さすがに、もうWBCについて語るのはタイミングを逸した感は否めないが、大リーグでともにプレーする選手たちが母国の威信をかけ、真剣にぶつかり合った今年度の戦いぶりを評価するイチローによる「(WBCに関する)イチ一問一答」(スポニチ)が、じつに素晴らしかったので、あと一度だけ、今日はWBCについて触れてみたい。とりあえず、イチローの“金言”をいくつが抜粋してみよう。
「選手たちの熱の入れよう、彼らが感情をコントロールできないような状態でプレーしているのを見た。大リーグ機構がこのイベントを大切に育てようと思ったら、絶対にそういう大会になりうる。そんな可能性を感じました」
「(WBCが)徐々に進んでいるというか、前に進んでいる感じはありますよね。アメリカの選手だって、(大会出場を)いいキャンプだったなんて言う人はもういないでしょう」
「20年後か30年後かは分からないですが、本当にこの大会に出たいというやつらが集まって、純粋に世界一を決める大会になってほしい。それはもう、ずっと思っていますね」
まさにおっしゃるとおりである。野球をこよなく愛する私は「WBCがいずれはサッカーのW杯のようになってほしい」と隙さえあれば願っている。
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開催時期や球団側の選手の出し渋り、ルール……ほか、まだまだ問題は山積みだ。イチローが目算する「20年後か30年後か〜」は、一見気が遠くなるような先の話ではあるけれど、もしかすれば“希望的観測”を含んだ、かなり甘めな“楽観の数字”なのかもしれない。
「次はオリンピックだな」なんてことを言う人もいるが、私は個人的に「今後の侍ジャパン強化の照準を五輪に合わせる」のは間違っていると思う。ペナントレース中に開催される五輪では、各国のスターが揃うハイレベルな戦いを観ることはむずかしいだろう。そもそも五輪とは、あくまで前提としては「アマチュアの大会」であり、そこに野球で何十億もの年俸をもらっている“プロ中のプロ”がしれっと「母国の代表でござい」と出場するさまには、どうも違和感を感じてしまう。「国の威信をかけた戦い」は4年に一度くらいで充分。2年に一度じゃあ頻繁すぎて疲弊するし、そのありがたみも半減の“共倒れ”ではないか。
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「WBCを20年30年かけてじっくりと育てていく」という視点に立てば、私は今大会の「日本の準決勝敗退」は、あながち“悪い結果”でもなかったのでは……と考える。
そりゃあ、残念と言われたら残念すぎる。私も日本に心底優勝してほしかった。でも、まさに「国の威信をかけた」真剣勝負の連続のうえでの惜敗は、少なくとも日本の野球ファン、いや野球に興味のない層までの琴線を確実に揺さぶった。そして、初優勝のアメリカをはじめとする南米諸国やオランダ、さらにはダークホースのイスラエル……と、並みいる強豪の“高い壁”を目の当たりにして、「ああ、そう簡単に頂上を獲れる大会じゃないんだ…」と“痛感”できたはず。「WBCのハク付け」という意味では、充分すぎるほどの役割を侍ジャパンは果たしたのだ。
今回、大会を通じての入場者数が(WBC創設以来)初めて100万人を突破したという。WBCが「“優勝すること”ではなく“出場すること”がまず誇りとなる大会」へと着実に進化しつつあるのは間違いない。
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