本の医療現場じゃ当たり前のデータ共有どころか、病院一つ変えて変更先に今までの検査データを知らせるなり持って行くにも否定的な実状なのに…���顼�áʴ��
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