「動物への愛情だけではない」ビジネスとして見る、“生体販売をやめたペットショップ”のあり方

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2016年11月08日 16:52  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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 動物愛護の観点から、人とペットがどう暮らしていくかを考えるこの短期連載。第1回の記事では、ペットブームは架空であり、実際の飼育数は年々減っていること、そしてその背景には、ペットのブランド化が関係しており、現状を正していくためには「まず生き物に値段をつけること自体をやめるのが、そのきっかけになるのではないか」とお伝えした。

 そんな中、ペットショップでありながら生体販売をやめた店があるという。ペットの販売をやめても、経営は成り立つのか? 動物愛護とビジネスを結びつけることは可能なのか? 岡山市にあるChouChou店長、澤木崇さんにお話を伺った。

■ペットショップに至らず、命を落とす動物も

――まず、ペットの販売をやめた理由を教えてください。

澤木崇氏(以下、澤木) 2015年1月にやめるまでは、生体販売をする業者がショップ内にテナントに入る形で、動物を売っていました。日本では「ペットを飼いたい」と思ったら、ペットショップでお金を払って買うものと考えるケースがほとんどですよね。しかし愛護団体の方たちと知り合い、「保健所などには、捨てられて、新しい飼い主が見つからないまま殺処分されてしまう子たちがたくさんいる」と聞くようになりました。生体販売をすることで、こうしたひずみを生むのであれば、ちょっと考えを改めようと思ったんです。犬を家族として迎えたい人と、飼い主を探している犬を結びつけることを、業界の中からやっていこうと。

――殺処分ゼロを達成したと謳っている行政もありますね。

澤木 保健所に至る前に死んでしまう命がどれだけあるのか、それはほとんど表に出てこない数字なんです。流通の途中で死んでしまう子犬は少なくありません。

 本当は、まだ母親や兄弟たちと一緒に生活しないといけない月齢の子を引き離して、ケースに入れて、トラックや飛行機で搬送するんです。母親の元でなら生きられた子も、そういう過酷な環境を辿ったがゆえに死んでしまう。最近はペットショップも、ブリーダーを開拓して直接取り引きしているところが多いですが、関東や関西といった首都圏には、ペットの市場があり、全国展開しているような店は、市場でドサッと100頭くらい買って帰るらしいです。

――まるで野菜市場のようですね。

澤木 自分たちの「生体販売をしない」という活動を通して、こういう業界に提言したいと思っているんです。保健所には、殺処分が近づいている子たちがたくさんいますが、それを引き取って救ってあげるのは、これまでずっとボランティアさんや動物愛護団体の方でした。でも彼らがいくら努力をしても、蛇口が閉まらなければ、殺処分問題にはキリがないんです。


――蛇口というのは、捨てる人ではなく、売る人のことですね?

澤木 そうです。もともと無責任な飼い主は、無責任な販売があってこそ生まれます。ペットショップ側が、お客さんに「この子は、15年は生きます。15年飼うには何百万かかりますよ」などとしっかり説明すれば、そんなに無責任な飼い主は多くは出てこないはず。業界の中には「客が来たら、犬を抱かせれば勝ちだ」と言う人もいて、ほとんどの店がそういう売り方をしていますね。飼い主が飼えなくなったときの始末を自分たちでつけるならともかく、行政とボランティアに押しつけているのは、絶対におかしい。自分たちだけうまいところを摂取するのは、あり方としていびつだと思います。

■「改正動物愛護管理法」施行もきっかけに

――とはいえ、売り上げの主要部分であっただろう生体販売をやめるのは、簡単な決断ではなかったと思います。

澤木 ビジネス的な視点で言えば、13年に「改正動物愛護管理法」が施行されたことが大きいです。生体販売に対する法律的な締め付けが始まり、生後56日を経過していない犬猫の販売が禁止され、ネットのみの取り引きや午後8時以降の販売展示も禁止になりました。あまりに幼い犬猫を親から引き離すことや、夜間に眠らせないなどの虐待ともいえる販売方法に対して、世間的に批判の声が上がったからこそ行政が動いたのであって、これは今後、ゆるくなっていくことは絶対にないと考えています。

 世間の動きと法と、全てに鑑みて生体販売を続けることは果たしていいことなのか。このまま続けるよりも、業界内部から命を救う方向へ変換し、生体以外で利益を上げていく方が、はるかにビジネスチャンスが広がるのではないかと考えたんです。そういうことを親会社に一通り説明しました。なので、決して犬に対する溢れる愛情ばかりで始めたことではないんです。

――生体販売の売り上げが失くなった分は、どのように補っているのでしょうか?

澤木 ペット関連アイテムの販売でまかなっています。里親さんになっていただいた方の中には、最初の犬はペットショップで買ったけれど、その子がすごく可愛くて、犬のことをどんどん調べていくうちに、生体販売に納得いかないと感じ、「次は絶対保護犬をもらうと決めていた」という人もいます。保護犬を里親として迎えることに強い意味を見いだしてくれている方たちが多いので、うちの店自体に対しても、非常に強い思い入れを感じてくださるようです。なので、そういった里親になった家族が、そのままずっと継続して、うちの商品を買う顧客になっています。

――先ほど、「親会社に説明した」と言っていましたが、親会社は別の業種なんですか?

澤木 この店を経営しているのは、人材派遣会社なんです。そこの新規事業として、11年前にペットショップ事業を始めました。社員とコンサルタントが市内を歩き回って、新規参入できそうな業界を探したんです。その1つがペットショップでした。よそは衛生状態も接客態度もよくない店が多かったため、これなら業界に後追いで参入しても十分勝負できるだろうと判断したようです。

――他店の問題点を改善すればいい、ということですね。

澤木 ただ、うちのショップは開業時は生体販売をしておらず、アイテム販売のみ。その後、生体販売業者さんから委託販売のお話をいただき、アイテムとペットの両方を扱うようになった流れです。その際、他店の弱点である衛生問題、接客、そして商品力。この3つは絶対に崩さないことを方針として決めました。ちなみに開業時に8人採用したのですが、ペット業界経験者はその中で2人だけ。あとは接客を重視して、アパレルや飲食の経験者を中心に採用しました。

――生体販売をやめた今、物販による収益で経営していくとなると、接客業経験者のスタッフは心強いですよね。

澤木 もともと生体販売をしていなかったことも、今回の決断に踏み切れるきっかけだったかもしれません。10年ペット業界で仕事をして気付いたんですが、ペットショップは、動物の専門学校を出た人が就職して接客をしているケースが多いんです。平均年齢も24〜25歳と若い。うちは5人いる物販スタッフのうち、3人は開業時からのスタッフなので11年目、平均年齢は40歳くらいで、「ペットが好き」というよりも「ものを売るのが好き」な人を採用したいと思っていて、それが功を奏していると感じますね。


■動物を飼うことのどこに価値を見いだすか?

――「動物を扱うから動物の専門学校卒業者を採る」と単純に考えるのではなく、ペットを売らないペットショップでは、商品の選択、展示、接客の質向上が利益を生むと考えたのですね。ところで、犬の値段が上がっているため、ペットをステータスと考える人も多いと聞きます。「血統書付き」「ブランド犬」に価値を見いだすという。

澤木 自分がどこに価値を置くかの問題だと思います。例えば多くのハリウッドセレブや皇室の方が飼っているのも保護犬と聞きます。決して「高いから」「血統書があるから」すごいんだと考えるのではなく、何に価値を見いだすか。「人の品格」を何ではかるか、と同じではないでしょうか。

――物質的なものではなく、その“行為”に価値を見いだすということですね。

澤木 それだけに、私たちは里親になっていただく方はかなり厳選しています。犬の個性とその家の環境がマッチングするか、スタッフが念入りにお話をさせていただいて判断するんです。だからお断りするケースも非常に多い。去年の1月から保護犬を受け入れ始めて、1年半で22頭、月1〜1.5頭ペースで引き取ってきました。それから、里親さんにもらっていただいても問題がないレベルまでしつけをします。ただ問題点としては、ケージが4部屋のみなので、保護できる子の数が限られていること。保健所とうちとの間に中間施設を設けて、もっとたくさんの子を受け入れられる環境を作りたいですね。

 また業界全体を見ると、生体販売に疑問を持ちながら、取引上の付き合いや収入面で業態を変えられない店も多い。うちがそういった業者と深い関わりがなかったのも、事業転換が可能だった理由の1つではあると思いますが、今後も業界に提言していければと思います。


 動物愛護というと、利益度外視のボランティアというイメージも強い。しかしChouChouの取り組みは、ビジネスだけでも、動物愛護だけでもない、そのどちらも視野に入れた発想であるがゆえに、ペット業界を変える可能性を秘めているように感じた。

 澤木氏いわく、「殺処分ゼロ」を実行するにはまず「蛇口を閉める」=「生体販売をするペットショップを失くす」ことが必要だというが、次回はその段階より前の「産まれてくる子」の問題に取り組む「さくらねこプロジェクト」について取り上げたい。
(取材・文=和久井香菜子)

※ChouChou店長の澤木崇さん

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