遺伝子検査サービスの結果はどう受け止めるべき?〜京都大学名誉教授 西川先生に聞く

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2016年03月18日 18:00  QLife(キューライフ)

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オール・アバウト・サイエンス・ジャパン代表理事 西川伸一先生

 人体の“設計図”ともいわれるゲノム情報。そのゲノム情報すべてを解析する「ヒトゲノム計画」は、13年という歳月とおよそ30億ドルという莫大な費用を費やして2003年に完了しました。それからさらに13年。

 現在、ゲノム情報を活用した「遺伝子検査」が数多くの企業から提供されています。しかし、検査によって知ることができる内容やサービス、費用は、提供元により異なります。遺伝子検査を検討しようとなった時、私たちは何をよりどころにすれば良いのでしょうか。

 そこでQLife編集部は、遺伝学分野の世界的研究者であり、NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン代表理事で京都大学名誉教授の西川伸一先生に、遺伝子検査とはいったいなんなのか、結果をどのように受け止めたらよいのかなど、遺伝子検査の基礎知識、検査を受ける意義についてお話しを伺いました。(取材協力:DeNAライフサイエンス)

「意味のある違い」から、個人の体質の判断

――そもそも遺伝子検査とはどのようなものなのでしょうか

 病気のなりやすさや重症化する可能性など、ゲノム情報の中の「意味のある違い」を調べ、体質として紹介するのが遺伝子検査です。私たち人間の遺伝子には、一人ひとり異なる情報が刻まれており、およそ1000万か所の違いがありますが、そのすべてが「意味のある違い」というわけではありません。これまでに世界中で行われた研究によって明らかになった(論文化された)「意味のある違い」を選び出して、個人の体質の判断に使おうとするのが現在の遺伝子検査です

――同じ疾患でも遺伝子検査の結果が各社で異なることがあるのは、どうしてなのでしょうか

 1つの疾患に限っても、すでに発表されている論文は数多くあり、そのうちどれを採用しているのかによって、結果は変わります。さらにどのような先生が監修しているのか、どのような分析方法をとっているのかによっても、結果は変わります。『この遺伝子情報の有効性が高い、確率が高い。診断価値がある』と判断したものを各社がノウハウとしてそれぞれ選んでいるのです。仮に現在までに発表されている研究結果をすべて調べたうえで結果を出せば、各社同じ結果になるでしょう。

――なぜ、各社で費用にバラつきがあるのはなぜでしょうか

 遺伝子検査サービスを提供するには、ラボ設営、機材やパーツの準備といったイニシャルコスト、コンテンツの提供、検査後のアドバイスといったランニングコストがどうしても発生します。つまり、費用は各社の先行投資、提供するサービスの違いによって変わってくるということです。単に安ければよいというわけではありません。

 ちなみに現在、全ゲノムを解読するには1,200ドルほどかかります。今後、この費用を100ドルにまで減らすことを目標に研究が進められています。おそらく全ゲノム解読検査が10万円を切るときが、第2の遺伝子検査ブームになるでしょう。

生命が誕生して38億年、たった1度しか現れないゲノム情報

――ある病気に「なりやすい体質」と結果が出た場合は、その結果とどのように向き合えばよいのでしょうか

 病気には体質が大きく影響するものと、そうでないものがあります。例えば、子宮頸がんや喉頭がんはヒトパピローマウイルス(HPV)に感染した人が発症します。このウイルスに遺伝的にかかりやすい、かかりにくい、という差はあるかもしれませんが、それ自身が大きな差を生むということはありません。一方、前立腺がんや卵巣がん、甲状腺がんなどホルモン系のがんは、体質による影響が出やすいと考えられています。

――逆に「なりにくい体質」と出た場合は?

 「なりにくい体質」という結果がでても、「絶対に発症しない」という保証はありません。たばこを吸うか吸わないか、脂っこいものを多く食べるか食べないか…。生活習慣からの影響のほうが大きいことも少なくありません。例えば、肥満は遺伝よりも生活習慣のほうが強く影響を及ぼすものの代表です。

 私たちの身体は遺伝子の情報だけで形作られているわけではありません。私たちの身体の中でたんぱく質が発生するときの遺伝子の使われ方も情報、環境からの刺激も情報、遺伝子とは、別の情報が積み重なることでも違いは生まれてくるのです。ご長寿姉妹として有名な「きんさん、ぎんさん」は一卵性双生児ですが、2人の顔は違いましたよね。同じ遺伝情報を持っていても、100年経てば違いが生まれてくるのです。

――こうした結果は、家族や友人に伝えてもいいのでしょうか

 遺伝子検査の結果を誰かに見せたいと思った場合、どこまで他人に公開するのか。それは個人の自由です。全部見せてもいいと思う人は、全部見せてもいいし、一部の体質だけ公開したい場合は、それだけを伝えればいいのです。

 その一方、知られたくない情報は、知ろうとする第三者から必ず守らなくてはなりません。見ようとする行為そのものに、何億円の賠償を科すなど、厳しい罰則を与える「ゲノム保護法」が必要でしょう。現在、アメリカでは2008年に米国遺伝子情報差別禁止法が制定されており、罰則が設けられています。

――西川先生が考える「遺伝子検査を受ける意義」とは

 私たち一人ひとりのゲノム情報は、生命が誕生して38億年のうち、たった1度しか現れない情報です。これまで、人は亡くなってしまえば、火葬場で燃える間に情報は消えていました。それが現在ではその情報をコンピュータ上に残せるようになったのです。

 歳を取った人はこの情報を後世に残すというのも1つの意義です。また若い人たちでは、自分自身を知り、それに合わせて、その後のライフスタイルを設計するというのも1つの意義。例えば、遺伝的にインスリンの分泌能力が低いということにわかっているのであれば、それに合わせた食生活を送るという対策がとれるように、自分を知る1つのきっかけと言えるのではないでしょうか。

 今まさに遺伝子検査を受けようとしている人たちは、新たな文化を作ってゆく“初期メンバー”といえます。遺伝子を知るということは、自分自身を知るということ。今後、似ている遺伝子を持つ人が近くにきたらお知らせしてくれるようなゲームが作られても面白いし、コレステロールや血圧など健康診断の結果を話すように、“茶飲み話”に遺伝子の話をする。そんな時代になったら面白いと思いませんか。

(QLife編集部)

西川伸一先生 NPO法人オール・アバウト・サイエンスジャパン代表理事
1948年滋賀県生まれ。1973年京都大学医学部卒業。7年医師として勤めた後1980年ドイツ ケルン大学留学。1987年熊本大学医学部教授、 1993年京都大学大学院医学研究科教授を歴任。 2000年理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター副センター長。2013年、あらゆる公職を辞し、NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン代表理事として様々な患者さん団体と協力して、患者さんがもっと医療の前面で活躍する我が国にしたいと活動を行っている。

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