【今週の大人センテンス】世界を見てきた小沢健二が語る「日本」の持ち味

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2017年02月27日 19:01  citrus

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巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第47回 久々の新曲とテレビ出演が与えた衝撃

 

「自分はそんなたいした存在じゃないって思っているのは、すごく大事なことだと思う」by小沢健二

 

【センテンスの生い立ち】

1990年代に人気を集めたシンガーソングライターの小沢健二が、先日19年ぶりの新作シングルを発売した。それに合わせて、2月24日夜には久しぶりにテレビにも出演。ファンを大いに喜ばせた。上は「NEWS ZERO」(日本テレビ)で村尾信尚キャスターとの対談の中で出た言葉。対談では48歳のオザケンが、いきなりアメリカに拠点を移した理由や、世界を旅して考えたこと、日本を離れて見えてきた日本や日本人の良さについて語った。

 

【3つの大人ポイント】

・「常識」にとらわれず自分の感覚を頼りにしている

・「地に足を付ける大切さ」に気づかせてくれている

・年齢を重ねることの意味を身をもって示してくれた

 

「今夜はブギー・バック」「愛し愛されて生きるのさ」「ラブリー」「強い気持ち・強い愛」「ぼくらが旅に出る理由」……。歌はそれなりに聞いていたものの、「渋谷系の王子様」としてキャーキャー言われている光景には「ケッ」という思いも抱いていました。久しぶりにその姿を見て気が付きましたが、どうやら自分はけっこう小沢健二ファンみたいです。

 

いや、気安くファンなんて言うと熱烈なファンの方々に怒られそうですけど、若いころにあった「オザケンを好きと言うのは恥ずかしい」という妙なこだわりから解き放たれたってことで、大目に見てください。そういえば話はそれますが、数年前「カラオケで歌う新しめの曲」の話になったときに「小沢健二」の名前をあげたら、その場にいた全員から「それはぜんぜん新しくない」と突っ込まれました。月日が経つのは早いですね。

 

そんな小沢健二が、19年ぶりに新作シングルを発売しました。収録されている曲は「流動体について」と「神秘的」。2月21日付「朝日新聞」朝刊には、「言葉は都市を変えてゆく」「19年ぶり新作シングル本日発売」という見出しで、新曲の歌詞や小沢健二が綴ったエッセイを掲載した全面広告がお目見えしました。エッセイには、3歳の長男やアメリカ人の妻も登場。アメリカから見た日本や新しい曲に込めた思いを綴っています。

 

有料登録が必要ですが、ここで読むことができます。⇒朝日新聞デジタル

 

2月24日の夜は、まず「ミュージックステーション」(テレビ朝日)に出演して「ぼくらが旅に出る理由」とテレビ初披露の「流動体について」を歌い、続けて「NEWS ZERO」(日本テレビ)に登場。48歳になったオザケンは、さすがに「王子様」という言葉は似合わない雰囲気でしたが、年相応の落ち着きや貫録を感じさせるナイスなおじさんになっていました。ツイッター上には「若いころの泉麻人?」「春風亭昇太?」という声も。

 

「NEWS ZERO」では、村尾信尚キャスターとじっくり語り合います。話はまず、20代でアメリカに行ってしまった理由について。彼は、売れっ子ミュージシャンとして「ボロボロ」になってしまった苦しさや、「投資されている身」として音楽を辞める難しさを率直に吐露。トランプ大統領が当選した背景として、アメリカを覆っていた無力感を「民主党を選んでも共和党を選んでも、コーラとペプシを選んでいるような状態」と表現しました。

 

印象的だったのが、新曲「流動体について」の歌詞から「間違い」の話になったところ。「間違いに気がつくって大事ですよね」と語り出した小沢健二は、日本人は謝り過ぎると言われがちで、グローバル社会の中ではそれはいけないこととされているけど「ぼくは日本に来て、みんながすごく謝ってお辞儀をしているのは、すごくいいことだと思っていて」「自分はそんなたいした存在じゃないって思っているのは、すごく大事なことだと思うんですよね」と言います。アメリカにいることで、日本がいちばん見えてくるとも。

 

アメリカだけでなく夫婦で世界中を巡り、ヨーロッパやアメリカじゃない国でトータル3年ほど過ごしたという彼は、多様な習慣や価値観に触れたことで、「欧米社会というのは、かなり特殊なものだと思うようになった」と言います。南米のあちこちでは、たくさんの人が時間とお金をかけて伝統衣装を着ている光景を目にして、それを着る誇りとともに生きていく素晴らしさを感じたとか。

 

新聞に載せたエッセイでもこの対談でも強調していたのが「ビバ、ガラパゴス!」という言葉。それぞれの文化に受け継がれている独自の特色、長所を大切にし、自分たちに何ができるか、どういうことを考えているかをどんどん提示していったほうがいいと熱く訴えました。エッセイでは、ふわふわの食パンや甘いイチゴを例にあげて日本の素晴らしさを称えつつ〈近年「日本はガラパゴス文化」と自嘲的、批判的に言われるのを聞くが、ガラパゴス、か。むしろ、なんて希少で、貴重で、心ときめく響きだろう〉と書いています。

 

もちろん彼は、近ごろ流行りの薄っぺらい文脈で「やっぱり日本は素晴らしい!」と言っているわけではありません。日本には日本の素晴らしさがあり、別の国には別の国の素晴らしさがある。国や文化に優劣はない。お互いの違いを尊重し、尊敬し合うことが大事。そんな当たり前の大前提に立った上で、自分を作っている根っこを自覚し、自分を育んできたもの、自分が歩んできた道のりをしっかり見つめようと言っています。

 

「すぐに謝るのが日本人の悪い癖」という言い方は一種の「常識」になっていますが、さまざまな国を巡ってきた彼は、それが日本人のいいところなんだと気づきました。「欧米ではこうだから」というローカルルールを安易にありがたがるのではなく、自分の感覚に基づいて異を唱え、すぐに謝るという行動の奥にある謙虚な生き方にも言及しています。謝らないことで守れるものなんて、じつはたいしてないかも。謝ることで得られるものの大きさを知っているのが、日本人の持ち味であり大人の基本と言えるでしょう。

 

たとえばうどんにおいても、「コシが命」というローカルルールを安易にありがたがる必要はありません。やわらかい食感で独自の道を歩み続けきた伊勢うどんは、うどんの「常識」に対するアンチテーゼであり、独自の価値観や文化の違いを尊重する大切さを教えてくれる存在に他なりません。伊勢うどんを応援する私としては、オザケンは間接的に伊勢うどんを応援してくれたと受け止めています。ビバ、ガラパゴス! ビバ、伊勢うどん!

 

新曲の「流動体について」は、もしかしたら「ミュージックステーション」も意図して組み合わせたのかもしれませんが、「ぼくらが旅に出る理由」に対応した内容。いわば「ぼくらが旅から帰ってきた理由」を歌っています。旅から帰ってきたといっても、人生という旅が終わるわけではありません。20代の王子様から40歳のおじさんに姿を変えて現われたオザケンは、年齢を重ねることの味わい深さのようなものを歌と自分自身で表現してくれています。それは「もう若くない世代」への何より心強いエールに他なりません。

 

「流動体について」の歌詞には「宇宙の中で良いことを決意する」というフレーズが繰り返し出てきます。だいたいそういう方向で、地に足をつけて、自分はそんなたいした存在じゃないという謙虚さを忘れずに、それぞれの旅をせいいっぱい充実させましょう。

 

 

【今週の大人の教訓】

「常識」を疑ってみることで、大事なことに気が付くケースは多い

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