ゲリラ豪雨を育てるミクロの粒子

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2016年07月12日 16:11  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<地球規模で猛威を振るう豪雨だが、最新研究で原因の1つが排ガスや火山灰などのエアロゾル粒子にあると判明>


 今年もゲリラ豪雨が不安な季節が近づいてきた。6月に発行された米国科学アカデミー紀要(PNAS)によれば、雨雲が強大化する背景にはどうやら「エアロゾル粒子」が関係しているらしい。


 エアロゾル粒子とは、大気中に浮遊する微粒子のこと。排ガスや火山灰や砂嵐が放出するちり、大気汚染の元凶として話題のPM2・5もこれに含まれる。


 雲はエアロゾル粒子の周囲に水滴が付着することで発生する。ざっくり説明するならば、エアロゾル粒子が多ければ多いほど、雨粒になって落下するまでの雲の寿命は延びる。雲は多くのエアロゾル粒子に支えられて水蒸気をため込み、より強大な雨雲に成長する。


 その結果として激しい豪雨が降ることを、テキサス大学とコロラド大学ボールダー校、NASAのジェット推進研究所の共同研究チームが突き止めた。


【参考記事】サイボーグ「エイ」が生物と機械の境界を越える


 論文によれば、大気中におけるエアロゾル粒子の含有量が暴風雨の強大化につながるという仮説が立証されたのは、今回が初めてだ。


 エアロゾル粒子と雨雲の間の因果関係は「以前から取り沙汰されてきた」と、研究チームは論じる。「だがエアロゾル粒子の増加が地球全体でも地域規模でも、暴風雨の強度に影響を及ぼすことはこれまで知られていなかった」


水不足解消の切り札に?


 その影響は大きい。研究チームは2430例に及ぶ「メソ対流系」の衛星データを調査した。「メソ対流系」とは、とりわけ熱帯地域で洪水を引き起こしやすいレベルの豪雨を降らせる降水のメカニズムだ。


 彼らは、大気にエアロゾル粒子が多く含まれると、現地の気象条件によって雨雲の寿命が3〜24時間延びる可能性があることを発見。雲の寿命が延びれば、最終的に降雨量は多くなる。


 ただし影響力は地域によって差があるようだ。南アジアと中南米では、雲の寿命を変える因子の約20%を占めているのが、大気中におけるエアロゾル粒子の含有量だという。だがアフリカではそこまでの影響は見られず、エアロゾル粒子は寿命を左右する因子の約8%にすぎない。


 地球工学の分野では水不足や干ばつの対策にエアロゾル粒子を利用する研究が、既に始まっている。


 一部の政府と研究者は、「クラウド・シーディング(雲の種まき)」の実施を検討している。これは化学的に合成したエアロゾル粒子を小型飛行機で大気中に噴射して人工的に雨雲を作り、干ばつに苦しむ地域に雨を降らせる試みだ。


 例えば砂漠の国であるアラブ首長国連邦(UAE)は、海水から塩分を抜いて水を確保している。だがこの脱塩処理には大きなコストがかかる。クリスチャン・サイエンス・モニター紙によれば、政府は人為的に雨を降らせようと今年だけでも既に約100回飛行機を飛ばしているという。


 エアロゾル粒子は命を脅かすほどの豪雨を降らせる一方で、恵みの雨のもととなる可能性も秘めているのだ。



[2016.7.12号掲載]


ゾーイ・シュランガー


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