治療進歩目覚ましい、VEGFが影響する5つの「後眼部疾患」とは

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2016年07月08日 18:00  QLife(キューライフ)

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物を見るために重要な「黄斑」の障害とその原因物質「VEGF」

東邦大学医療センター大森病院講師 柴友明先生

 人が外界から得る情報のうち、その8割を担うと言われる「視力」。視力の低下や失明につながる眼の病気は、大きく分けると「前眼部疾患」と「後眼部疾患」の2つがあります。角膜などがある前眼部の疾患で代表的なのは白内障、網膜などがある後眼部の疾患では、糖尿病網膜症などです。

 近年、一部の後眼部疾患の発症に、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)というタンパク質の一種が関与していることが明らかになり、治療が大きく進歩しています。今回は、バイエル薬品株式会社の記者勉強会で講演した東邦大学医療センター大森病院講師の柴友明先生のお話しから、VEGFが影響する5つの後眼部疾患をご紹介いたします。

 眼の底(眼底)の中央にある網膜は「黄斑」と呼ばれ、物を見るうえで一番重要な部分です。この黄斑に障害が起きると、視力が低下したり、視野の中心部が見えなくなったり、物がゆがんで見えたり、時には失明につながる恐れもあります。VEGFが関与して黄斑に障害が起こる病気の代表例として、柴先生は以下の5つを挙げました。

◆加齢黄斑変性
失明原因第4位。黄斑の老化で視力が低下する病気です。患者数は1998年から2007年の間で1.9倍に増加しており、視力が徐々に低下するという特徴があります。超高齢社会を迎えた日本では、今後ますます増加する可能性も。

◆糖尿病網膜症(黄斑症)
失明原因第2位。糖尿病の細小血管合併症の中で最も頻度が高く、糖尿病患者さんの15.0%が網膜症を合併するという報告も。急激に視力が低下することもあります。この病気も糖尿病患者さんの増加に合わせて増えています。

◆糖尿病黄斑浮腫
糖尿病患者さんにおける中等度から重度の視力低下の主な原因です。働き盛りの年代で起こる失明の主な原因で、患者さんの2〜8.2%が2型糖尿病と診断されてから5年以内で発症するとの報告が。糖尿病網膜症と同じく、患者さんが増えています。

◆網膜静脈閉塞症(黄斑浮腫)
いわゆる「眼底出血」のこと。網膜の静脈が目詰まりを起こし、網膜がむくんだり、出血したりして視力が低下する病気です。ほとんどの患者さんは、黄斑浮腫への進行が原因で中心視力が低下します。

◆近視性黄斑変性
失明原因第5位である「強度近視」が進行した「病的近視」の10%で発現します。近視により眼球が長細く変化、網膜・脈絡膜が引きのばされ薄くなることが原因。推定患者数は25万人で、発症から5年後に88.9%、10年後には96.3%の患者が矯正視力0.1以下になるといいます。

「VEGF」が出血や浮腫を引き起こす原因に

東邦大学医療セアムスラーチャートの見え方 (柴先生講演資料より)

 これら5つの疾患の治療は、これまではレーザー光凝固術や硝子体手術などの手術が主流でした。中には「失明していくのを、手をこまねいて見ているしかない病気もありました」と柴先生は語ります。しかし、近年では、VEGFをターゲットしたお薬が登場しており、治療の選択が増えています。

 VEGFは、すでにある血管から新たな血管が分岐して、血管網を構築する「血管新生」を促進する役割を担っており、これは私たちの身体が形作られるうえで、とても重要なものです。しかし、眼の中では未熟な血管を作ったたり、血管を破れやすくしてしまう作用により、出血や浮腫を引き起こす原因になってしまいます。このVEGFの働きをお薬によって妨ぐことで病気の進行を抑制し、視力の低下の防止や視力の向上につながるのです。

 「早くに治療を開始したほうが、視力低下の抑制や視力回復の度合いが高いという試験結果が報告されています。早期発見・早期治療が重要です」と柴先生。黄斑部の異常は、「アムスラーチャート」という方眼紙のような図を使って、日頃から自分でチェックできます。少しでも“おかしい”と感じることがあれば、眼科専門医に相談し、眼底検査や網膜断層検査(光干渉断層計)、傾向眼底造影などの検査で詳しく調べてもらうのが良いでしょう。(QLife編集部)

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