“おそ松”ロスな腐女子たちに捧ぐ!「ときわ荘」きっての美少年漫画家の生き様『マンガをはみだした男』

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2016年04月27日 20:11  おたぽる

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おたぽる

このイケメンは一体誰? 答えは新人時代の赤塚不二夫。 「ときわ荘」の個性の強いメンバーの中で、その性格の良さは飛び抜けていた。

 ギャグ漫画は人気を極めれば極めるほどその寿命は短くなるが、赤塚不二夫作品の生命力の強さには驚嘆させられる。『もーれつア太郎』の脇役キャラだったニャロメは全共闘世代のシンボルとして人気を集め、『ひみつのアッコちゃん』は現在も続く“魔法少女”シリーズのルーツとなった。代表作『天才バカボン』がフロッグマンによってリメイクされた劇場アニメ『天才バカヴォン 蘇るフランダースの犬』(15)も記憶に新しい。さらに深夜アニメ『おそ松さん』(テレビ東京系)は社会現象と呼ばれるまでの大ヒットに。晩年の赤塚不二夫はアルコール依存症で入退院を繰り返したが、彼が生み出したキャラクターたちは今も元気に悪ふざけ三昧を繰り広げている。



 数々の大ヒット作を残した天才漫画家・赤塚不二夫の生涯を追ったドキュメンタリー映画が『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』だ。『乱暴と待機』(10)や『ローリング』(15)といったシニカルなコメディ映画で知られる冨永昌弘監督が、赤塚不二夫の72年間の足跡を貴重な映像資料、愛娘・赤塚りえさんや妹・梅原寿満子さんら肉親、歴代アシスタントらへのインタビューによって振り返っている。『おそ松さん』の藤田陽一監督も色褪せない赤塚作品の魅力について語っている。赤塚作品の最高傑作に推されることの多い『レッツラゴン』のキャラクターたちが赤塚の生涯を紹介するMCを務めるアニメーションドキュメンタリーとなっている点もユニーク。オープニングの3Dアニメ化された『ロボット版バカボン』から一気に、過激に継承されている赤塚ワールドに引き込まれていく。



 希代のギャグ漫画家を語る上で外すことができないのが、その生い立ち。赤塚の父親は元憲兵で、特務機関に属する諜報員として満州国(現在の中国東北部)で活躍。赤塚は1935年に満州の古北口で生まれ、終戦となる1945年まで満州で過ごしている。この満州国は五族協和と王道楽土を理念に掲げて1932年に建国されたものの、日本の敗戦によってわずか13年で崩壊した幻の国。『男はつらいよ』(69)の山田洋次監督や『シベリア超特急』(96)でカルトな人気を得た映画評論家の水野晴郎氏も満州で多感な少年期を過ごしている。母国の消滅に伴い、赤塚の父親はシベリア抑留、残された母と子どもらは命からがら日本に引き揚げ。母の故郷・奈良に辿り着くと同時に末妹が亡くなるというトラウマ級の体験の連続だった。赤塚作品の底が抜けたようなアナーキーさの原点は幼少期にあった。奈良での生活は食料事情が悪く、お腹をすかせていた赤塚は近所の悪童たちと一緒に果物畑を荒し回ったそうだ。このときの悪ガキ仲間たちが“おそ松”兄弟のモデルとなっている。



 その後、赤塚は新潟でペンキ職人として働きながら漫画家修業に励み、上京後は「ときわ荘」きっての美少年漫画家としてデビュー。まだ確立されていなかったギャグ漫画の分野で頭角を現わしていく。アシスタント制を最初に取り入れたのも赤塚で、アシスタントには古谷三敏、北見けんいち、土田よしこ、とりいかずよし……と多士済々たる才能が集まった。連日にわたって大ブレインストーミング大会が開かれ、傑作漫画に数々のギャグや多彩なキャラクターたちが生み出されていった。赤塚のもとには出版関係者以外にも様々な顔ぶれが集まり、夜ごとの宴会が新宿の繁華街で開かれていくようになる。そんな過剰な笑いのエネルギーが引き寄せ、さらに芸能界へと飛び立たせたのが福岡出身の最強の素人芸人・タモリだった。赤塚も次第にライブパフォーマンスに傾倒し、赤塚自身がナンセンスキャラとして振る舞うようになっていく。常識の壁を突き抜けた赤塚ワールドは二次元の世界を凌駕し、現実世界を侵蝕していく。また、この頃は古株のアシスタントたちが次々と独立していった時期でもあった。根がマジメで淋しがり屋の赤塚の酒量はどんどん増えていった。



 それにしても赤塚のお人好し伝説がすごい。連日の酒代はすべて払っていた赤塚だったが、家に入ってきた泥棒にさえ田舎に帰るための列車代を渡したこともあった。フジオ・プロの経理担当者が2億円を使い込んでいたときも、「仲間を疑うもんじゃない」と最後まで訴えようとしなかった。フジオ・プロのある下落合・中井に愛着を示し、地元のお祭りには赤塚の奥さんに加え、フジオ・プロ総出で協力していたなどのエピソードが語られていく。幼年期に故郷・満州を喪失した赤塚は、悪ガキたちと過ごした奈良時代、ときわ荘、フジオ・プロ、新宿での大宴会……と故郷の代わりとなるコミュニティを常に求め続けていたようだ。



アニメドキュメンタリーのクライマックスを飾るのは、タモリが歌う主題歌「ラーガ・バガヴァット」に合わせて約100体に及ぶ赤塚キャラクターたちが踊り出す壮大なダンスシーン。人間も動物も二次元のキャラクターも出版社の垣根を越えて群舞する。2億円だまし取らたけど、そんなの小さい小さい。漫画で稼いだお金はまるで残らなかったけど、ノープロブレム。アル中になって入退院を繰り返したのも、まったくヘーキ。すべて、これでいいのだ! 赤塚不二夫の人生を張ったメッセージは今も古びることはない。
(文=長野辰次)



『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』
企画・プロデュース/坂本雅司 監督/冨永昌敬 主題歌/タモリ 2Dアニメーション/室井オレンジ 3Dアニメーション/アニマロイド 
制作・配給/シネグリーオ 4月30日(土)よりポレポレ東中野、下北沢トリウッド、横浜シネマリン、渋谷アップリンクほか全国ロードショー
(c)2016 マンガをはみだした男 製作委員会
http://hamidashi-fujio.com



※4月30日(土)は下北沢トリウッド、ポレポレ東中野、横浜シネマリン、渋谷アップリンクにて冨永監督、坂本プロデューサー、2Dアニメーションを担当した室井オレンジによる舞台あいさつあり。また、上映期間中、5月2日(月)に武居俊樹(『おそ松くん』『天才バカボン』『レッツラゴン』編集担当)、5月7日(土)にもふくちゃんこと福嶋麻衣子(でんぱ組incプロデューサー)、5月14日(土)に大地丙太郎(アニメ監督)などのゲストが登壇してのトークショーがポレポレ東中野で予定されている。


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  • こういう人は一世一代、もう二度と出て来ないと思う。今の世の中じゃ潰されそうだもの…�ͤ��Ƥ��
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