今年もインフルエンザの流行が怖い季節になりました。毎年、この時期になるとインフルエンザの流行型やワクチンの摂取状況など、さまざまな情報がメディアを賑わせています。今回は、都内で行われたインフルエンザに関する勉強会で講演した、国立感染症研究所 ウイルス第一部主任研究官・中山幹男先生のお話しから、まだ、それほど知られていないインフルエンザの豆知識をご紹介します。
1.「インフルエンザ」の語源は?
インフルエンザという言葉は、14世紀ごろのイタリアで名付けられたといわれています。当時、感染症の原因が病原体にあることはまだ知られていませんでした。冬季になると毎年のようにインフルエンザが流行することから、「占星術師は天体の運行など惑星の『影響』によって発生すると考え、『影響』を意味するイタリア語の『influenza』と名付けられました」(中山先生)
2.インフルエンザ最初の大流行「スペインかぜ」って?
人類が初めて体験したインフルエンザの大流行は、1918〜1919年に発生した「スペインかぜ」(1918 flu pandemic, Spanish flu)と言われています。「5000万〜6000万人の方が亡くなり、第一次世界大戦はインフルエンザによって終わったと言われています」と中山先生。スペインかぜと呼ばれていますが、流行の発生源はアメリカ・デトロイトやサウスカロライナ州あたりと考えられています。
3.インフルエンザの原因は細菌?ウイルス?
インフルエンザはウイルスが原因の感染症です。しかし、中山先生が「スペインかぜが流行した当時、インフルエンザがウイルスによるものだとは考えられていませんでした」と語る通り、過去には「インフルエンザ菌」という細菌が原因と考えられたこともありました。イギリスのウィルソン・スミス、クリストファー・アンドリュース、パトリック・レドローらによって、ウイルスによるものだと結論付けられたのは1933年のことです。
4.1933年以前にインフルエンザウイルスを発見していた日本人がいた?
1933年にウイルスよる感染症と断定されたインフルエンザですが、実はそれ以前の1919年にインフルエンザがウイルスによるもの、と示した研究者たちがいました。そのなかには日本人の山内保博士がおり、その名は国際的な医学雑誌「Lancet」にも記されています。中山先生は「山内先生は、患者のうがい液を素焼きの壷に通し、人に感染させるという実験を行いました。その結果、感染者が出たことから濾過性病原体、つまりウイルスであることがわかりました」と、その研究手法を紹介。素焼きの壷は、非常に細かいものしか通さないことからウイルスであるとわかったとそうです。
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5.インフルエンザウイルスは「丸い」、は間違い?
ニュースなどでよく目にするインフルエンザウイルスの形はたいてい「円形」ですが、「これは鶏卵で培養したもの」と中山先生。「実際には、ヒトから分離したてのウイルスは『ひも状』の長い形をしている」とのことです。
6.完全なインフルエンザウイルスは10個に1個しかない?
ひも状のインフルエンザウイルスの中には、8本のRNAが入っています。しかし、「すべてのウイルスにこの8本のセグメントが入っているかというと、そうではありません」と中山先生。完全なウイルスは10個に1個ほどしかなく、「理論上は10個のウイルスにかからないと感染しない」ということになるそうです。
7.インフルエンザの感染経路は?
一般的に、インフルエンザはくしゃみや咳による飛沫感染が主な感染経路といわれます。しかし、中山先生は特に注意が必要なのは接触感染だと言います。「くしゃみや咳で飛んだ大きい粒子は、1メートル以内でほとんど落ちます。その落ちた飛沫がいろいろなところについてます。それを触った手が口にくる。ですから手洗いが非常に重要なのです」(中山先生)
8.インフルエンザ予防に重要なのは湿度?
冬になると流行するインフルエンザ。気温との関係がありそうですが、重要なのは湿度だそうです。「温度が18度、湿度が12%だとウイルスほとんど死にません。湿度が40%を超えるとウイルスはどんどん死にます」と中山先生。また、「温度を26度に上げても31度に上げても、低い湿度だとウイルスは生きてます」と語り、気温ではなく湿度が重要であることを示しました。
9.マスクは材質よりも「捨て方」が重要?
インフルエンザ予防や感染拡大の抑制に一役買うマスク。現在ではさまざまなタイプの商品が売られていますが、いわゆる「サージカルマスク」で十分だといいます。問題はそのマスクの捨て方だとそう。「マスクに付いたウイルスで二次感染がよく起きます。必ず耳元のヒモから外して、蓋のある入れ物に捨ててください」(中山先生)
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10.「うがい」はあまり重要ではない?
インフルエンザを含む感染症の予防には「手洗い・うがい」とよく言われます。しかし、うがいに関しては、ウイルスによる感染症への予防効果を示す確固たる研究成果はありません。「ウイルスが喉に付いた場合、すぐに細胞へ侵入し、うがいをしても洗い流すことはできません。喉に入らないように手洗いをしたり、マスクをしたりすることが大切です」(中山先生)
(QLife編集部)関連リンク
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