EXILE ATSUSHIはなぜマーヴィン・ゲイと美空ひばりを同時に歌う? 宗像明将の東京ドーム公演レポ

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2016年09月10日 15:51  リアルサウンド

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「EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2016 "IT'S SHOW TIME!!"」の一場面。

 2016年8月31日、EXILE ATSUSHIが活動拠点を海外に移すことが発表された。期間は2018年まで。その突然の発表を受けてまず私が思い浮かべたのは、EXILE ATSUSHI初の単独ドームツアー「EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2016 "IT'S SHOW TIME!!"」の東京公演初日である2016年8月27日の東京ドームに、ボーイズIIメンが登場したときのことだった。海外からのビッグ・ゲストの登場に、東京ドームはまさに割れんばかりの大歓声に包まれた。


 そして、ボーイズIIメンのボーカルの技巧は圧倒的だった。彼らの肉声にはオートチューンなど不要だと痛感した。そして、ボーイズIIメンの2006年の「Muzak feat. ATSUSHI(EXILE)」や2011年の「End Of The Day 〜Boyz II Men feat. EXILE ATSUSHI〜」で、EXILE ATSUSHIがこのレベルのアーティストと共演しておいたのは正解だったと感じたほどだ。


 そんなステージを見ていたからこそ、期間限定ではあるが、EXILE ATSUSHIが活動拠点を海外に移すことに驚きはしなかった。2016年8月27日の東京ドーム公演は、ボーイズIIメンとの共演以外でも、ボーカリストとしてのEXILE ATSUSHIの姿をこれでもかというほど見せつけるものだったのだ。


 開演前に会場に流れていたのは、フランク・シナトラの「Theme From New York, New York」。そして、開演とともに登場したのは、約40人ものミュージシャンで構成された大編成バンドだった。彼らによるオープニング演奏はジャズそのもの。そして、やはりジャジーな「Beautiful Gorgeous Love」で、EXILE ATSUSHIはステージ上の光る階段をおりながら登場した。ステージ・セットは照明も華やかなゴージャスなものだ。「All of Me」でもジャジーな演奏は続き、ギター、オルガン、サックス、トロンボーンによるソロも展開された。EXILE ATSUSHIは「All of Me」の最後を伸びの良い声で歌いあげてみせた。


 そして、マーヴィン・ゲイの1971年の名曲「What's Going On」へ。EXILE ATSUSHIはキーボードを弾きながら歌い、小粋なプレイすら聴かせた。この段階でボーカリスト、ミュージシャン、エンターテイナーとしてのEXILE ATSUSHIに感嘆してしまったが、ライブはまだ3曲目である。


 正直、冒頭の流れには「これほど趣味性を押しだしてくるのか」と驚愕したが、そこはやはりEXILE ATSUSHIである。6曲目からは日本の名曲のカバーが続いた。中島みゆきの「糸」、サザンオールスターズの「慕情」、尾崎豊の「I LOVE YOU」と続いたので、さきほどまでのマーヴィン・ゲイから急展開だと感じたほどだ。とはいえ、日本的な叙情性に包まれた「糸」では、EXILE ATSUSHIによる男性性が薄いボーカルが新鮮だった。「I LOVE YOU」では、せつなさの中に色気をも感じさせた。


 ジャズ・スタンダードの「Smoke Gets In Your Eyes」では、羽毛のように繊細で軽やかな歌唱が印象的だった。こうしたジャズ路線は、それこそブルーノート東京でやってもいいようなことを東京ドームでやっており、そこにEXILE ATSUSHIの凄みを感じた。


 EXILE勇退の噂を笑って否定するMCは、まさか海外への活動拠点移転が待っているとは感じさせなかった。そして、斉藤和義の「歩いて帰ろう」へ。ピアノはニューオリンズ風味だった。


 そこから美空ひばりのカバー2曲へ。歌われたのは「川の流れのように」と「愛燦燦」だが、名曲「愛燦燦」は歌い手の力量が露骨に出る楽曲でもある。その「愛燦燦」で、EXILE ATSUSHIは人生の喜怒哀楽の機微を歌いあげてみせたのだ。


 EXILE ATSUSHIによるグランドピアノの弾き語りでは、「Lost Moments 〜置き忘れた時間〜」、そしてオフコースの「言葉にできない」が歌われた。


 EXILE ATSUSHIの15年を振り返る映像を挟んでから、ニュー・プロジェクトであるRED DIAMOND DOGSが登場。ATSUSHIがボーカル、PHEKOOがキーボード、FUYUがドラム、DURANがギターを担当する4人編成のバンドだ。ロック・バンドかと思ったが、実際にはブラック・ロックと言いたくなるぐらいR&B色の濃い演奏だった。


 そして、再び約40人のバンド編成に。ファンキーな「LA LA〜孤独な夜に〜」では、EXILE ATSUSHIがゴンドラカーの天井に立ち、ボールを投げながらアリーナを周遊しはじめた。ファンクラブで当選したファンはEXILE ATSUSHIと両手でハイタッチできる特典があったようで、彼にハグされるファンが出るたびに、東京ドームでは歓声が渦巻いた。


 EXILE ATSUSHIがステージに戻ってきてから「昭和の大スター」として招き入れたスペシャル・ゲストが、まさかの加山雄三。EXILE ATSUSHIが加山雄三を「ジャパニーズ・フランク・シナトラ」と紹介したので、開演前にフランク・シナトラを流していたのはこの伏線か、とやっと理解した。驚きも冷めやらぬ間に、初めて生で「君といつまでも」を聴くことに。なお、加山雄三は補聴器と間違えられるのでイヤモニをつけなかったが、現在はEXILE ATSUSHIと同じイヤモニを注文してつけているというエピソードも紹介されていた。加山雄三はフランク・シナトラの「MY WAY」を、それこそ呼吸でもするかのようにナチュラルに歌いあげた。


 本編ラストは「Choo Choo TRAIN」。アリーナに銀テープが舞いおりた。


 そして、ここで時間軸は冒頭に戻る。アンコールにボーイズIIメンが登場したのだ。加山雄三が出てきた後に、さらにボーイズIIメンである。EXILE ATSUSHIとボーイズIIメンは「On Bended Knee」「End Of The Road」「One love」と3曲も共演。そして、最後の最後にEXILE ATSUSHIひとりで「願い」を歌うと、ステージ上の階段をのぼって去っていった。


 ジャズ、ソウル、J-POP、演歌、そしてR&B……。ジャンルを一切問わずに、とにかく歌いたい楽曲を歌う、潔いほどのライブだった。EXILE ATSUSHIの個人的な趣味性が出ても、大衆性は必ず担保する。そのバランス感覚こそが、約3時間半ものライブを成立させていた。


 2016年8月31日にEXILE公式サイトに掲載された「EXILE、EXILE ATSUSHIを応援くださる皆さんへ」には、EXILE ATSUSHIによるこんな一文がある。


 「EXILEの音楽性の原点は、本場アメリカなどのR&Bや、ダンスミュージックを、日本の皆さんが、より聴きやすいであろう形に変化させ、そこにさらに、日本人の独特の、“魂” や“心” というものを加えた、それは自分達なりの、新しいジャンルへの挑戦だったとも思っています」


 この一文は、実はそのままEXILE ATSUSHIの東京ドーム公演を表現するものだ。愚直なほどに、彼は上記の一文そのままの音楽を追求していたし、それが選曲の振れ幅の大きさにもつながっていた。日本の戦後歌謡史を洋楽の咀嚼の歴史だとしたら、EXILE ATSUSHIの東京ドーム公演は彼個人の歌謡史であったのだ。マーヴィン・ゲイと美空ひばりを東京ドームで同時に歌えるアーティストはEXILE ATSUSHIぐらいだ。そして、それを5万人の観客に説得力を持って届けることができるのもEXILE ATSUSHIぐらいである。


 ボーイズIIメンとの共演を見れば、EXILE ATSUSHIが海外に活動拠点を移すこともごく自然に納得できる。彼が目指している次元は、あの世界水準なのだ。近年のEXILE関連作品が、J-POPのど真ん中でEDMやベース・ミュージックまで取りあげていることとも無関係ではないだろう。海外での活動を経て、EXILE ATSUSHIがさらなる音楽のミクスチャーをJ-POPシーンに届けてくれることを楽しみにしたい。素直にそう思えるのは、東京ドームでの「EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2016 "IT'S SHOW TIME!!"」を見たからなのだ。(宗像明将)


このニュースに関するつぶやき

  • boys2menが大リーガーだとしたら、それこそアツシのレベルはテレビで野球中継見るだけでろくにキャッチボールすらしたことないってレベルなのが現実。
    • イイネ!5
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