ふたりで育児のスタートは危機感の共有から 〜10人の記録から見える産後の過酷さ

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2016年12月02日 10:32  MAMApicks

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さて問題、これは何の表でしょうか?


答えは、1日の授乳回数。知人から協力を得て、10人分の第一子生後3ヵ月頃の授乳記録を表にしてみた。ある1日の授乳のスタート時刻を1時間区切りでマークしてある。

■1日中エンドレス!
どうみても、授乳の丸印で埋まりすぎじゃないだろうか。

たまたま集まった10人分の記録でしかないけれど、1日に7〜9回の人が多い。1日8回なら3時間ごと、9、10回なら2時間半前後ごとだ。

生後1〜2ヵ月の頃はもっと回数が多い場合が多いから、少なくとも出産後3ヵ月、これ以上のペースも含む授乳生活を、1日の休みもなく繰り返してきたわけだ。そして、その先もいつ終わるかわからない。

この丸の連なりの向こうに、新米ママたちの過酷な現実がある。

■分断される時間と長い拘束時間
この頻度で授乳するというのは、その都度、あらゆることが中断されるということ。

赤ちゃんが泣きだして授乳かな、と感じたら、家事をしてようが食事をしてようが寝ていようが「はいっ、そこで強制終了っ!」。母乳でもミルクでも、授乳に体と時間を明け渡さなければならない。それが夜も昼も関係なく繰り返される。

しかも、授乳っていちいち一回の所要時間が長い。1度に2〜3分で飲んで終わりなんてライトな作業じゃない。

パターンもタイプもいろいろで、最短コースなら10分以内で終わることもあるけれど、20分とかは当たり前のライン。飲むだけでそれ以上かかることもある。

そして赤ちゃんは飲みながら寝入ることが多いから、そのまま深く眠る安全圏まで抱っこし続けているうちに1時間経過、なんてことも平気である。

だから、仮に「3時間ごと」だとしても、授乳に1時間使ったら、次の授乳スタートまで2時間しか空かない。「1時間ごと」とか「2時間ごと」なんていったい何分空くのやら……。

■細切れ時間ですべてをこなす
この、昼夜なく細分化された昼夜のない時間区切りで、授乳以外のすべてをこなすわけだ。

まず赤ちゃんの世話。オムツを替え、起きていたら相手をして、散歩に連れて行き、絶え間ない抱っこ要求に応え、体調を気にかけ……ほぼ張り付きっぱなし。基本的に赤ちゃんが寝てくれない限り、自分の体は空かない。

そして、自分の生活。ごはんを食べる、トイレに行く、歯を磨く、顔を洗う、身支度をする、お風呂に入る……そんなごく当たり前の日常生活の項目をこなすのに、「よし今だ!」みたいなタイミングをはからないとならない。

これに、さらに家事。炊事、洗濯、掃除……プラスしてやるのは、かなり無理な領域にさしかかる。いや、無理、と言い切った方がいい。

そもそも、この多忙で細切れ時間の中にどうやって自分の睡眠時間を滑り込ませるのか?

■強烈で慢性的な睡眠不足!!!
「3時間でいいから、まとまった睡眠時間が欲しい」……私の新生児育児期のリアルな感覚だ。そんなママの声は授乳記録からも伝わってくる。

今日だけたっぷり寝て明日からまたがんばろう!をできるタイミングがまったくない。ゆっくり体を横たえ3時間以上の睡眠を取れない生活をとりあえず3ヵ月続けるとどうなるか想像してみてほしい。

「俺だっていつも睡眠不足だ!」と軽くブラックな働き方をしているパパは思うかもしれない。気持ちはよくわかる。毎日終電帰りとか、朝まで会社で仕事とか、2日くらいどうにか徹夜とか、そういう状態は私自身も記憶にある。

でも、あれよりも、産後の睡眠不足は格段にきつかった。1日の終わりの帰宅も、週末の「寝だめ」もできないエンドレスって、異質な過酷さだ。

睡眠不足ってけっこう簡単に人をまいらせる。体がしんどいだけじゃなく、判断力は低下し、気持ちの余裕は確実になくなり、「優しさ」なんて赤ちゃん意外のどこにも残らない。

実のところ、赤ちゃんにでさえ、時々優しさなんて失うものだ。夜中にやっと眠れた1時間後に泣きだして……なんて繰り返していたら、「えぇ?また?勘弁してよぉ……」という言葉しか出なくなる。

■産後の過酷さは見えにくい
その割に、ママ本人は根性でがんばってしまいやすい。「手伝って!」とは思えても、「眠くてもう限界!」とは気づきにくい。夜中ぐうぐう寝ている夫を心で蹴飛ばしながら、「彼も仕事で大変だから」と起こさずひとり睡魔と戦い赤ちゃんを抱き続けるママの現実もあるのだ。

だから、こんな事態に陥っているママと一緒に住んでいても、夫は意外とその深刻さに気づかない。産後すぐの生活に張り付いて目撃し続けないと気付けない。

家で、ハッピーなピンク色のハートに包まれた幸せなママと赤ちゃんが待っていると思ったら大間違い。現実は、価値観も生活も180度転換して、体力と気力を消耗しきった睡眠不足の大人が、簡単に失ってしまいそうな小さな生命を守ろうと、必死の形相で睡魔と戦っているのだ。

狭い部屋の中で延々と。予測のつかない無限ループの中で。

これ、ごく普通に考えて、危険じゃないだろうか。

■育児は「誰でもできること」って思うのをやめにしよう
男女限らず、出産とか育児っていうのは「誰でもできる普通のこと」と思いやすい。私も自分が直面するまで新生児育児の現実を知らなかったし、多くのママたちが、「こんなの聞いてない!」という実感をもっている。

ママが否応なく放り込まれて必死にジタバタしていても、パパは相変わらず、「誰でもできる」のになんで君はそんなに大変そうなの?と思いやすい。ママは、「誰でもできる」はずなのに、なんで私はこんなに大変でこなせないんだ……と自分を追いみやすい。

でも、もう一度、最初の表を見てほしい。


客観的に見て、この授乳ペースだけでも、十分「きつい」と思ってよくないだろうか? しかも、出産で傷だらけの体と命を預かる不安な心で、この時間軸に放り込まれるのだ。むしろ緊急事態。

育児って「誰でもできる普通のこと『ではない』」と、男性も女性も自信を持って言っていいはずだ。

■「ひとりでできる!」と男女ともに思わないこと
育児を「育休を取ってまで男が手を出す必要はない」っていう当事者意識の欠如と「女ひとりで乗り越えられなきゃかっこ悪い」というプライドの根っこは同じだ。ここにはまだ余裕があって危機感がない。

男性は、主義で「育児参加」を語れる生ぬるい状況ではなく、自分が家庭を回すために動かないと「ヤバい」はずなのだ。
女性は、「そのタオルのたたみ方は違う」と家事のクオリティにこだわっている場合じゃないはずなのだ。

この難局を、とりあえず、ふたりプラス赤ちゃんで健康に生き抜くことだけが重要。そのためにそれぞれのプライドとか主義とか計画とか全部一旦壊して、捨てるものを捨てて再構築しないと、核家族時代のふたり育児なんて乗り越えられない。

ふたりでドロドロの睡眠不足に陥って、パパの仕事効率ガタ落ちとか、ふたりとも赤ちゃんの汗とヨダレと飲み残しでベタベタでくさいとか、親の食事はカップラーメンだとか、そういう、ふたりで適度に総崩れ、くらいで別にいい。あとで「あのときはお互いキツかったよね〜」と言い合える。

気をつけないと、ママは平気で頑張る。パパはうっかり無神経な言葉を吐き、ママの孤独を深める。そうやって、同じ家にいるのに、夫が気づかないうちに壊れるママは本当にいるのだから……。

■過酷さをオープンにすること
最初の過酷で異常な生活リズムを、女性が根性で孤独に切り抜けたり、女性が女性を助けるエリアに閉じ込めている限り、パパは目撃すらできない。見えるところにさらさなければ、危機感は共有されず、男も女もきっと生き方なんて変えられないだろう。

だから、しつこく、もう一度、この表を見て欲しい。


育児は、過酷できついスタートを切る。だから、ふたりで本気で戦った方がいい。作戦は、いくらでもある。

危機感の共有が、最初の大切なステップだ。

【お知らせ】
コラム筆者の狩野さやかです。12/7(水)に「ふたりで育児」がテーマのワークショップを開催します。今回は「ママのもやもや大整理!」ぜひご参加ください。
詳しくはこちら→ http://patomato.com/oyaoya/2016/11/1092/

狩野さやか
Studio947でデザイナーとしてウェブやアプリの制作に携わる。自身の子育てがきっかけで、子育てやそれに伴う親の問題について興味を持ち、現在「patomato」を主宰しワークショップを行うほか、「ict-toolbox」ではICT教育系の情報発信も。2006年生まれの息子と夫の3人で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者資格有り。

このニュースに関するつぶやき

  • ほんまそれ!!夫婦2人きりで乗りきったけど、ホント過酷だった。産後のボロボロな体調なのに一時も休めず辞めれもせず、これ以上ブラックな仕事はないと思ってた。
    • イイネ!1
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