テレビCMでもお馴染みの結婚情報誌『ゼクシィ』。本来は幸せになるためのアイテムが、女子プロレスのリングで「凶器」として使われた、というネットニュースが注目されているようです。なんでも「婚活軍」と「新婚人妻軍」の全面対抗戦での一幕、とのこと。
とても「プロレス的」な軍団闘争。こういった分かりやすい「対立構図」は、プロレスを楽しむ上で、とても大事なのですよ。ELITE軍と雑草軍、ベテランと新世代、イケメンと不細工、優等生の正規軍と好き勝手するヒール軍団、などの「構造的対立」があるリングと無いリングでは、圧倒的に前者のほうが見ていて面白い。どうしてかというと「自分にも当てはまる事なんだけど、日頃はなかなか言えない」ことだから、なんですよね。
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■共感を誘う「構造的対立」を見事に体現した
構造的対立──個人の自由意志だけでは成り立たない、立場や、思想や、出自、世代などの問題が、同質の仲間を巻き込んで、いつのまにかヒト対ヒトの対立構図になってしまうもの。
生きていれば「対立」することってあるじゃないですか。個人の好き嫌いとか相性の悪さや、誰のせいでもない、構造的な問題としても。そんなとき、なかなか現実のコミュニティの中では「喧嘩」できない。愚痴ったり、陰口を言ったり、自分でぐっと飲み込むしかない。だから、プロレスのリングの上で、誰の目にもわかりやすく「立場の違うものどうし」が「対立」し「抗争」してくれると、(それが茶番めいた演出だったとしても)感情移入できて、スカッとしてしまうんですよね。
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前述の記事の団体(東京女子プロレス)では、年頃の女性が「婚活中の売れ残り独身」と「勝ち組既婚者」に分かれて、殴り合ったり、髪つかみ合ったり、してくれているわけです。
そりゃ面白いでしょ。売れ残り組がゼクシィで既婚者殴ったら、そりゃ盛り上がるでしょ。分厚い婚活雑誌は、たしかに強力な武器になるし(笑)、結局結婚したいってことは、勝ち組へのジェラシーで戦ってるんですよ。めっちゃ共感を誘いやすい。そのうえで、既婚者が独身女を蹴散らして圧勝してしまっても、最高のエンタメになり得るでしょ。私的にはそっちが観たいですね。
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■「うさんくささ」の上に成り立つ率直で楽しい世界
我々にもあるはずです。構造的な圧力を感じてしまったり、嫉妬したり、恨んだり。日常の人間関係のなかで、そんな態度を出してはいられない。だからこそ、この茶番めいたリングの上の出来事に、共感できるところがあるのでしょう。それが「プロレスの楽しみ方」のひとつなんですよ。
メジャー団体の軍団闘争にしてもそう。優等生だった若手がいきなりベテランを裏切って凶器でボッコボコにして「お前らの下でやってたら、俺はいつまでやってもトップになれない。貴様らぶっ壊して引退させてやるからな覚悟しとけよ」とか言い始めて、若手軍団結成して5vs5対抗戦とかしたらもう、応援するしかないじゃないですか。
みなさんも身に覚えがあるでしょう。そういうことなんですよ。日常に潜む構造的ストレスに対するカタルシスの場として「プロレスのリング」は最高のステージなんですよね。過剰な演出、茶番な展開、その「うさんくささ」があるからこそ、我々のジメジメした鬱屈を「明るく楽しく」代弁できているんですよね。