女性特有の病気の治療や検査でも役立つ、放射線を利用した「核医学」とは?

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2016年02月29日 09:32  MAMApicks

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「放射線」は身近に存在していて、「むやみに恐れるのではなく、『正しい知識を持ち、上手に恐れる』ことが大事」と語るのは、東京慈恵会医科大学准教授の内山眞幸(うちやま まゆき)先生。

内山先生は、放射線がヒトの役に立つ側面をもつ「核医学」の専門家でもあります。ママが気になる女性特有の病気においても、放射線を利用して検査や治療を行う「核医学」についてうかがいました。

■放射線は治療や検査にどう使われている?
空気や大地、宇宙や自分自身のカラダの中など、私たちの身近にある放射線(※)、それを利用して検査や治療など医療に役立てているといいます。

※【関連記事】
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「病院で『放射線科』という看板を目にしたことがあると思います。文字通り『放射線を使った検査や治療』をするところで、放射線の特徴を利用して、目に見えない体内の状況を、見えるように画像化することができるのです。」と解説するのは内山先生。


最近ではこの画像化は、放射線だけでなく、MR(磁場)や超音波などでも可能になったため、「放射線科」ではなく「画像診断科」と言われることもあるといいます。

では、放射線を使って具体的にどんな検査や治療が行われているのでしょうか?
「方法としては、『外から放射線を当てる』のと、『放射線を出す放射性物質を体内に入れる』という大きくふたつに分かれます」(内山先生)。

外から当てる場合の代表例はX線で、レントゲン検査などでおなじみでしょう。治療にあたっては、エネルギーがとても高いX線を使い、がん治療に利用されます。

X線を当てるときには、周りの正常な細胞に当たる量を出来るだけ少なくするため、ひとつの方向から当てるのではなく、いろいろな方向から当てて、がん細胞に集中させるようにするそうです。

■放射線を出す物質を飲む?
そして放射性物質を体内に入れる検査や治療が「核医学」と言われるものになります。

「『核医学』とは、放射性物質を飲んだり注射したりと、いろいろな方法で体内に入れて、検査や治療を行う分野です。普通の薬は飲んで体内に入ると、その動きを見ることはできません。でも放射線を出す薬を体内に入れ、その薬が出す微量の放射線を測定する機械で読み取ると『薬が体のどこにどれだけある』ということがわかります。その力を利用して、色々な臓器の機能やがんがどこにあるかを知ることができます。またがんや特定の臓器に取り込まれる薬が放射線を出すと、がんや病気の治療に用いることができます」(内山先生)。

体内に入れる方法のひとつに、「放射線を出す物質をがん細胞のすぐそばに入れる」方法があるそうです。放射性物質が外に出ないように、白金やチタンで閉じ込めて体内に送り込み、がん細胞に放射線を集中的に当てる方法です。(=「密封小線源治療」という)

「たとえば、女性特有の病気である子宮頸がんの場合、放射性物質イリジウムを閉じ込めた粒状のものを、管状の機械を使って子宮に送り込みます。がん細胞のすぐそばに送り込んで、そこでしばらくとどまっていれば、そこからがん細胞に集中的に放射線が当たります。そして一定の時間になったら、また管を通って粒状のものを引き上げるという方法です。抗癌剤治療を同時に行っていれば入院して行いますが、そうでなければ複数回の外来治療で済み、1回1時間半ほどで終わります。」(内山先生)。

■甲状腺がんは「たちのいいがん」
「飲む治療」の代表例は、放射性物質であるヨウ素131による、甲状腺がんの治療だそうです。

甲状腺は首の前にある臓器で、甲状腺ホルモンを作っています。甲状腺ホルモンは、活力を生み出すので、減ってしまったら元気ややる気がなくなってしまいます。甲状腺ホルモンはヨウ素を使ってつくられており、私たちはふだん海藻などの食べ物からヨウ素を摂取して、つねに甲状腺にため込んでいます。

そのような機能をもつ臓器にできるがんが甲状腺がんです。チェルノブイリの事故では、小児の甲状腺がんが増えたことが問題となりましたが、空気中に放出された放射能量が多かったことや、しばらくミルクの配給が停止されず、放射能を含んだミルクを子どもたちが摂取してしまったことなどが原因でした。

福島の事故については、チェルノブイリの事故と比較して放出された放射能量がかなり少なかったことに加え、食品の流通を早い段階から制限したことから、放射線の被ばく量も小さく、事故の影響により甲状腺がんが増えることはない、と考えられています。

ではなぜ、福島では甲状腺の超音波全例検査を行っているのでしょうか?
「これは皆さんの不安を取り除くためです。そもそも甲状腺がんは弱年発症があり小児にも起こるものなので、検査をすれば一定の割合で見つかります」(内山先生)。韓国では、乳がん検査と合わせて甲状腺検査を導入したために、甲状腺がんが多くの方々から見つかっているそうです。

ただ、甲状腺がんは、その95%が「たちのいい」がん、つまり進行がゆっくりで、適切な治療をすればよくなる可能性が高いがんであり、生存率もがんの中で一番高いのだそうです。

「おもな症状としては甲状腺や首のリンパ節が腫れますが、虫歯やかぜでもリンパ節は腫れるので見分けはつきにくいでしょう。虫歯を治療しても違和感があったり、腫れが引かなかったりした場合は念のため受診したほうがいいかもしれません。甲状腺がんは『たちのいい』がんが多いので、適切な治療をすると他のがんに比べ天寿を全うする方が多い病気です。」(内山先生)。

■甲状腺がんをヨウ素131で治すってどういうこと?
ただ、手術して一所懸命がんを取ろうとしても、取りきれないこともあるのがやっかいなところ。また、肺や骨など別のところに転移しているケースもあるといいます。そこで登場するのが、ヨウ素131です。

ちなみに原発事故後に話題になった「安定ヨウ素剤」は、放射性でない、調合されたヨウ素。ヨウ素は甲状腺に集まりますが、その量には上限があるので、甲状腺を安定ヨウ素剤で満たしておけば、ヨウ素131の入る隙がなくなる、というわけです。

では、そのヨウ素131を甲状腺がんの治療に使うとはどういうことなのでしょうか?
「甲状腺がんの細胞も、甲状腺の正常な細胞と同じようにヨウ素を取り込む性質があります。ですので、ヨウ素131を飲むと(カプセルにしたものを飲みます)、がん細胞に集まります。そこから放射線が飛んで、がん細胞をやっつけるのです」(内山先生)。

■放射線を恐れるあまり本末転倒とならないために
医療の世界で利用されている放射線の一部をご紹介しましたが、それでもやっぱりそれはそれで、汚染された空気や食品が心配という人もいるでしょう。この点についても内山先生にきいてみました。

「今の段階で避難指示が出ている地域以外、人体に影響のある量になるとは考えにくく、ごくふつうに暮らすことにまったく問題はありません」。

何より内山先生は、放射線の問題以上に「恐怖症」による被害を懸念されていました。チェルノブイリ事故のときには、ヨーロッパの人々のなかには、一歩も外に出なかったり、缶詰だけしか食べなかったり、そんな生活が辛くお酒やたばこに頼ったりと、多くの方が「恐怖症」に陥ってしまったそうです。悲しいことに、自殺という結果に至った方々が出たり、適切でない中絶数が増えました。正しい知識があれば防ぐことができた不幸かもしれません。

原発事故後の福島では、子どもを外で遊ばせなかったことで、肥満傾向の子どもが増えてしまったことや運動能力が低下してしまったことが問題になりました。“恐れなくていい量の放射線”を気にするあまり、別の健康問題が起きてしまっては、本末転倒といえるでしょう。

出所のわからないネットの情報や噂話ではなく、「正しい知識」。つまり、きちんとした裏づけのある、レベルの高い情報を信頼し、本当に大切なことは何かを見極めることで、子どもたち、そして自分自身を守ることが改めて求められます。

江頭紀子
調査会社で情報誌作成に携わった後、シンクタンクにて経営・経済に関する情報収集、コーディネートを行いつつ広報誌も作成。現在は経営、人材、ISOなど産業界のトピックを中心に、子育て、食生活、町歩きなどのテーマで執筆活動。世田谷区在住、二女の母。

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