働くママと美容 ――そのキレイ、自分のためでもいいじゃない

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2016年11月11日 11:02  MAMApicks

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爪が気になる。
最近とくに、爪が欠けやすくなってきた。

ネイルに普段から気をつかうほうでもなく、「仕事でパソコンのキーボードが打ちづらくなったら切るか」くらいのノリで構えているのだが、1歳の次男を抱っこするとき、ちょいちょい首やほっぺに爪が当たってしまう。泣かれるくらいなので、けっこうな痛さなのだろう。

爪の形状の関係で深爪ができない。
ちょっと伸びている程度が極限のミニマムなので、どうしたものかと思っている。

次男のズボンのウエストがあまりにでろでろになったので、ゴムを取り替えていたときのこと。

「うわあ!」

ゴムを固結びしすぎたのでほどこうとしていたら、左親指の爪が、右親指の爪と肉の間に突き刺さった。

私の親指の先からは、直近の出産以来となる大出血。圧迫止血を試みるもなかなか止まらない血に、「人間の指先って、意外と急所かもしれないな……」と、他人事のようにぼんやり考えたのだった。

■女は金もかかるが時間もかかる(※ただし母にはどちらもない)
「普通の女をやる月々のお値段が6万円」という趣旨のブログが話題になった。
“女”的なものとしてビジュアルを維持しようとすると、その維持費としての化粧品代などで月6万円は必要だ……というざっくりした試算である。

ふと、今“私の維持費”はどのくらいなのだろうかと計算してみた。

・化粧水=500円 月換算80円
・乳液=450円 月換算75円
・ホホバオイル=900円 月換算150円
・化粧下地(子ども用日焼け止め)=700円 月換算60円
・フェイスパウダー=600円 月換算50円
・アイブロウペンシル=500円 月換算80円
・メイク落とし=400円 月換算200円
・オーデコロン=3,000円 月換算500円
・デオドラントグッズ=700円 月換算120円
 =月1,315円
……思った以上に安上がりな女なのであった。

一応会社で働いている筆者であるが、化粧はフェイスパウダーと眉を書いたらおしまいなのである。所要時間10分弱といったところか。

昔、20代のころはもっといろんな工程があった気がする。
カラーコントロール下地、ファンデーション、パウダー、アイメイク、チーク、リップ……。夜のお手入れも、クレンジングに化粧水、乳液、パック。

私はどこで、それらをなくしてきたのだろうか。
激務を耐え抜いてきた、20代後半〜30代だろうか。

仕事でメガネをかけたときに邪魔になるからとマスカラをやめ、時間が惜しいからと、塗るほうも整えるほうも、化粧はどんどん簡略化していった。

「化粧が薄くてもいいんだよ。朝起きて、横で寝てるやつの顔が別人になってたら男の人だって困惑だろ?」と自嘲気味に笑い飛ばしながら。

その薄化粧が幸いしたのかは不明だが、男性の同居人を抱えるようになった私は1年後に子を宿し、職は失ったが母になった。

……母になってまもない生活というのは、まず家から出ない。
化粧をしないのはおろか、一日中部屋着ということもざらだ。

乳児がお散歩をするようになっても「近所だからいいや」と化粧もせず、部屋着の上にコートというスタイルで、平気で出歩く。
無職になって金もないので、散歩しては家に戻るだけの生活。

≪赤子はとんでもないものを盗んでいきました。それは母親が自分のケアをする時間です。≫

■“家で唯一の女子”を背負うという、勝手な使命感
第二子を妊娠後、その性別が男子とわかってから、「家の中が男ばっかりになるなー」と思うことが増えた。

単純な数の問題もあるが、筆者自身も、どちらかというと自分を男性としてカウントしていたフシがあったからだ。

スカートを履かなくなって久しかった。
ヒールは元から履けないが、今はパンプスではなくスニーカーがメイン。昔みたいにお金を好きに使えないから同じ靴をいつも履いていて、化粧っけもなく、髪の毛は適当に縛っていた。

年に1回、写真館で家族写真を撮る時のメイクを、ついに「女装」と言いはじめた。

私、このままでいいのだろうか?

「ねえ、子どもが生まれたら極力スカートを履くようにしようかな?」
私の意思表明(?)に、夫と長男はうれしそうに「いいんじゃない?」と言った。

……これが約2年前のお話である。

その後、我が家がどうなっているかといえば、落ち着きのない6歳児と歩きまわるようになって目が離せない1歳児に、日々翻弄されている。怒鳴って、走って、追っかけて。

「ほら、ノームコアとか流行ってるし。ジョブズもそうだったし……」
と言い訳しながら、同じアイテムの色違いをローテーションし、自分のコーディネートを考える時間を短縮。

メイクは眉毛だけ。アイシャドウもあるけど、もはやいつ買ったかわからないから怖くて使えない。美容院もお金がなく、なかなかいけなくて……あれ、気づいたら鏡の中の私の生え際が真っ白! 目の横にあるこれ、何?シミ……?

「せめてスカート履いとこう」以外に自分を構う余裕がなくなった筆者は、産後太りもあり、なんだかひどく老けて見えたのであった。


……このままではいかん!!!

“日本のカワイイ”を全部背負っているのが増田セバスチャンなのだとしたら、今、“我が家のカワイイ”をすべて背負っているのは筆者なのである……たぶん。

「子どものため」という大義名分で自分の外見をサボって構わなくなった結果、仕上がりに納得いかずイライラして子どもにあたっているくらいなら、いっそのことちょっと無理してでも、かわいくしたほうがいいのではないか。
……そう、自分のために。

■そのキレイ、誰のため?
少し前、化粧品のCMがネットで炎上していた。
仕事が忙しすぎて化粧がおろそかになっていると、男性上司から「女子力がない」などと嫌味を言われる……という点がとくに燃えてしまったのだろう。

一応、筆者も女として40年ほど生きているので、“化粧”と“働く女性”の距離感は、なんとなく感じているつもりだ。「マナーとしての化粧」と「趣味としての化粧」その両方が存在することだろう。

前者に関しては、そこそこ大人である今も正直、疑念を抱いている。
しかし、業種によっては女性のノーメイクが許されない正当な理由が、何かあるのかもしれない。

後者は、若い時を思い出してもよく分かる。ある種の武装なのだ。
強くなれる、違う自分になれる、テンションがあがる。グレーのアイシャドウにバッチリアイライン、真っ赤な口紅を引くのが楽しかった。ドレスコード的なメイク。どうせ夜通し遊んで、明け方にファミレスのトイレで見る自分の顔は、メイクがはげてパンダになっているのだけど。

そうだ。もう授乳もしてないし、抱っこ紐も使っていないし、ちょっとずつ「お母さん仕様」をやめていってもいいかな。

手はじめに、ホコリをかぶっていたメイクボックスを片付け、爪みがきを発掘。ネイルケアからはじめようと最新のケアグッズを見て回るのだが……1,000円以上のものに手が出ない。子どものものにはポンポン出しているくせに、自分の贅沢品にはびた一文出す気が失せているのだ。

結局、300円のマニキュアを買うのに1週間悩み、800円のネイルオイルを買うのには1ヵ月悩んだ。

さあ、道具が揃ったところで爪に色を塗る。道具が揃ってからすでに何日も経過していたが、それは寝かしつけのつもりが寝落ちしていたせいである。

≪なんでもない日のネイル、何年ぶりだろうか≫

……私は大事なことを忘れていた。
筆者が、恐ろしく不器用でせっかちだということを。

片手の爪に色がついたところで体のあちこちが痒くなる。しかしかけない。

あ、明日の連絡帳まだ書いてないじゃない?
どうしよう、眠くなってきたけどまだ爪が乾いてないし、歯もまだ磨いてないし……。

結局、爪が乾く前に寝落ちしてしまい、爪の表面には縄文式土器のような模様がついた、残念な仕上がりになったのであった。

「私、プラモ作りとかも絶対向いていないだろうな」

……マニキュアをしくじった後の感想がこれである。

しかし、塗装して補強した爪はなかなか調子がいい。簡単には折れなくなったし、爪に色が付いていると気になるので、所作がちょっと女らしくなるようだ。

メイクもちょっと色数を増やしたくなって、ドラッグストアのテスターを試してみた。ピンクの目元、うん、悪くない。

そんな週末、次男と二人で出かけたのだが、ベビーカーの乗車拒否を食らい、片手に1歳児、片手にベビーカーというスタイルで横断歩道を渡っていたのだが、漫画みたいに、手をつないでいた次男が道路の真ん中でころんだ。

──点滅する信号、座り込む1歳児、持ちきれないほどの荷物。

しかし、1歳児育児が二度目である筆者は、もうこの程度では慌てない。
ラグビーボールのように次男を小脇に抱え、ベビーカーをさっそうと押して無事に渡りきった。歩き疲れた小さい人が、やっとおとなしくベビーカーに座る。

その時にこすったのであろう、私の右手親指の先はまたしても流血していたのであった。

この調子なので、筆者の“育児と美容の両立問題”はなかなかの前途多難であるが、趣味としての“美容”を楽しむ余裕を、どうにかして捻出したいところである。

ワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在はWEBディレクター職。

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