インターネットは食卓をどう変えた? 現代の家庭事情に見る「WEBと料理と私」

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2016年11月29日 15:13  mixiニュース

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明治維新、関東大震災、第二次世界大戦……。日本人の食生活は、歴史的な出来事をターニングポイントとして大きく形を変えてきました。新たな文化や食材、情報、技術の普及が、食卓に変化をもたらしたのです。

ここ十数年、我々の生活を大きく変えたものといえばインターネットです。仕事や人間関係、時間の使い方が一変しました。その変化の波は食卓にも及んでいるのでしょうか。IT分野に造詣が深く、料理本の著作もある、ジャーナリストの佐々木俊尚さんに伺いました。

「クックパッドvs.料理本」家庭が支持したのは?


−−−ネットが家庭料理に与えた影響についてご意見を聞かせてください。まず初めに思い浮かぶのは「クックパッド」ですが、佐々木さんは、当サービスの普及をどうお考えですか?

佐々木氏 その話をするには、まずは家庭料理の変遷から始めたほうがいいと思います。一昔前までは、主に女性が母親から家庭の味を継承したり、スクールに通って料理のスキルを身につけたりするのが一般的でした。ところが90年代あたりから、家庭料理の崩壊が叫ばれ始めます。理由は様々で、核家族化の進行や、「中食」と呼ばれるスーパーやデパ地下の惣菜、コンビニ弁当などの進化。さらに、鍋の素など「半調理品」が広く使われるようになった影響も考えられます。

−−−時代が移り変わり、手間を掛けずに食事の用意ができるようになっていったと。

佐々木氏 ただ、手間を掛けないデメリットもあります。「中食」は毎日食べるには割高です。日本の平均年収が落ち込んでいく中、そんな贅沢はそうそう続けられません。かといって、手頃な「半調理品」ばかりに頼ってしまうのも不健康な気がする。とはいえ、共働きが増えるに連れ、料理の時間はどうしても減っていく。つまり、多くの家庭が「時間がない」「お金の余裕もない」、でも「まともなモノを食べたい」というジレンマを抱えていたわけです。そんな悩みを解消するツールがクックパッドだったのではないでしょうか。

−−−料理本という選択肢もある中、なぜクックパッドが支持されたのでしょうか?

佐々木氏 料理本は著者のオリジナリティが重要で、どうしても凝った料理になりがちです。例えばおひたしを紹介する場合、「茹でて、冷まして、醤油をかける」だと独自性がなさ過ぎてプロの提案とみなされません。そこで、海苔を混ぜるとか、桜えびを乗せるといった独自の提案を加えていくわけです。ただ、そういうひと手間って、作る側にとっては面倒ですよね。

−−−毎日やれるかと言われると、ちょっと……。

佐々木氏 さらに言えば、料理本はメニュー中心の構成で、作るべき料理がまずあって、それに向けて必要な食材を集めたり、綺麗に盛り付けたりしなければなりません。忙しい家庭で、そこまで出来ますか?

−−−子供がいる共働き家庭などだと、なかなか難しそうです……。

佐々木氏 例えば、夜6時に子供を保育所に迎えに行って、帰ってすぐに食事の支度をしなければならない。冷蔵庫にはキャベツとニンジンがある。さあ、何を作ろうかと。そうなると、料理本よりクックパッドのような食材からメニューを検索できるサービスのほうが便利なわけです。

−−−時間も予算も掛からず、限られた素材でシンプルに作れる料理。そんな時代のニーズに合ったレシピが一般人発信で続々ネットに集まると、料理本は存在感を失っていきそうですね。

佐々木氏 だからと言うわけではありませんが、最近の料理本は、料理そのもののアップデートから、より狙いを定めた視点の提供へとシフトしているように感じます。例えば、編集者・梅津有希子さんと料理研究家・高谷亜由さんの共著『終電ごはん』。本書は深夜まで働く社会人やその家族をターゲットに、手軽に作れて太らないメニューなどを紹介しています。ほかでは、料理研究家・土井善晴さんの『一汁一菜でよいという提案』。「一汁三菜」が食事の基本と考えがちですが、おかずがほとんどなかった戦前のスタイルに戻ってもいいのではないかと。こうした提案は、一般人からはそう簡単に出て来ない、まさにプロの仕事と言えるでしょう。


野菜に不思議なネーミングをするのはなぜか?


−−−この企画は「ネットが家庭料理を変えたのではないか?」という仮説から始まりましたが、家庭料理のシンプル化の流れは社会の変化を背景としたもので、ネットによる変化というわけではなさそうですね。

佐々木氏 近年、料理を含め「衣・食・住」の世界で、“シンプル化”と“暮らしを大切にする”という2つの流れが広がりを見せています。その潮流を支えるサービスがネットからも出て来ている、と見るべきでしょうね。ネットが家庭料理を変えたわけではないし、何でもかんでもネットの影響とするのは無理があります。

−−−ではクックパッドのほかに、“シンプルで良質な食”を求める層に対して大きな役割を担っているネットサービスは?

佐々木氏 強いて挙げるとすれば「オイシックス」でしょうか。例えば「KitOisix(きっとおいしっくす)」というレシピ付きの料理セットは、ある程度処理した食材が用意されていて、手際良く調理に取りかかれます。ただし、素材は無農薬有機野菜で、調味液にもいわゆる“うまみ調味料”が含まれていない。時間が掛からないわりに、出来上がった料理は程よく健康的なわけです。そのバランスが絶妙で、このセットは爆発的に売れました。

−−−お金や時間が限られる中、「何を選んで、何を妥協するか」を悩む家庭に対して絶妙な着地点を示すのが、今どきの料理系ネットサービスの役割ということでしょうか?

佐々木氏 それだけではありません。オイシックスは食材や生産者から生まれる「物語」を大切にしています。例えば、フルーツのような甘味をもつ生食可能なカブに「ピーチかぶ」と名付けているのですが、そんな不思議な名前の野菜があったら誰でも気になりますよね?

−−−まあ、普通に「えっ? 何それ?」と。

佐々木氏 そこから「実はね……」と食卓でコミュニケーションが生まれるシーンが想像できます。ネットの特性として「良質な物語が共鳴を呼びやすい」という側面がありますが、オイシックスは食材や生産者にまつわる物語をきちんと紡いで発信し、消費者に届けています。それは単に料理の素材を提供するだけでなく、質の高い物語も一緒に届け、食卓にコミュニケーションという新たな価値を提供しているとも言えると思います。

−−−家庭料理、ひいては食を巡るライフスタイルを良質でシンプルなものにしていこうとする一連のトレンドは、今後も拡大していくのでしょうか?

佐々木氏 基本的には、そういう層とマス的な消費をする層に二極化していくと思います。イオンのような大型スーパーに行けば、「半調味料」が無数に並んでいて、マス層にしっかり支持されています。一方で、そこに頼り切ることに不安を感じ、お金や時間の余裕はないけれど暮らしはきちんとしたい、という層も着実に増えてきている。こうした層がいずれ無視できないレベルに拡大していくでしょう。そこから新しい食文化が構築されたり、それを支えるビジネスが普及していったりする。そういう方向へ時代は進んでいくと思います。


まとめ

1998年に始まったクックパッドが00年代に入り一気にブレイク。その後、数多くの料理レシピサイトが登場し、一般人発のレシピを当たり前に見かけるようになりました。

ブログやSNSが浸透してからは、お弁当や手作り料理の投稿も活発化。意外性の高い調味料の使い方「ちょい足し」や、カップヌードルの“謎肉”を使ったチャーハンなど、ネットらしいアイデア料理やムーブメントも注目を集めています。

そして近年、最も勢いがあるのは料理動画でしょう。特長は何と言っても、短く編集されたリズム感のある映像。調理の参考にするのはもちろん、“面白くてつい眺めてしまう”という声も多く耳にします。今後、間違いなく、ネットレシピの大きな潮流になっていくことでしょう。

皆さんは、料理に際してネットをどのように活用していますか? 参考にしているサイトや人があれば、ぜひ教えてください。そのほか、ネットによって料理との向き合い方が変わった経験など、「ネットと料理」にまつわるエピソードやご意見の投稿もお待ちしております!


●識者プロフィール
佐々木 俊尚氏 (ささき・としなお)
作家、評論家、ジャーナリスト。毎日新聞社、月刊アスキー編集部を経て2003年に独立。IT・メディア分野を中心に取材・執筆を行う。料理への造詣も深く、多数の著作の中には料理本『簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス/2014年)も。


●文・構成/編集部 撮影/森カズシゲ 【関連記事】
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このニュースに関するつぶやき

  • 扱いのわからない食材を入手したときに検索すると下処理のしかたから載ってたりして便利<クックパッド
    • イイネ!61
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