プロ野球の監督は、選ばれた人です。日本には12人しかいませんし、メジャーリーグは30球団30人。この30人は特別な存在で、実現したくても、おいそれと実現できないことから「アメリカン・ドリーム」と呼ばれています。
■「日本代表」に寄せられる期待と、背負う重圧
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WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の監督も同等とみていいでしょう。日本の代表監督は、王貞治氏、原辰徳氏、山本浩二氏と錚々たるメンバーです。今回のWBCでこの座についたのが小久保裕紀監督。監督経験、コーチ経験ともにない中での就任は、半端なプレッシャーではないでしょう。何しろ日本人は「日本代表」という言葉に特別な思いを抱きます。オリンピックはもちろん、サッカーをはじめいかなる競技でも「日本代表」となれば、熱く注目します。しかも第1回、第2回大会に優勝し、今回、2大会ぶりの世界一奪還という大義を掲げられれば、正常でいる方が至難の業でしょう。
そんな状況下でも、正常(冷静)に見せなければいけないのが監督の仕事かもしれません。そのやり方を、ある監督から発見しました。以前、「個別主義」で取り上げた元ヤンキース監督のジョー・トーリ氏からです。「個別主義」とは、選手を褒めるのも叱るのも監督室に呼んで1対1で行うというものでした。実は、もうひとつ重要なことがあります。それは、「無表情」です。
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■選手に最も嫌われる監督の言動とは
トーリ氏は、チャンスでもピンチでも、ベンチにどっかと座り、決して表情を変えませんでした。チャンスのときはともかく、ピンチのときに冷静でいられる人は少ないでしょう。じっとしていることができず、大声で叫びたくなることだってあるかもしれません。しかしトーリ氏は、そんなときこそベンチに座って動かず、あえて表情を変えないのです。
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このトーリ氏のことを当時ヤンキースのキャプテンだったデレク・ジーターに聞いたことがあります。「ピンチのとき、ジョーの顔を見るんだ。全く表情が変わっていないジョーの顔を見て、俺たちを信頼してくれているんだな、と思い、よし、やってやるぞ、という気持ちになるんだよ」。世界一に4度輝いた秘訣がここにあるような気がします。ちなみに、選手にとって一番嫌なのは、ベンチの中をウロウロする監督だそうです。
■侍ジャパンを率いる小久保監督の資質
小久保監督も動き回ることはしていません。ピンチのときでも「表情」を変えていません。
たとえ、心の中ではとても焦っていたとしても、表情に出さなければ、言葉に出さなければ、人は焦っているとは認めません。それどころか、ジーターが言ったように、「信頼」が生まれるのです。
侍ジャパンを率いる小久保監督。コーチ経験もない指揮官ですが、この「無表情」という点において監督の資質を備えているといえるのではないでしょうか。