園子温の代表作『愛のむきだし』TV版リブートの意義とは? モルモット吉田が解説

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2017年02月11日 18:23  リアルサウンド

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『愛のむきだし』

 2009年に公開された映画『愛のむきだし』が完全リブートのTVシリーズとして、現在J:COMで放送・配信されている。2000年代を代表する一作であり、監督・園子温の名前を揺るぎないものにした本作は、西島隆弘、満島ひかり、安藤サクラの熱演を刻み込み、いまなお日本映画史上に燦然と輝き続けている。


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 公開から8年が経過したいま、TVシリーズとして蘇る本作の魅力について、映画評論家であり、『園子温映画全研究1985-2012』(洋泉社)の著者でもあるモルモット吉田氏に話を聞いた。


「元々237分の大作ですが、それでも編集で落としたシーンが、かなりの時間あったそうです。園監督もこの作品に愛着があり、予算の関係で描き足りない部分があったようで、数年前に新たにTV版リメイクをしたいという構想を聞いたことがありました。今回は追加撮影をしたものではなく、未使用映像を足して再編集したものですが、TV版リメイク構想が形を変えて実現したようにも思います。ビデオが普及するまではテレビで映画が放送されることが大きな話題になりました。80年代には、『ゴッドファーザー』や『ラスト・エンペラー』など長尺の映画が、“TV版”として再編集されて放送されたこともあります。『ゴッドファーザー』は、パート1、2を時系列順に再編集した『ゴッドファーザー テレビ完全版』としてひとつの作品になっています。日本映画では、『南極物語』をテレビ放送した時に40分追加した完全版を2日に分けて放送したことがあったぐらいで、今回の試みは非常に珍しいのではないでしょうか。
 『愛のむきだし』のような長尺の作品で、複数のドラマと人物が交錯する物語は、30分ごとに区切る形でも見やすいでしょうね。映画版はチャプター別に異なる時制から、それぞれの物語が進んである時点で交錯して爆発するような一種の大河ドラマになっていました。それに各キャラクターに魅力がある作品だったので、連続ドラマへ再構成しようというアイデアが生まれたのだと思います。こうした魅力がなければ、ただ細分化させただけの作品になってしまうでしょう。『愛のむきだし』は西島隆弘、満島ひかりという主役だけではなく、安藤サクラ、綾野剛、松岡茉優など、その後ブレイクした俳優たちも多く出演しています。初公開シーンが1時間近くあるので、新たなサーガとして、TV版ならではの再発見があるのでは」


 公開当時、本作を観た直後、モルモット吉田氏は大きな衝撃を受けたという。


「それまでの園作品を全部観ていましたが、手放しで大絶賛ということはなかったんです。とてつもなく魅力的な部分と、そうでない部分の凹凸が激しい印象がありました。後で分かってきましたが、監督の構想が大きすぎて、予算的には到底描ききれないことをやろうとしていたからです。実際、現場では撮りきれないとなると、台本を何ページも破ってしまうこともあったようです。『愛のむきだし』はとにかく台本に書いてあることを全部撮ると決めていたようです。とてもこんな長大な映画を撮る予算もスケジュールもないのに、無理やり撮りきった。確かにチープな部分や荒っぽい部分もあるのですが、これまでにない爆発的なエネルギーをもった傑作になりました。この作品によって、園子温監督が映画で表現したかったことがようやく多くの観客にも伝わったのだと思います。
 初公開から8年が経ちますが、いま見ても魅力がつまった作品です。カルト教団からの脱会という、日本人にとっての宗教という重いテーマも抱えつつ、エロもあれば、ボーイ・ミーツ・ガールのシンプルなラブ・ストーリーでもあり、若々しい俳優たちによる青春映画でもあります。映画が描くことができるものを全てつめこんだ作品とも言えるでしょう。今回初めて見る人も、この作品が持つ圧倒的な熱量に感化されると思います」


 この企画が配信・放送されている点も注目すべきポイントだと語る。


「本作は映画の再編集リメイクという形で放送・配信がされていますが、映画監督が配信系ドラマに軸足を移す形が日本でも増えてくるでしょう。海外ではスティーヴン・ソダーバーグがTVに活動を移して映画から引退すると宣言したこともありましたが、デヴィッド・フィンチャー、フランク・ダラボン、コーエン兄弟など映画監督がTVシリーズを積極的に手がけることが珍しくなくなりました。日本でもNetflix、Amazonなどもオリジナルドラマの製作を始めています。園監督も『ヒミズ』の頃から、こうした海外の動きを見据えてテレビへの進出を語っていましたから、今回の試みはごく自然な流れなのかも知れません。『愛のむきだし』のように過激な内容と表現、それに新人を多用するキャストなど、地上波のドラマでは難しい企画でも、配信系ドラマであればクリアになることが多いでしょう」


 近年、日本映画では前編後編の二部作として、長編映画が公開されているが、長尺の作品を描く場として、ドラマを選択する作家は今まで以上に増えていくかもしれない。映画ファンにとっては、映画館、配信、衛星放送とチェックする場が増えて嬉しい悲鳴をあげることになりそうだ。(石井達也)


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  • ストーリーは重いのにニッシーがカッコ良くパンチラ写真撮るシーンはどういうテンションで見ればいいか分からなかった(笑)
    • イイネ!1
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