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「オープンソース vs. Windows」の最前線だったミュンヘンの現在

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2017年03月20日 06:54  ITmedia PC USER

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ITmedia PC USER

写真ミュンヘン市内を走る路面電車
ミュンヘン市内を走る路面電車

 ミュンヘンと言えば、ドイツのバイエルン州の州都であり、多くの日本人には「オクトーバーフェスト(Oktoberfest)」に代表されるビール祭りの中心地として記憶されているかもしれない。しかし、ことIT業界におけるミュンヘンと言えば、「オープンソース vs. Windows」の最前線という意味合いを持つ。


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●2000年代に脱Windowsを大胆に進めたミュンヘン


 MicrosoftがWindowsでクライアントOSの支配権を決定的にした2000年代。そのカウンターカルチャーとしてオープンソースが注目を集め、ソフトウェアの開発や利用が広まっていった。ここで開発された技術群は現在のITインフラの根幹を支えているが、一方で「打倒Windows」的な掛け声で盛り上げられていた「デスクトップPC」としての採用はあまり広まらなかった。


 こうした中、2000年代前半にミュンヘンが市職員のシステムをWindowsからLinuxに全面移行することを発表した際には、オープンソースコミュニティーならびにIT業界関係者に大きな衝撃を与えた。


 当時米MicrosoftのCEOだったスティーブ・バルマー氏が現地まで直接出向いて会談の場を設けたほどで、その後欧州地域の自治体でいくつか同じようなオープンソース化が続いたが、ミュンヘンの決定はムーブメントの中心にいた。


 それがシステムの本格導入開始から10年を経て、「LinuxからWindowsへ」という逆の決定を下したことで、再びIT業界の注目を集めている。


 今日、Microsoftのフラグシップ製品である「Windows 10」は、Ubuntuをベースにした「Windows Subsystem for Linux(WSL)」によってLinuxバイナリ環境がそのまま導入可能になっているほか、同社クラウドサービスの「Microsoft Azure」では多くのLinuxベースのインスタンスが動作して世界のインフラを支えている。


 こうした状況から、今では「オープンソースコミュニティーに最もコミットしている大手ベンダーの1社がMicrosoftである」という意見もある。10年前とは情勢が大きく変化しているとはいえ、業界の一大決断と呼ばれたオープンソースへの移行がなぜ時を経て覆されたのか、その背景をみていく。


●最も野心的なオープンソースプロジェクト


 本件を報じている米ZDNetのデビッド・マイヤーズ氏によれば、ミュンヘン市は2020年末までに全ての市職員が利用する業務クライアントをWindows 10に置き換えていく計画だという。


 現在、同市では「LiMux」と呼ばれるUbuntuベースのクライアントOSが稼働しているが、これをWindows 10との混在期間を経て、期限までに置き換えを完了させる見込みだ。生産性アプリケーションとして、オープンソースへの移行当初はOpenOffice.orgを採用したが、後にOracleによるSun Microsystems買収を経て誕生したLibreOfficeに切り替えており、今回はいよいよMicrosoft Officeへと移行する。


 このオープンソースへの移行に関する経緯は、米ITworldの2012年11月の記事でまとめられている。もともとプロプライエタリなソフトウェアで、かつ特定のベンダーに依存する仕組みを嫌う文化が欧州内部で醸成されており、ミュンヘンはその急先鋒(きゅうせんぽう)として機能していた側面が大きい。


 LiMuxプロジェクト自体は2004年にスタートし、実際のオープンソースへの完全移行が始まったのは2006年だ。もともとはWindows NT時代に計画が持ち上がり、後にWindows 2000の時代になって計画が実行された。


 ミュンヘンは計画を実行するにあたり、その移行理由の1つにソフトウェアのライセンス料金負担を挙げている。


 例えば、Windows 2000ベースのシステムを「Windows 7+Microsoft Office 2010」の構成へと変更する場合には3400万ユーロ強のコストが掛かるのに対し、「LiMux+OpenOffice.org」の構成では2280万ユーロで済む。これは1万1000ユーザー分のクライアントPCを移行した場合のコスト試算で、この差額がそのままソフトウェアライセンス料となる。


 またLinuxベースのシステムの場合、一部は従来のハードウェアをそのまま流用できるとのことで、実際のライセンス料負担よりもハードウェア分のアップグレードコストがさらに安くなる計算だ。また同記事が執筆された2012年の時点で1万5000台のクライアントが市内で動作していたという。


 LiMuxプロジェクトが2004年に開始されたのは、当時利用していたWindows NT 4.0のサポート期間が終了したことがきっかけだったが、結果として完全移行を実現した自治体の成功事例として大きく宣伝されたことで、後にフォロワーが続くようになり、「Windowsからオープンソースへ」のムーブメントにおける象徴とみられるようになった。


 ではなぜ、今になってこのムーブメントが逆流し出したのだろうか。


●古いソフトウェアが更新されないという問題


 企業におけるPCの導入では「日々の運用コストも考慮しなければいけない」とよく言われるが、トラブルが頻発していたことが理由の1つに挙げられている。


 日々の運用において、例えばSAPのような業務アプリケーションを提供するベンダーから提供される製品との互換性を重視するうえで、「標準的な製品」を選択する必要があったと市政府側は説明している。


 ただ、オープンソースコミュニティー側の主張では「ソフトウェアそのものに問題があったとは考えていない」という意見が出ている。システム管理や組織的な問題により、最新のソフトウェアが十分に展開されず、前述のような運用や互換性における問題を引き起こしていたというのだ。いずれにしろ、システム管理上の問題が比重の多くを占めていたのは間違いない。


 もう一つ、政治的な理由も指摘されている。2014年に新ミュンヘン市長としてドイツ社会民主党(SPD)のDieter Reiter氏が就任したが、同氏は当初からミュンヘンのオープンソース戦略に疑問を呈しており、Windowsエコシステムへの回帰をほのめかしていたようだ。


 Free Software Foundation Europe(FSFE)プレジデントのMatthias Kirschner氏が米ZDNetに語ったところによれば、同氏はMicrosoftの(ドイツの)オフィスをミュンヘンへと誘致する計画を持っており、実際に2016年9月に移転が実施されたという。


 「市職員にはWindows 10とMicrosoft Officeを利用できる環境を用意する必要がある」という調査報告を市長に行ったAccentureは、Microsoftのパートナー企業であり、市長の就任時点で一連のストーリーができていた、と考えているようだ。


 とはいえ、今回の措置がLiMuxプロジェクトの終了を意味するものではなく、生産性アプリケーションは引き続きLibreOfficeが利用可能と市の担当者は説明しているようだ。


 ただ、一連の問題は「ソフトウェアの更新が進まない」という管理上の問題のみならず、「市職員が制限された環境下での作業を強いられている」という面も強いため、もし今後もLiMux側で従来のトラブルの原因が改善されなければ、ユーザーは自然と「Windows 10+Microsoft Office環境」へと移行していくだろう。


 Microsoft自身がここ10年で大きく変化したように、ITシステムの世界も大きく変化しつつある。さまざまな理由でシステムの刷新や移行がなかなか進まない企業ITの世界だが、当時は野心的で最新の試みだったミュンヘンのシステムも、いま再び見直しの時期が到来している。


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