ホンダは大丈夫なんだろうか。F1での話である。どうも分が悪い。ホンダは2008年以来となるF1に復帰するにあたり、かつてともに栄華を極めたマクラーレンをパートナーに選び、パワーユニットを供給する契約を結んだ。2013年に「復帰」の発表をし、2015年から7年ぶりにF1に復帰した。
最強のコンビ復活のはずだった。ホンダは1983年から92年までの期間中もF1にエンジンを供給する形態で参戦していた。88年からはマクラーレンと組んだ。この年、アイルトン・セナとアラン・プロストのコンビで16戦15勝を挙げ、圧倒的な強さを見せつけてチャンピオンシップを制した。ここ数年のメルセデスのような強さだ。
それから30年近くが経過しているわけだが、知らない相手と組むより、多少なりとも知っている相手と組んだ方がいいという判断だろう。マクラーレンとしても、自分たちだけで独占できるパートナーが必要だった。
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■マクラーレンは“親身”になってくれるメーカーが必要だった
マクラーレンはホンダが92年を最後にF1から去った後、紆余曲折を経てメルセデスと強固なパートナーシップを築くに至った。98年にはコンストラクターズタイトルを獲得しているし、98年、99年、08年にはドライバーズチャンピオンを輩出している。
潮目が変わったのは2010年だ。メルセデス・ベンツが既存チームを買収し、ワークスチームを設立したのだ。マクラーレンへのエンジン供給は継続されたが、開発の軸足は自分たちのチームに置くのは当然の成り行きである。建前としては「ウチで使っているのと変わりませんよ」と言ったとしてもだ。
マクラーレンとしては、自分たちだけのために親身になってパワーユニットを開発してくれるメーカーが必要だった。それがホンダだったというわけだ。F1は2014年から動力源に関するレギュレーション(規則)が大幅に変わり、それまでの2.4L・V8自然吸気エンジンから、1.6L・V6直噴ターボに2種類のエネルギー回生システムを組み合わせたパワーユニットを搭載することになった。
ホンダは新規則に移行した14年ではなく、1年遅れて15年からF1に復帰することになった。そのため、競合するメーカー、すなわちメルセデス、フェラーリ、ルノーに対して開発期間の面でハンデを負った状態でパワーユニットを送り出すことになった。これは織り込み済みで、競合を上回るスピードで技術をキャッチアップするしかない。そのことは、マクラーレンも承知していたはずだ。
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参戦3年目の2017年にもなれば、相応の競争力を期待して当然だろう。少なくとも、前の年より差は縮まってしかるべきである。ところが、シーズン開幕前のテストに臨んだホンダは、まるで未経験者のような体たらくだった。全部が全部ホンダの責任ではなかったようだが、トラブルの連続でまともに走ることができなかった。
■ドライバーまで公然とホンダ批判
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記者会見でアロンソは「みんなが同じエンジンを使えるようになればいいね」とコメント
堪忍袋の緒が切れたのだろうか、マクラーレンは公然とホンダ批判を始めた。パワーユニットが悪いから、シャシーの性能が満足に発揮できないのだと。契約解除も辞さないムードである(言ったもん勝ちの脅しだろうが)。「いやいや、お宅の実力もどうかと思いますよ」とホンダとしては言いたいところだろうが、沈黙は美徳とばかり、言われるがままの態度を保っている。
ドライバーもさじを投げたのだろうか。それとも、自暴自棄に陥っているのか。マクラーレン・ホンダのかつての活躍をあこがれの目で見つめて育ち、夢が叶って黄金コンビの一員としてステアリングを握ることになったフェルナンド・アロンソも、今ではすっかりホンダに対して冷淡になっている。
2017年開幕戦オーストラリアGPの木曜日、記者会見に出席したアロンソは、将来のF1に期待することを聞かれてこう答えた。
「みんなが同じエンジンを使えるようになればいいね」と。
ホンダのエンジン(パワーユニット)がハンデになっていることが暗黙の了解事項であることを利用した皮肉である。要するに、メルセデスのような高性能なエンジンが欲しいということだ。
「その考えには同意できないな」と反論したのは、最強のメルセデスに所属するルイス・ハミルトンだった。自らのアドバンテージが帳消しになってしまうのだから、反論して当然だ。「でも、電気(自動車)はイヤだね」と言ったのは、ローカルヒーローのダニエル・リカルド(レッドブル)である。
「それからホンダもね」とハミルトンは付け加えた。同じエンジンになるにしてもホンダだめはご免というわけだ。ずいぶん見下されたものである。
ホンダは態度(パフォーマンス)で見返すしかない。