世界初、長期使用できる硝子体を開発

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2017年03月23日 12:02  QLife(キューライフ)

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QLife(キューライフ)

眼内に注射器で注入


画像はリリースより

 “瞳”の大部分を占める「硝子体」。99%が水分という透明なゼリー状の組織で、目に入ってくる光を屈折させると同時に、網膜を傷つけないためのクッションの役割もあります。硝子体が濁ると、飛蚊症や目のかすみ、視力低下にもつながるほか、網膜剥離などの疾患に対しては硝子体手術が行われます。

 硝子体手術では、取り除いた硝子体の代りにガスやシリコンオイルなどを入れる場合もありますが、これらは水と混ざりにくいため生体適合性が低く、長期使用には適していませんでした。また、水晶体と角膜は人工物が開発されていますが、人工硝子体はまだなく、長期的かつ安全に置換できる人工硝子体の開発が望まれていました。

 このほど、東京大学大学院工学系研究科の酒井崇匡准教授と筑波大学医学医療系の岡本史樹講師による研究チームが新たな分子設計により、眼の中に注射で注入すると短時間でゲル化し、人工硝子体として使用可能なハイドロゲルを世界で初めて開発したと発表しました。

日帰り手術の道開く

 ハイドロゲルとは、高分子の網目構造に水を含んで膨らんだ物質。身近なものではゼリーやソフトコンタクトレンズなどがあります。なかでも、生体内で液状から固体へ変わるインジェクタブルゲルは医療用途への応用が期待されていますが、ゲル化する際の反応が周辺組織に刺激を与えることや、周囲の水を吸い込んで膨らみ、周辺組織を圧迫する膨潤圧の問題があり、眼科領域において成功例はありませんでした。

 研究チームでは、ゲルの毒性・刺激性を容認可能なレベルまで低減することに成功。さらに、膨潤圧を周辺組織に影響を及ぼさないレベルにすることにも成功しました。その結果、ハイドロゲルを液状のまま眼内に注入し、10分以内にゲル化させることが可能になりました。このゲルを、網膜剥離モデルのウサギの眼内に充填した結果、1年後の網膜組織がほぼ正常であることが認められ、網膜剥離を治すことができました。

 現在の網膜剥離の手術は、術後1週間程度うつ伏せを保たなければならず、数か月後には抜去を含む再手術を受けるなど、患者の負担が大きいものです。しかし、今回開発した人工硝子体を用いれば、再手術やうつ伏せの必要がなくなり、負担軽減につながります。将来的には、網膜疾患の治療が日帰り手術でもできるようになるかもしれない、画期的な治療法への道が開かれたといえるでしょう。(菊地 香織)

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