生きた細胞の遺伝子を7色にマーキング

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2016年04月25日 16:41  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

ゲノム編集技術の革命「CRISPR-Cas9」


 遺伝子工学の分野で今一番注目されているキーワードと言えば、間違いなく「CRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)」だろう。Jennifer A. Doudna博士とEmmanuelle Charpentier博士によって開発された、このゲノム編集技術によって生物のゲノム(遺伝情報)を編集することが格段に簡単でスピーディになり、開発者である両博士のノーベル賞受賞はほぼ確実と言われている。動植物の品種改良、病気の治療などCRISPR-Cas9を利用したさまざまな研究が世界各国で進められており、2015年4月には中国の研究チームがCRISPR-Cas9でヒトの受精卵のゲノムを編集したことが大きな議論を呼んだ。


 CRISPR-Cas9は、細菌がウイルスから身を守るための仕組みを応用している。


 細菌は、侵入してきたウイルスのDNAを細菌自身のゲノムに取り込み、コレクションしていく。再度同じウイルスが細菌に侵入すると、コレクションからコピーされた「ガイドRNA」がウイルスのDNAを照合し、ガイドRNAにくっついている酵素「Cas」がウイルスのDNAを切断して撃退する。


 Doudna博士とCharpentier博士は、この仕組みを元に任意のガイドRNAを使える技術を開発。これがCRISPR-Cas9だ。ゲノムを編集したい研究者は、該当箇所のDNA配列と同じ配列のRNAを作りさえすれば、あとはこのRNAがガイドとなって該当箇所を勝手に見つけ、くっついている酵素Cas9がその箇所を切断してくれる。この時、任意の配列のDNAをCas9といっしょに注入しておけば、切断された箇所にそのDNAが挿入される。つまり狙った箇所に対して確実に望みの遺伝子配列を挿入できるわけだ。


生きた細胞のゲノムに7色のマーキングをする「CRISPRainbow」


 マサチューセッツ大学メディカルスクールのThoru Pederson博士、Hanhui Ma博士らが開発した「CRISPRainbow」は、CRISPR-Cas9を応用して、生きた細胞のゲノムに7色のマーキングをする技術である。受精卵の細胞がどのように分化していくのか、あるいはガンがどうやって生まれてくるのか、そのメカニズムを知るためには染色体上にあるどの遺伝子がどのタイミングで働いているのか知ることが非常に重要になってくる。


 研究チームは、酵素のCas9を変異させ、該当箇所のDNA配列を切断しないようにした。そして、ガイドRNAに赤、青、緑のいずれかに光る蛍光タンパク質を入れておく。あとは、ガイドRNA+変異させたCas9を細胞核に入れれば、該当箇所のDNA配列に蛍光タンパク質が結合する。これで赤、青、緑の3色でのマーキングが可能になった。


 さらに別の色でマーキングしたければ、同じ手順を繰り返して、該当箇所に2つ目の蛍光タンパク質をくっつければいい。赤と青の蛍光タンパク質で紫、赤と緑で黄色、緑と青でシアンの3色を表現できる。赤、青、緑の蛍光タンパク質がすべて揃ったら白色になる。要するに、液晶テレビと同じに用に光の三原色を使って7色を表現しているのだ。


 CRISPRainbowを使ってマーキングすることで、細胞内で発現している遺伝子をリアルタイムに顕微鏡で観察することが可能になる。これからしばらくゲノム分野での新発見が相次ぐことになりそうだ。




山路達也


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