シングルマザー向けシェアハウスの今を取材 〜暮らしぶり、メリット、事業への思い〜

0

2016年10月26日 12:02  MAMApicks

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

MAMApicks

写真
「シングルマザー向けシェアハウス」というものを、ちらほら聞くようになってきました。シングルマザーのみなさん、あるいは離婚が一度でも頭によぎったことがある方、ちょっと気になりますよね? 行き詰まったふうふでの生活より、こっちのほうがよっぽど楽しそう!?

いくつかあるシンママ向けシェアハウスのなかでも、神奈川や東京で5つの物件を運営する「ペアレンティングホーム」は、事業開始から4年が経過し、老舗的な存在となっています。

入居している人たちはみなさん、どのように暮らしているのか? どうしてこういったシェアハウスを作ろうと思ったのか? ペアレンティングホーム代表で、一級建築士の秋山怜史さん(35)にお話をきかせてもらいました。


―― 秋山さん、ペアレンティングホームってどんなものですか?

秋山さん(以下、敬称略):シングルマザーと子どもが共同で暮らすシェアハウスです。それぞれの世帯はワンルームの個室に入居して、リビングルームやキッチン、バス・トイレはみんな共同で使います。いまは東京と神奈川の5箇所で運営していて、それぞれ3〜8世帯くらい入れます。

―― どんな人たちが生活しているんですか?

秋山:東京やその近郊で仕事をしているシングルマザーで、お子さんは未就学児が1人、という方が多いですね。きょうだいがいない小さい子は、親がつきっきりになりがちですけれど、ここなら同年代の子どもが複数いるので、子ども同士が遊んでいる間に親が一息つけるところがいいんでしょうね。

いまは半数を超える入居者が、別居中で離婚成立前の方たちです。調停に苦戦している方もいます。そういう方も、ここは同じような経験をしてきたシングルマザーがたくさんいるので、必要な情報を交換できるところもいいと言われます。

―― 離婚前の別居期間は、養育費もなければ行政のサポートもなく、先も見えないので、一番苦しいんですよね。まわりに同じ状況の人がいたら、すごく支えになると思います。
そもそもシングルマザーは、別居や離婚の際に住まいが見つかりづらいようですが?

秋山:賃貸の大家さんは、シングルマザーを敬遠する傾向があるんです。母子家庭=貧困というイメージが強いので、支払いが滞るんじゃないかとか、何かトラブルがあるんじゃないか、と心配されることが多いようです。

でも実際には、経済的に自立しているシングルマザーも多くいます。意欲もあるし力もある。でも住むところが決まらないと仕事ができないので、貧困の状態に陥りやすくなってしまう。そういう状況をなくしていきたいので、うちでは意欲のあるシングルマザーを歓迎しています。保証人もなしでOKです。

家賃はそれぞれの地域の相場程度の価格です。共有部分の家具は揃っていますから、基本的には、着るものとお布団さえあれば、すぐ生活できるようになっています。

―― シングルマザーはひとくくりに貧困だと思われがちですが、じつは、しっかり稼いでいる人も意外と多いんですよね。とくに東京の辺りは。この人たちは、こういうシェアハウスがあるとすごく助かると思います。

秋山:僕らは「助けたい」んじゃなくて「応援したい」んです。行くところがない人を助けるために入居させてあげる、というのではなく、「ここだから、入りたい」という人に入ってもらいたいんです。シングルマザーだからということで、特別な見方はしない、というのが僕たちのスタンスです。

もうひとつシングルマザーが不動産弱者になりやすい理由は、小さいお子さんを持つシングルマザーの方々がワンルームの物件を希望すると、2人以上の入居が不可ということが多く、それではねられてしまうという事情もあります。

■住んでいた人が「ここがよかった」という点
―― みなさん、どんな感じで生活されていますか?

秋山:人によりますが、仲のいいお母さん同士でお子さんを見合ったりして、楽しくやっている方もいますし、なかには共同生活が合わなくて、離れていく方もいらっしゃいます。

最近、以前うちのハウスで暮らしていたお母さんから、「ここで過ごせてよかった。あの一番辛い時期に、ここでの暮らしがあったから、いまの自分がある」と言ってもらえて、この事業をやっていてよかったなと思いました。

その方はいまでも、当時一緒のハウスに住んでいたほかのお母さんと仲良くしているそうです。お互いに子どものこともよく知っているので、家族のような感覚があるみたいです。

―― それは素敵ですね。その方は、ここのどんな点をいいと感じたんでしょう?

秋山:一番よかったのは、気軽に話をできる大人ができたことだと言っていました。食事中やお風呂上がりに、子ども同士を遊ばせながら、ほんの数分でも大人同士で話ができると、気持ちに余裕が生まれたと。そうすると、時間にまで余裕ができたような気がしたそうです。実際には、毎日とても忙しかったと思うんですけれどね。

一人でいると、ささいな悩みでもふくらんでいってしまうことってあるじゃないですか。自分を責めがちになりますし。ここだと話し相手がいるので、そういうのがなくなるのが、すごく大きなポイントじゃないかと思います。

―― ああ、そうですね。母子家庭じゃなくても同様でしょうが、母と子だけの関係って、きついですよね。大人同士で話ができると、ずいぶん精神的に救われます。

秋山:そうすると、お母さんの子どもへの接し方も変わるんですよ。叱り方も変わってくる。「ここに来てから、ママがあまり怒らなくなって良かった、と子どもに言われた」という人もいました(笑)。

あとは、まわりがみんな同じような境遇の人ばかりなので自分のことを話しやすい、という声もよく聞きます。離婚のことって、経験がない人には話しにくいみたいですね。

だからコミュニティが求められるんですが、シングルマザーは忙しいので、なかなかコミュニティを作ることができません。それを住まいで手に入れられるというのは、やっぱり大きな利点じゃないかと思います。

ここでの生活が「いいリハビリになった」と言われることもありますね。離婚してコミュニケーション能力の自信を失くしている人もいますけれど、ここでの共同生活を通して、その自信を取り戻すことができるっていうんです。

だから、ここに来たおかげで次の恋愛に踏み出す勇気が出た、という人もいます。その方は、再婚で退室されたんですが。

―― そうそう、離婚を経験した人は「自分は結婚や共同生活には向かないんだ」と思いやすいですけれど、実際は単に組み合わせが悪かっただけ、ということが多いんですよね。
ちなみに、みなさん、どれくらいここで生活されているんでしょうか?

秋山:阿佐ヶ谷のハウスなど、事業が始まったときから4年以上住んでいる人も多いです。短いと1〜2ヵ月という人もいるので、全体を平均すると、大体1年くらいでしょうか。

ここを離れる理由は、みなさんそれぞれです。新しいパートナーと生活を始める方もいれば、前の旦那さんと元さやに戻った方もいましたし、お子さんが大きくなってきて部屋が手狭になった、という方もいました。

■トラブルの最大の原因はコミュニケーション不足
―― 家事分担的な部分で、トラブルが起きたりはしませんか? たとえばお風呂やトイレなど、共有部分の掃除とか。

秋山:まず入居している人たちには「使ったものは元通りに、きれいにしてくださいね」という当たり前のことは伝えてあります。その上で、共有部分に関しては専門の業者を入れて、週に2回掃除してもらっています。

シングルマザー向けに限らず、シェアハウスはどこも同じように、プロの業者を頼んでいるところが多いですね。「気付いた人がやってね」というのだと、やる人とやらない人が出てトラブルになりますし、汚れていってしまうので。

―― ふうふ2人だって揉めますものね。夕飯は、入居者が交代で作るんですか?

秋山:いえ、食事の用意は世帯ごとです。しっかりお料理したい人もいますし、あっさり済ませたい人もいるので、そこはそれぞれのやり方で。キッチンは1つのハウスに複数用意してあるので、混み合ったりすることも特にないです。
食事は共有のリビングダイニングで、みんないっしょに食べています。


ただ、仕事から帰ってきて夕食の支度をするのって、シングルマザーにとって一番負担が大きくて、苦痛な部分なんですよね。だから、週に1回は外注の人を入れて食事をつくってもらう「チャイルドケア」という入居者サポートを行っています。

そうすると、その間はお母さんが自分の時間を持てるんですね。そうやって、少しでも仕事と育児の両立をしやすくしていきたいと考えています。

―― 入居審査はどのようにしているんですか?

秋山:うちは保証人なしでOKですが、支払い能力は確かめておく必要があるので、一般の賃貸物件と同様に、通帳を確認させてもらったりしています。

ただし、元旦那さんのストーキング行為のリスクがあるときには、本人にも周囲にも危険が及びかねないので、基本的にお断りさせていただいています。

―― そういう場合は、母子支援施設やDVシェルターに相談したほうがいいですね。入居者同士のトラブルなどには、どんなふうに対応されていますか?

秋山:集団生活ですから、どうしてもトラブルは起きますよね。それはその都度、チームで対応していますし、これからもそうしていくしかありません。

必要最低限のところで、ルールを設けることもあります。例えば「親族以外は男子禁制」というルールも、トラブルがきっかけになって、途中で加えたものです。

最近は、それぞれのハウスごとに作ったLINEグループで問題を共有するようにしているので、風通しがよくなりました。入居者全員と、僕ら運営チームが、そこでコミュニケーションを取っています。

こういう場があると、問題が大きくなる前に手を打てるのもいいですよね。トラブルが起きる最大の原因は、コミュニケーション不足の問題なので、そこをしっかりやるのに、LINEグループは役に立っています。

■成功事例はどんどん真似されて広がるべし
―― そもそも、秋山さんは、どうしてこういう事業を始められたのでしょう?


秋山:僕は「社会と人生に新しい選択肢を提案する」という理念でいまの設計事務所を始めました。「豊かさ」っていろんな基準がありますが、僕たちは、「選択肢が増えること」が豊かさだと考えています。

もしお金があっても、何も選べないなら貧困だし、不幸だと思うんです。だから、選択肢を増やすということを僕たちはやっていきたい。

なかでも、「子育てと仕事の両立」を選択できる社会にすることは、喫緊の課題だと考えています。こんな当たり前のことができない社会って、一体なんなんだろうと思うので。

僕はこれまで、商店街の活性化を始め様々な活動に取り組んできたのですが、そのなかで石尾さんというシングルマザーの保育園園長さんと知り合って、このシングルマザー向けのシェアハウスという構想に辿りつきました。

よく、実家が母子家庭だったのかと聞かれるんですが、そういうわけではありません。

―― 最近は、こちらと同じようなシングルマザー向けのシェアハウスが増えてきましたが、いかがですか?

秋山:いいですよ、こういうところがどんどん増えていかないとダメだと思います。なかには、うちのまるパクリのところもありますけれど、僕らはそれは気にしません。成功事例はそうやってどんどん真似されて、広がっていけばいいんです。

僕らは、そういうことの下支えをやっていきたいなと。

要は、シングルマザーであるという理由だけで住まいに困ることがない社会にしていきたいんです。だから、必ずしもシェアハウスじゃなくてもいいわけですし。

ペアレンティングホームに関しては、今後はフランチャイズのような形で広げていきたいと思っています。うちはシングルマザー向けシェアハウスの設立支援を請け負っているので、興味がある人はどんどん連絡をもらえたらと思います。

----------

シングルマザーの生活を応援しようというペアレンティングホーム・秋山さんらの取り組み。ぜひ、これからも広がっていくことを祈ります!

子育てと仕事を両立するシェアハウス・ペアレンティングホーム
http://parentinghome.net/

大塚 玲子
編集者&ライター。都内の編集プロダクションや出版社に勤めたのち、妊娠を機にフリーとなる。以来、書籍やムックの企画・編集・執筆などを行い、2014年からはWeb媒体にデビュー。結婚、離婚や子ども、家族をテーマにした仕事を数多く手がける。

    ランキングライフスタイル

    前日のランキングへ

    ニュース設定