「病気と思われない」「不調を気軽に話せない」多発性硬化症患者の悩み

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2016年12月08日 18:01  QLife(キューライフ)

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広がる治療選択肢、新たな問題も


医療法人セレス理事長・さっぽろ神経内科病院院長 深澤俊行先生

 多発性硬化症(MS)は、再発と寛解を繰り返しながら徐々に病状が進行する慢性疾患で、視力障害や運動障害、感覚障害などさまざまな症状があらわれる難病です。日本国内の患者数は2万人程度といわれ、年々増加しています。バイオジェン・ジャパン株式会社は12月2日、医療法人セレス理事長でさっぽろ神経内科病院院長の深澤俊行先生を招き、メディア勉強会「多発性硬化症診療の変遷と患者さんが抱える課題」を開催しました。

 日本国内でMS患者が増加している背景には、食生活の欧米化や生活習慣の変化などがあるといわれていますが、MSを発症する原因はわかっていません。世界的にみると高緯度地域で患者が多く、日本でも北海道や東北で多い傾向があります。男女比はおよそ1:3で女性が多く、年齢では、20〜30歳代で多く発症します。この年代は、就職や結婚、出産など、「人生これから」といえる時期。しかしかつては、発症するといつ再発して寝たきりになるかわからないという不安を抱え、医療者であっても手立てがない時代がありました。病気が進行すると歩行困難になるなど生活上の支障が生じるため、「結婚生活がうまくいかなくなって離婚する患者もいた」(深澤先生)とのこと。

目立たない症状に悩む患者も。周囲の理解が必要

 近年、再発進行を抑制する治療薬が登場し、早期に治療を開始すれば、病気の進行を遅らせることが期待できるようになりました。ところが、治療できるということで、新たな課題が浮かび上がってきたと深澤先生。治療を続けることで、一見、健康な人と同じように生活しているように見えても、患者には運動障害、視覚障害、疲労、排尿障害、感覚障害など、外見に表れにくい症状があります。こうした症状は、しばしば「サボり」とみなされるなど、周囲の理解を得られずに患者は苦しんでいるというのです。

 深澤先生の施設で実施した調査では、MS患者の症状のうち、家族が把握していない症状として、「疲れやすい」(100%)、「ヒリヒリする」(86.4%)、「締め付けられる感じ」(66.7%)、「1日に何度もトイレに行く」(61.9%)があげられています1)。さらに、患者と家族の間にあった問題では、「心配してもらえない/病気と思われない」(43.8%)、「不調を気軽に話せない・隠している」(27.3%)「怠けていると思われる」(20.5%)、「病気を理解してもらえない」(20.5%)、「家事や育児を助けてもらえない」(20.5%)があげられていました。深澤先生によると、患者のほうも、周囲に心配をかけたくない、嫌われたくないという思いから、繰り返し説明して理解を求めようとせず我慢してしまうケースが多いそうです。

 さらに、制度の面でもMS患者は新たな問題に直面しています。特定疾患医療費助成制度が2015年から変更になり、MSは軽症の患者の場合、自己負担額が増えることになりました。若年・女性が多いMS患者は厳しい経済状態にある人も多いと考えられることから、金銭的な理由で治療を続けられなくなり中断してしまう恐れがあるといいます。再発から重症化し、仕事を続けられなくなる患者も出てくるかもしれません。そのような場合の社会的な損失も考えなければいけない、と深澤先生。治療の進歩だけでなく、社会の理解も進んでいくことが期待されます。

 「MSを発症する人やMS患者が、病気に配慮のある社会の中で、主体的に生きられるような社会になってほしい。そのために、病気を知り、病気を持った人として気づき、患者もまたふつうの人であることを理解してほしい」(深澤先生)。

(QLife編集部) 1) 須藤洋恵ほか:日本難病看護学会誌. 2014;19(1):61

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