敗血症の進行を抑えるタンパク質「HRG」を特定、新たな治療法の開発に期待

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2016年07月01日 12:00  QLife(キューライフ)

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世界で年間約3000万人が発症している敗血症

画像はリリースより

 細菌やウイルスなどによる感染症によって、全身炎症や臓器障害が引き起こされる敗血症は、進行すると多臓器不全や敗血症ショックといった重篤な病態を引き起こす可能性があります。現在、世界では、年間2000万人から3000万人が新規発症し、その数十%が亡くなっていると言われ、日本でも年間37万人が発症しています。しかし、ここ10年間で治療法に目立った進歩は見られず、新たな治療薬の開発が求められています。

 今回、岡山大学大学院の西堀正洋教授と和氣秀徳助教ら研究グループは、敗血症を発症したマウスを使った研究により、敗血症の進行を抑制する血漿タンパク質の特定に成功しました。そのタンパク質は「Histidine-rich glycoprotein(HRG)」と呼ばれるもので、肝臓で生成され血液中に分泌される糖タンパクの一種です。

 研究グループは、細菌を殺して体を守る働きを持つ白血球の一種である好中球の形を、HRGが正円形の状態に保つことや、この正円形の状態が毛細血管の中を通りやすくするために重要であることを解明しました。また、正円形の好中球は血管の内皮に接着しにくく、血管壁の障害を最小限に抑えていることもわかりました。このように、HRGは好中球と血管内皮細胞にとって重要な働きを持つと考えられます。

HRGを薬として補う治療法を発想

 敗血症では、HRGの生成低下や、血管内でできた血栓へのHRGの沈着が起こることから、血中のHRGが低下し、好中球が正円形を維持できなくなります。その結果、特に肺組織の細い血管で好中球の血管内皮細胞への強い接着と、そこへの血小板凝集や凝固反応が進行し、血管内血栓症が起こります。肺では呼吸不全の状態になり、同じメカニズムにより多臓器不全や血管内での異常な血液凝固を発症します。

 研究グループは、こういった連鎖的な敗血症の病態が、血中HRGの低下により進行することを証明。そこから、HRGを薬として補うという治療法を発想し、実際にHRGが低下した敗血症のマウスにヒトの血漿から精製したHRGを注射しました。すると生存率が大きく向上し、劇的な生存維持効果があることがわかったのです。逆に、肝臓におけるHRGの生成が抑制されたマウスでは、致死率が大幅に上昇しました。

 今回の研究はマウスによるものでしたが、研究グループはヒト敗血症患者においても同様の結果を確認しており、敗血症の新たな治療法に関する提案がなされています。すでに、哺乳動物の細胞を使ったヒト組み換えタンパクの製造にも成功し、新しい治療薬の開発に向けての研究が進んでいます。現状では抗生物質以外の治療薬が存在しない敗血症の治療に、新たな道筋が見えてきたといえるでしょう。(林 渉和子)

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