もはや“全部のせ”。F1のステアリング進化が止まらない!

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2017年03月08日 19:01  citrus

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2002年、トヨタF1チームのステアリング

ドライバーはステアリングホイール(ハンドルと呼んだりもする)でクルマの向きを、アクセルペダルとブレーキペダルで速度をコントロールしている。これは乗用車であろうとレーシングカーであろうと、基本的に変わらない。そして、どちらもステアリングだけ高機能化の一途をたどっている点で共通している。

 

筆者のマイカーにはいまだにホーンとエアバッグ以外付いていないが、ステアリングホイールから手を離さずに、オーディオのボリューム調整やラジオの選局、ハンズフリーフォンの操作ができるステアリングが増えている。それだけではない。ナビゲーションやオーディオなどを音声で操作できるボイスコマンド機能を備えているステアリングもある。

 

それだけでもなくて、クルーズコントロールの操作スイッチを備えたステアリングも一般的だ。発売になったばかりの日産セレナには、高速道路の同一レーンでドライバーに代わってアクセル、ブレーキ、ステアリングを自動で制御する「プロパイロット」のセットスイッチもステアリングに付いている。

 

 

■20以上のスイッチとモニターは当たり前

 

乗用車のステアリングに付いているスイッチは快適性や安全性を高めるのが目的だが、レーシングカーのステアリングに付いているボタンやダイヤルは、主に機能を高めるのが目的だ。例えば、アイルトン・セナとアラン・プロストが所属し、ふたりで16戦15勝を挙げてシーズンを席巻したF1マシン、1988年のマクラーレン・ホンダMP4/4のステアリングには、無線交信用の青いボタンと、ブースト(瞬間的に高い出力を得る)用の赤いボタンが付いていた。ザッツ・オール。

 

20個以上のスイッチとダイヤルが付いている現代のF1ステアリングから見れば、極端にシンプルだ。1989年にはフェラーリが初めてセミATを導入し、ステアリングの裏に左右一対のパドルが付いた。いまや乗用車でもおなじみの装備で、右側のパドルを手前に引くとシフトアップ、左のパドルを引くとシフトダウンする。

 

乗用車の場合は基本的には自動変速で、スポーティな走りを楽しみたいときなどにパドルを用いたりするが、F1の場合は常時パドルを用いて変速を行う。それまではフロアに生えたシフトレバーを操作して変速操作を行っていたので、パドルシフト式セミATの発明は画期的だった。ドライバーはステアリングから手を離すことなく、運転に集中できるようになったからだ。

 

1990年代はピットレーンの速度リミッター(ボタンを押すと、制限速度以下に車速を自動で抑える)やニュートラルボタン(クラッチを切ってニュートラルにする)が増えたくらいで、スイッチが増えたといっても10個以下だった。

 

2000年代に入ると、トラクションコントロール(01年に解禁され、08年に禁止)やデフ(左右輪の回転差を吸収する装置)の利き具合を調整するダイヤルが現れ、車両の挙動を調整できるようになった。デフのダイヤルはその後細分化し、コーナーの入口と頂点、出口付近の挙動をそれぞれ調節できるようになった。

 

 

 

ステアリングにメーターが組み込まれたのも2000年代に入ってからだ。当初はシフトポジションやラップタイムに車速といったシンプルな表示に留まっていたが、乗用車におけるメーターの進化と同じで、高機能化が加速。現在では、4.3インチの多機能液晶カラーディスプレイを組み込むのが主流だ。

 


2008年、フェラーリF1チーム。数の増加とともに色使いも派手に…

 

 

■あまりに機能が増えすぎて…

 


2015年、ザウバーF1チーム。2014年以降はさらに機能を盛り込みはじめた

2014年以降のF1は、1.6L・V6直噴ターボエンジンに、運動エネルギー回生と熱エネルギー回生の2種類のエネルギー回生システムを組み合わせた、複雑なハイブリッドシステムを搭載している。ステアリングを埋め尽くすように並んだボタンやダイヤルで、エンジンの空燃比を制御したり、ペダルマップ(アクセルペダルの踏み込み量とスロットルの開度の関係)を切り換えたり、エネルギー回生やブーストの度合いを調整できたりする。前後のブレーキバランスを変えることも可能だ。

 

変わり種はドリンクボタンだろうか。脱水症状を避けるための機能で、ボタンを押すと、車載したボトルに入ったドリンクをモーターで口元のチューブに送り出してくれる。不具合を起こしてドリンクが出てこなくなったり、逆に止まらなくなってレーシングスーツがびしょびしょになったなどというトラブルが、ごくたまに起きたりする。

 

ル・マン24時間レースに参戦する車両のステアリングホイールも、F1と同様にたくさんのボタンとダイヤルが並んでいる。長時間ドライブするだけに、F1と同様ドリンクボタンは欠かせない。ドライバー交代を行う際は、ドリンクボトルも同時に交換するのが、お決まりの作業風景だ。

 


2016年、ル・マンのポルシェチーム。右の青いボタンでパッシングする

 

ル・マン参戦車両、とくに、最上位カテゴリーに属する車両ならではの機能は、ヘッドライトフラッシャーだろうか。速いクルマが背後に迫っていることを知らせるためにパッシングするのが、ル・マンと、ル・マンをシリーズの一戦に含む世界耐久選手権(WEC)のならわしだが、乗用車でのようにいちいちレバーを引いてハイビームを点滅させるのは面倒だ。そこで、手の届きやすい位置にあるボタンを1回押すと(ポルシェの場合は右親指で押す青いボタン)、ヘッドライトが続けて何回か点滅する仕掛け(ポルシェの場合は3回)。

 

ステアリングホイール上のボタンやダイヤルでいろいろな機能を切り替えられるのは便利な半面、すべての機能を頭に叩き込むのはひと苦労で、操作を間違えたばかりにチャンスをフイにしたケースが実際にある。現代のレーシングドライバーは、感性に頼ったドライビングだけでは生きていけないようだ。

 


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