日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科医の勝俣範之先生に“がん治療の正しい姿”について聞く全6回シリーズ。第4回目は「上手ながんとの付き合い方」について聞きました。(第1回 非常に極論な「がん放置療法」はこちらから)
(この記事は、2015年12月12日に開催された認定NPO法人「オレンジティ」での勝俣先生の講演内容をもとに、QLife編集部が一部再構成しています)
がんと上手に付き合うための3つの「あ」
私は、がんと上手に付き合うための心得として、三つの「あ」を患者さんによくお話します。
- あせらず
- あわてず
- あきらめず
がんと診断されるとみなさん焦ってしまうのです。がんと診断されたから、転移があると言われたからといって、すぐにどうこうなってしまうわけではありません。焦らず、慌てず、落ち着いて、じっくり考えていくことが大事だと思います。そして一番大事なのは「あきらめない」こと。この3つの「あ」を忘れないでいただきたいと思います。
何のために抗がん剤治療を行うのか
私が診た患者さんの話です。
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「がんが再発して転移したけれど、治すためと思って、楽しみなコンサートもキャンセルして、抗がん剤を頑張ってやってきました。けれど、抗がん剤の副作用で体がボロボロになってきました」
再発・転移したがんを治すために治療を優先して、自身の楽しみなこともキャンセルして、でも体がボロボロになっていく。こういった患者さんは結構いらっしゃいます。
「何のために抗がん剤治療をやるのか?」という大きな問題があります。再発・転移がんの場合は、がんとうまく共存していくことを目的に抗がん剤治療をします。がんとは長い闘いになりますから、がん治療を優先させると、どんどん抗がん剤治療を行ってしまいがちです。すると、何のためにがん治療をやっているのかわからなくなってしまう。生活の質を大事にしながら、がんとうまく共存をすることが本当は大事なんですが、そこがなかなか難しいところです。
「再発しました、抗がん剤をしましょう」だけで、何のために抗がん剤をやるのかを言わない医者も多いのが現状です。それはもちろん、生活のためですよね。生活の質を台無しにしてまで、抗がん剤治療はやるものではないと思います。うまくバランスを取っていく、そのためには医療者とよく相談をして欲しいですね。
がんと上手に付き合うための3つのこと
がんと上手に付き合うためには、繰り返しになりますが「生活の質を大切にする」ことが大事です。そして、「正しい情報を知る」こと。知識は力なりと言いますが、がん治療についても知ってほしいです。最後に「良い味方を見つける」こと。一人で戦うのはつらいですし、一人ぼっちということが、がんの患者さんの一番つらいことだとも言われています。家族や患者会でもいいですし、できれば医療者を味方につけて欲しいと思います。お医者さんや看護師さんや薬剤師さん、そのほかにも病院に、がんの相談支援センターがあったりします。そういうところに相談に行って、利用できるものはどんどん利用しちゃいましょう。
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勝俣範之先生 日本医科大学 武蔵小杉病院 腫瘍内科教授
1963年、山梨県富士吉田市生まれ。1988年、富山医科薬科大学医学部卒業。1992年より国立がんセンター中央病院内科レジデント。1997年、国立がんセンター中央病院内科スタッフ。2004年、ハーバード大学生物統計学教室に短期留学。2010年、国立がん研究センター医長。2011年より、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授として赴任。腫瘍内科を立ち上げ、今日に至る。専門は、内科腫瘍学全般、抗がん剤の支持療法、臨床試験、EBM、がんサバイバー支援など。
著書:医療否定本の嘘(扶桑社)、「抗がん剤は効かない」の罪(毎日新聞社)、ほか。
ブログでも情報発信中(http://nkatsuma.blog.fc2.com/)。
取材協力:認定NPO法人オレンジティ 認定NPO法人オレンジティは、女性特有のがん(子宮・卵巣・乳がん)体験者とその家族、支援者とともに活動を通じてよりよい人生を送るためのお手伝いをする、セルフヘルプグループ。2002年から静岡県を中心に活動をつづけており、患者力アップのための定例会、体験者同士が互いの体験・情報を分かち合うおしゃべりルームなどを通じて、体験者のサポートを行っています。お問い合わせは、オレンジティホームページ(http://o-tea.org/)から。
関連リンク
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