【連載】鉄道トリビア 第341回 東海道本線に、旅客列車が1日11本しか走らない謎の線路がある

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2016年02月13日 08:12  マイナビニュース

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2016年3月26日のダイヤ改正で「大阪しなの」が廃止される。「大阪しなの」とは、L特急「ワイドビューしなの」(大阪・名古屋〜長野間)のうち、大阪駅へ乗り入れる列車の通称で、現在は1往復のみ。この「大阪しなの」の走行区間に珍しい線路がある。旅客列車が1日11本、しかも下り列車しか走らない謎の線路だ。


その珍しい区間を市販の時刻表で探してみよう。「JTB時刻表」「JR時刻表」のどちらでもいい。「大阪しなの」で東海道本線の下り線を通る列車は「ワイドビューしなの16号」だ。長野からやって来た「ワイドビューしなの16号」は名古屋駅に17時1分に到着。17時3分に大阪へ向けて発車する。5つの駅を通過して岐阜駅に17時24分着。同駅を17時25分に発車し、次の停車駅は米原駅だ。


途中の駅には「レ」という記号が付いている。これは通過を示す記号だ。岐阜駅から先、西岐阜駅・穂積駅・大垣駅に「レ」マークがある。しかし次の垂井駅は「レ」ではなく「||」となっている。これは「経由なし」という意味。「ワイドビューしなの16号」は、垂井駅を「通過」ではなく「通らない」のだ。その次の関ケ原駅からは「レ」が復活し、柏原駅・近江長岡駅・醒ケ井駅を通過し、米原駅に18時ちょうどに着く。


普通列車はすべて垂井駅に停車するから時刻が記されている。しかし「ワイドビューしなの16号」は垂井駅を「経由しない」。つまり、垂井駅ではこの列車の通過を見ることさえできない。他のページを見ると、「ワイドビューしなの16号」だけでなく、このあたりを走るL特急「しらさぎ」の下り列車8本とL特急「ワイドビューひだ36号」、そして寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」も「||」マークになっている。要するに、東海道本線大垣〜米原間の下り線を通るすべての特急列車が垂井駅を経由しない。


東海道本線の上りのページを見ると、特急列車の垂井駅は「レ」マークになっていて、垂井駅を通過することがわかる。しかし、下り特急列車は姿さえ見せない。じつは、東海道本線大垣〜関ケ原間には、下り列車専用の迂回線路がある。貨物列車と特急列車はすべて迂回する。だから垂井駅を通らないというわけだ。


この迂回用の線路は「新垂井線」とも呼ばれている。なぜこのような線路があるかというと、大垣駅から関ケ原駅へ向かって急勾配となっているためだ。蒸気機関車の時代は、この区間だけ蒸気機関車を増結した。しかし、蒸気機関車を連結したり外したり、勾配を上った後に用済みの機関車を大垣駅へ戻すという作業は手間がかかる。


そこで1944(昭和19)年、勾配を緩やかにした下り列車専用の線路「新垂井線」を作った。勾配を上るための下り線とはややこしいけれど、上の図を見て理解してほしい。この線路を作った理由は、太平洋戦争中の輸送力増強だった。貨車や客車の連結数を増やし、大垣駅と関ケ原駅の機関車の作業をなくす。両駅を通過させてスピードアップするためだった。


「新垂井線」を作ったとき、従来の下り線は廃止され、すべての列車が「新垂井線」を通った。このままだと垂井駅は上り列車専用になってしまう。そこで「新垂井線」にも駅を作った。それが新垂井駅で、「新垂井線」という通称の由来にもなっている。


しかし、垂井駅と新垂井駅は3kmも離れていたため、利用者が少なく、戦後になって垂井駅経由の下り線が復活した。東海道本線の下り普通列車は、垂井駅経由と新垂井駅経由の2系統があったけれど、新垂井駅の利用者が少なかったため、1986年に廃止された。


電気機関車や電車の時代になり、急勾配を克服した後も、「新垂井線」の役割は終わらなかった。この線路は重量貨物列車や特急列車を高速に走らせるために作られた。一方、復活した垂井駅経由の下り線は古い規格の線路で速度制限があった。そこで、貨物列車と特急列車だけは、現在も新垂井線を走っている。つまり「旅客列車が1日11本しか走らない謎の線路」というわけだ。


「大阪しなの」こと「ワイドビューしなの16号」が走らなくなるため、「新垂井線」経由の定期旅客列車は10本になる。うち1本は寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」だから、日中の走行は9本。「新垂井線」の車窓を見られる列車は「しらさぎ」の下り列車と、大阪行の「ワイドビューひだ」だけとなる。特急料金が必要だから、「青春18きっぷ」では乗れない。「乗り鉄」泣かせの区間ともいえそうだ。


(杉山淳一)



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このニュースに関するつぶやき

  • 先につぶやきされた方がおっしゃってますが、新垂井経由が正規の下り東海道本線であり、下り垂井経由は下り専用の「垂井線」という路線です。線路の作り(乗り心地)も異なります。
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