【漫画レビュー】『透明なゆりかご』で描かれるさまざまな愛情の形

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2016年05月18日 10:32  MAMApicks

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このところ、漫画を読むならもっぱら電子書籍を愛用している。
「これ読みたい!」と思ったときにすぐ購入できて、収納場所にも困らないので、小さな子がいるご家庭にもオススメできる。ワンクリックの手軽さでつい買ってしまう、というのもあるのだが、そのぶん良作に巡り合える機会も多く、何より快適なので手放せなくなっている。

そんななか、ひとつの作品に出会った。
『透明なゆりかご』(沖田×華[おきた ばっか]・著、講談社『ハツキス』にて連載中)は、産婦人科医院で看護師見習い中の看護学生・×華が、出産の現場やクリニックの患者である妊産婦やその家族との触れ合いで知る、命の尊さ、強さ、脆さ、儚さなどを描いている。


主人公の×華は著書である沖田×華さん自身であり、実体験に基づくストーリーで構成されている。先日最新刊が出たところで、今もっとも楽しみにしている作品だ。

時代設定が1997年頃なので、医療事情などは現在と異なる部分もあるものの、新米医療従事者としての×華さんのキャラクターや目線が等身大で心地よい。

ただし、命というデリケートなテーマを扱っているので、内容はやはりかなりヘビーだ。
当時、死亡原因として最も件数が多かったとされる人工中絶(表向きにはガンが1位とされていたが実際には人工中絶で絶たれる命の方が多かったとのことだ)に始まり、流産や赤ちゃんの突然死、中学生の妊娠や性虐待を受ける小学生など、当事者ではなくとも毎回ズシンとくる。

とくに命が失われるシーンはどうしても涙が出るので、電車移動など外出時に読むのは厳禁なのだが、新刊が出ると展開が気になってついスマホを開いてしまい、ポロポロと泣いている有様だ。

本作品しかり、以前ドラマ化の際にレビューした『コウノドリ』しかり、赤ちゃんや小さい子ども、妊産婦が登場する作品を目にすると、条件反射のように手に取ってしまう。

温かいメッセージに勇気づけられることもあるが、圧倒的につらくなることが多い。
当然のことながら、自分の身に重ね合わせてしまうからしんどくなってしまうのだけど、子どもを持ってみて、自分はものすごく臆病になった、怖いものが増えたなと感じる。

夜、娘が寝入っているときに、ちゃんと息をしているかなと未だに顔を近づけて確かめるし、子どもが巻き込まれたニュースや事件に気持ちが引っ張られて落ち込んでしまうこともしょっちゅうある。

「母は強し」とか「肝っ玉母さん」なんてよく言うけれど、自分が母親になって強くなったとは到底思えない。

だけど、このような作品を手に取るのをやめられないのはなぜだろう。
どうしてつらくなるのがわかっているのに、次から次と読み進めてしまうのだろう。

『透明なゆりかご』で描かれる、親から子への想い、愛情の形はさまざまだ。
中学生の妊娠のエピソードでは、頼りなかった少女が妊娠・出産を経て、強い女性に成長していく。死産ののち再び妊娠した女性は、生まれた子どもも失った命も一緒に愛していこうと決意する。弱視のため出産を諦めていた女性は、妊娠が分かったときに「産みたい!」と体からの声が聞こえ、出産に至ったと話す。片や、大事な子どもを育てていくことができず、手放してしまう母親の回もあった。

数々の感動的な場面に出会う×華さんも、作中で何度も「自分が子どもを産みだせるか想像がつかない」「母性が本当はどういうものなのか分からない」と語っている。

その「分からない」感覚は、私にもまだ残っている。
実際子どもは産んだけど、「母親になりたい!」と強く望んだ結果ではなく、何となくなってしまった、という感覚に近い。

まだまだ子育てには四苦八苦しているし、毎日が必死の想いではあるけれど、それが母親としての実感かというとちょっと違うような気もするし、自覚みたいなものはやっぱりよく分からない。母親の適性検査みたいなものがあるとしたら、どちらかというと向いていないんだろうなとも思う。

しかし、人によってこれだけ愛情のあらわれ方も、濃さや強さも違うのだから、自分も別に間違っているわけではないのかもしれない。

崇高で壮大なものでもないし、「母は強し」な器ではまったくないのだけど、「強く」あることだけが「母性」ではないだろう。

こう言うものだとは定義できない、「母性」というものの曖昧さや、自分にとっての「母性」とは何なのかを、×華さんと同様に私はまだ探している最中だ。

『コウノドリ』がかなりスケールが大きく、エンタメ作品としても優れているのに対して、『透明なゆりかご』は絵柄も素朴で、訥々と語りかけるような口調に静かに心を揺さぶられる。

重くてシリアスなエピソードが多いのに、不思議と何度も読み返しては、心の中で反芻したくなるような味わいに満ちているのも特徴的。もちろん、その都度涙してしまうので、片手にハンカチは必須!

真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。

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  • これ、広告の数コマだけでズシッとくる。
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