日本人女性の約1割が“貧血”
画像はリリースより
体内の鉄分が不足することで起きる「鉄欠乏性貧血」。血液検査をすると、鉄を含むタンパク質である「ヘモグロビン」値が下がっており、立ちくらみや頭痛などの症状が表れます。月経のある女性を中心に患者が多く、日本人女性の罹患率は約10%ともいわれています。
ヘモグロビンとは、赤血球の中にある酸素と結合するタンパク質で、ヘムとグロビンで構成されています。ヘムは鉄を含み、この鉄に酸素が結合し、全身に酸素が運ばれます。鉄の多くは体内で再利用されますが、出血などで体内の鉄分が大量に失われると、十分なヘモグロビンが合成できなくなり、結果として鉄欠乏性貧血が引き起こされるというわけです。
これまで、鉄欠乏性貧血の原因は単なる鉄不足と考えられてきましたが、東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の小林匡洋研究員らのグループが、九州大学生体防御医学研究所の佐々木裕之教授らとの共同研究により、明らかにされていなかった鉄欠乏性貧血の病態メカニズムの一端を解明しました。
鉄不足が遺伝子発現変動を惹起
研究では、鉄欠乏性貧血モデルマウスから赤血球の元となる細胞「赤芽球」を採取。それを使って、DNAのメチル化(遺伝子の働きを制御する仕組み)を網羅的に調べました。その結果、鉄欠乏状態ではDNAメチル化の変化が起こっており、遺伝子発現が広範囲に渡って変動していることが明らかになりました。
また、赤血球が成熟する過程で合成されるヘムとグロビンは、一方がもう一方より過剰に産生されると、余った方が細胞内に蓄積して細胞毒性が生じます。このため、ヘムとグロビンはバランスよく産生される必要がありますが、今回の研究では、鉄の量に応じてヘムとグロビンのバランスを調整する転写因子「Bach1」の存在も突き止めました。
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鉄欠乏状態や鉄欠乏性貧血は、先進国と発展途上国とを問わず、人類が直面している重要な課題でもあります。今回の研究で、鉄欠乏性貧血の病態の一端が明らかになったことで、病気そのものや鉄の生体内での機能のより詳細な理解が進むと考えられます。さらに、近年注目されている鉄剤が効かないタイプの貧血への新たな診断法や治療法開発への第一歩となることも期待されています。(菊地 香織)
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