『いつ恋』『わたしを離さないで』が、ドラマ好きから高く評価される理由

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2016年03月04日 13:41  リアルサウンド

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『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』公式サイト

 あなたは現在放送中のドラマ、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系、以下『いつ恋』に略)と『わたしを離さないで』(TBS系、以下『わたし』)を見ているだろうか。


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 『いつ恋』は若者の貧困と東京生活の辛さ、『わたし』は臓器提供のために生まれたクローン人間という重苦しい設定が敬遠されたのか視聴率では苦戦しているが、その一方で見ている人の満足度は高い。私の友人・知人のいわゆる“ドラマ識者”たちの間でも評判がよく、私自身も各メディアで称賛してきたが、終盤を迎える今、それが間違っていなかったことを実感している。


 その魅力は、『いつ恋』は有村架純、高良健吾、『わたし』は綾瀬はるか、三浦春馬、水川あさみというメインキャストというより、「純粋なドラマ内容だけで評価できる」ほどの優れた脚本。


 両作は重苦しい世界観のため、視聴者は基本的に「主人公を自分に置き換えて見よう」「ヒロインに共感したい」という発想を持たない。必然的に「私だったらどうなんだろう……」ではなく、「この子はどうなってしまうんだろう」と“見守る側”の立ち位置になる。共感ではなく応援。自分を主体として見るのではなく、主人公を主体として見る傍観者なのだ。


 『いつ恋』『わたし』が「面白しくない」と感じる人は、おそらく自分が主体になりたい人であり、だから「自分は重苦しくて見ていられない」という感想で終わってしまうのではないか。しかし、少し見方を変えて傍観者にさえなれれば、これほど面白い作品はない。


 どちらも“特定の誰かが敵”ではなく、「“見えない巨大な敵”に立ち向かう」という難しい状況だからこそ、魂から絞り出すようなセリフが次々に紡がれていく。脚本家が「その難しい状況や魂のセリフをどう受け取りますか?」と視聴者に投げかけているのだ。


 最近の連ドラは、「見るからに正義」と「見るからに悪」の対立構図、テロップやナレーションの多用など、わかりやすさ重視の作品が大半を占めているが、それは「こう見ればいいんだよ」と視聴者を誘導していることの証拠。その点、『いつ恋』『わたし』は、「きっとこうだろう」「いや、やっぱりこっちかも……」と視聴者の思考回路を動かそうとしている。


 ここ2年間、『家族狩り』『Nのために』『アルジャーノンに花束を』(いずれもTBS系)、『ゴーストライター』『リスクの神様』『探偵の探偵』『無痛』(いずれもフジテレビ系)など、重苦しいムードの作品がそろって1ケタ視聴率に沈んだだめ、ドラマ界は“スカッと1話完結”の作品ばかりになった。


 裏を返せば、TBSとフジテレビはそれだけチャレンジをし続けてきたことになるが、2016年に入ってなお、重苦しい世界観の作品に挑めたのは、坂元裕二と森下佳子という2人の脚本家に実績と信頼があるからだろう。「この人なら重苦しい世界観を、見応えのある人間ドラマに昇華できる」という目算が成立するのだ。


 しかし、これは「重苦しい世界観の人間ドラマを書き切れる脚本家が少ない」ということに他ならない。2人のような文芸性の高い脚本家が手がける作品は、それだけで「今や貴重であり、見て損はない」「最後まで見たら感動がある」だけに、未見の人は今からでもぜひ。(木村隆志)


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  • 「いつ恋」の脚本家が好き。「最高の離婚」「問題のあるレストラン」「woman」全部好き。人間の描き方、セリフ、何もかもが秀逸。
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