匂いフェチかと思いきや、腋とタイツフェチ要素も……読むだけで香しい、なぎみそ『くんくんガール』

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2017年03月29日 11:12  おたぽる

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おたぽる

『くんくんガール(1)』(幻冬舎)

 何かと、ウ○コの臭いの話ばっかりです。



 なぎみそ『くんくんガール』(幻冬舎)は、臭いフェチがあらぬ方向に尖った勢いの溢れる作品です。



 物語のヒロイン・小手川美穂は、ちょっと天然な高校2年生。ちなみに、眼鏡っ娘なので、それだけで圧倒的に支持する読者が多いんじゃないかと思います。



 ただ、そんな余計なフェチ要素には微塵も触れず、この作品は「匂い」「臭い」だけをテーマに突っ走るのです。



 そんな潔い作品のヒロインである美穂は、他人よりも匂いに敏感な女の子。お母さんが、お父さんの洗濯物と一緒に洗った結果、制服に残った加齢臭にも敏感に反応します。しかも、匂いの表現に気を遣うことは一切ありません。



「お父さんの匂いは腐った油の匂いだってお母さんがいってた」



 なんて、本人が聞いたら傷つきそうな言葉を平気で吐くのです。でも、美穂に言わせると、そんな表現をすることにはきちんと理由があるのです。



「思春期の娘が父親の匂いを嫌がるのは生理現象の必然なのよ」と。



 そんな直言居士な、美穂の態度はクラスメイトにも及びます。男子がつけているフレグランスの匂いも過剰な場合はズバリと注意します。あげくに「シトラスには、哺乳類のウ○コと同じ成分が含まれている」という、妙な豆知識まで……。



 そんな美穂が、偶然匂いを嗅いでしまったのが、目立たない読書好きな同級生・柳クン。



 ここに、人類がいまだに到達していないフェロモンが、感情にいかに作用するかの謎を解説しつつラブコメが始まるのです。



 とはいえ、ラブコメ展開はあくまでオマケ。



 この作品の本質は、誰得な知識としか思えない匂いのメカニズム。そして、人類がいかに匂いを重視してきたかの文化史を描くことです。とりわけ、16世紀頃のヨーロッパの風習。男女が愛を確かめるために、女性は林檎の皮を剥いて脇の下に挟んで匂いを染みこませた後に男性に贈っていたという解説には、グッときます。



 何はともあれ、この作品の尖っているところは、たとえオジサンの加齢臭であっても、忌避一辺倒ではないことです。とにかく、基本的に匂うものは、すべて肯定しているような描写が多数登場するのです。コタツの中のくぐもった匂い。すなわち、雑菌やら何やらによって発生する、あの匂いすら「よい匂い」であると表現してしまうのです。



 よくよく考えると、作者が知らず知らずのうちに匂いフェチであることを隠さなくなっているとしか思えない怪作なのではないでしょうか。あと、余計なことですけど、作者は腋とタイツも相当、お好きな様子。



 無味無臭やら匂いを消す製品に、やたらとこだわる日本社会ですが、実は匂いが好きな人って、けっこういるよな……。そんなことを考えた作品です。



 この作品を通じて、匂いフェチ=変態じゃあないことが浸透することを願って止みません。
(文=大居候)


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