実はアメリカとそっくりな「森友学園」問題の背景 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2017年03月28日 18:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<「森友学園」をめぐる騒動は日本特有の問題のように見えるが、多様性を尊重する公教育に対して保守派が独自教育を追求するその背景は、現在のアメリカとよく似ている>


教育勅語への過剰な賛否とか、国有地払い下げ問題、そして極めつけは「ソンタク(忖度)」のあるなしの疑惑など、「森友学園」をめぐる騒動は、「ノット・クール・ジャパン」つまり「日本文化のクールでない側面」を説明するには格好の教材という感じがします。


個人的には、国有地の払い下げ問題と言えば、大隈重信とか五代友厚が人生を振り回された事件(編集部注:明治時代の開拓使官有物払下げ事件。大隈重信らが政府から追放される明治十四年の政変のきっかけとなった)の記憶が140年近い年月を経てオーバーラップする感じがあり、野党側からその辺の認識を含めて追及の迫力が足りないのは、何とも「物足りない」感じがしますし、何よりもこの種の土地取引というのは、ちゃんと透明性が確保できるように制度を整えるべきと思います。


それはともかく、今回の騒動そのもの、特に私学と公教育の役割分担という問題に関しては、アメリカの現状との共通点を感じるのもまた事実です。


【参考記事】「反逆する団塊」や「ゆとり世代」を生んだ学習指導要領の変遷


日本では、それこそ前述の事件で政府を追われた大隈重信が、私学の早稲田大学というかたちで自分なりの人材育成の哲学を実現しようとしたわけです。また五代友厚にしても現在の大阪市立大学を設立するなど、「必要な人材育成」のために新たな教育機関を設立したのです。


明治期においては「公教育=保守」であり、「私学=改革志向」というすみ分けがされていったわけです。例えば東京帝大というのは、後にはリベラルな人材が集まっていくことになりますが、草創期においてはあくまで明治政府に近い存在として、保守的なポジションに立っていました。これに対して、多様な価値観による人材育成というのは私学が担っていきました。


例えばキリスト教系の教育機関や、仏教系の教育機関などがそうで、明治期においてはそうした系列の大学などが社会の多様性を作っていったと言っても良いでしょう。大学と同じように、同様の系列の中等教育や初等教育にもそうした傾向がありました。


ところが、今回の「森友学園」というのはこれとは違います。平田国学に国家神道を重ねるという日本の伝統の平均値からは大きく右にシフトした思想的背景を持ち、多様性を極端に否定する姿勢は、教育機関の方向性としては非常に特異です。


このことは、公教育の現場では反対に「戦後の価値観=国のかたち」に忠実な多様性の追求が行われている、その裏返しと言うことができます。そして公教育の現場で多様性が確保され、それに反発する保護者のニーズに応えて「保守教育を行う自由」が私学として追求されていく、こうした動きは、実はここ20年のアメリカで起きていることとよく相似しています。


また、そのように「保守教育を行う自由」の主張が富裕層に支持母体を持っていること、それにもかかわらず全額を自己資金で調達するのではなく、可能な限り国や地方自治体の「公的な資金」からの援助を引き出そうという姿勢を持っているというのも、アメリカとソックリです。


いわゆるチャーター・スクールとか、教育バウチャーというのがそれで、「子供を性教育から隔離する自由」であるとか「進化論を教えず、他の種と比較して人類の優越を教えたい自由」といった「親の主張」を実現したい、だがそのような「自分たちが絶対的な真理と信ずること」の教育に「自分たちの納めた税金が使われない」のは納得がいかないので、公的資金からの支援を強く要求するという政治運動に他なりません。


【参考記事】「オバマが盗聴」というトランプのオルタナ・ファクトに振り回されるアメリカ政治


そして、こうした政治運動は、当然ですが多様性を重視する公教育とは厳しく対立することになります。今回、トランプ政権の教育長官に就任したベッツイ・デボスという女性は、こうした政治運動に巨額の資材を投じてきた人物で、まさにこうした「保守による公教育否定論」を象徴する存在です。


つまり森友のような問題は、ある意味ではアメリカ同様に公教育が多様性をきちんと確保できていることの反証であり、大きな流れとしては危険な兆候ではないと思います。


問題は、冒頭で触れたように官有物の払い下げ手続きにおける透明性の確保ということですが、これに加えて、例えば「本当に通用する英語教育」「問題解決型のコミュニケーション教育」「ICT(情報通信技術)の使いこなし」「到達度に合わせた個別指導」といった、21世紀にふさわしい教育改革の実効性という点で、「公教育」が遅れを取っているという問題があります。


森友学園には多くの問題がありますが、その批判ばかりに気を取られ、肝心の公教育における改革の実行が遅れるようなことがあってはならないと思います。



このニュースに関するつぶやき

  • 森友は教育方針がどうこう以前に、経営体質がお粗末に過ぎるんだよなぁ。ありゃ淘汰されても文句言えんわな
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