【今週の大人センテンス】吉田照美がラジオ帯番組36年半の最後に飛ばした檄

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2017年04月04日 22:01  citrus

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出典「吉田照美 飛べ!サルバドール - 文化放送」公式サイトより

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第52回 帝王が抱く今のラジオと日本への危機感

 

「植物の挿し木のように、傷を作らないと次に進めない。アブナイ人間になったほうが面白いものができる」by吉田照美(フリーアナウンサー)

【センテンスの生い立ち】
「ラジオの帝王」とも呼ばれている男性フリーアナウンサーの吉田照美。1980年10月から『吉田照美の夜はこれから てるてるワイド』や『やる気MANMAN!』など、番組を変えながら帯番組への出演を続けてきた。しかし、3月31日に文化放送の『吉田照美 飛べ!サルバドール』が最終回を迎えて、連続記録は36年半でストップ。吉田は「飛べサル」の最終回のエンディングで、現在のラジオ界や日本に対して抱いている危機感を熱く語った。

 

3つの大人ポイント
・ハードな話をいつもの軽妙な語り口で伝えている
・誰もが「行儀がいい」状況に警鐘を鳴らしている
・今後も身を削って戦い続ける決意を表明している

 

春は、いろいろと節目を迎える季節。ラジオ好きにとっては神様のような存在である吉田照美も、3月31日に大きな節目を迎えました。1980年10月にスタートした『吉田照美の夜はこれから てるてるワイド』以来、昼の『やる気MANMAN』『吉田照美 ソコダイジナトコ』『吉田照美 飛べ!サルバドール』と続いた帯番組への連続出演が、36年半で途切れてしまいます。ま、引退したわけじゃないんですけど。

 

今年で66歳の吉田は、43年前に文化放送にアナウンサーとして入社。バカバカしさやくだらなさを徹底的に追求する捨て身のスタイルで、たちまち人気を集めます。1985年3月にフリーに転身し、引き続きラジオで活躍しながら、テレビにも積極的に進出。ラジオと縁が薄い人にとっては、1980年代後半に『夕やけニャンニャン』や『ぴったし カン・カン』で司会をしていたロバみたいな人、という認識でしょうか。

 

3月31日に放送された「飛べサル」の最終回は、ゲストの大竹まことさんとの過激な本音トークあり息子さんの手紙のサプライズありと、節目にふさわしい充実の内容でした。ネット上でもツイッターを中心に、敬意と感謝を込めた書き込みで大いに盛り上がります。冒頭のセンテンスは、吉田照美が番組のエンディングで、いつもの飄々とした口調を保ちながらも、内に秘めた熱い思いをにじませながらリスナーに贈ってくれたメッセージの抜粋。

 

もう少し詳しくご紹介します。まず最初は、ちょっと前に新聞で読んだという「クリエイトっていう言葉の『創造』の『創』っていう字はキズの意味もある」という話から。植物の挿し木を例に出しながら「植物が傷をつけてそこに違う植物を挿すことで新しい命をみなぎらせていくように、自分がやってきたことには傷が必要だった。傷や失敗ばっかりの中で生きてきた」と続きます。最悪のピンチの状況にある番組をさんざんやらされた中で「傷をつくらないと次に進めない」という教訓を得たとも。

 

さらに、古巣でもある文化放送について「僕も含めて、だんだん熱のある人間が少なくなった。狂気に満ちたぐらいの熱のある人、アブナイ人が昔はいっぱいいたけど、いまはあんまりいない。みんな行儀がよくなっちゃった」と現状を嘆き、「アブナイ人間になったほうが、面白いものができるんじゃないかな」「狂った人にならないとダメだね。俺と意見が食い違っていても、そういう人と仕事をすることで、お互いにちょっとした傷がある中で、新しいものが生まれる」と、おとなしくなっている後輩たちに檄を飛ばします。

 

このあたりは、古巣に向けたメッセージという体を取りつつ、今の日本全体に向けて言っていたに違いありません。そして自分自身も、今後も傷を作り続け、クレージーでありたいと宣言。その言葉どおり近年の彼は、世間の大半を占める「行儀がいい」人たちに言わせれば、かなり「アブナイ人」になっていて、ある意味「クレージー」な姿勢をエスカレートさせています。「長老」と呼ばれる年齢になっても、もしかしたらそういう年齢になったからこそなのか、ますます果敢に攻め続けている姿には尊敬と感動を禁じ得ません。

 

とくに東日本大震災以降の彼は、さまざまな社会問題について番組内やツイッターで、体制や権力に批判的な立場から積極的に発言し続けています。今年初めには、長年の趣味である油絵で「この世界の片隅の君の名は、晋ゴジラ」と題した作品を発表。タイトルに含まれる3本の映画の登場人物が描かれ、真ん中で安倍晋三首相の顔をしたゴジラがキノコ雲をバックに歩いています。発表された途端、ネット上でかなり激しい物議を醸しました。

 

「晋ゴジラ」は、以前から毎月発表していた「ニューズ油絵」シリーズの一枚(⇒「晋ゴジラ」の絵と制作意図などを語った本人のインタビュー)。現在も、自分のHP「Tim Yoshida」やツイッター上で新作を発表しています。最新作は「国家的最悪ギャグ漫画『あべっちゃまくん』」。おぼっちゃまくんと安部首相が仲良く並んでいる図柄で、作品を紹介している本人のツイートには「素晴らしい教育者という評価を、一週間で、シツコイ人、教育者としてどうか?と変え、会っていたのに、会ったこと無いと嘘を吐くあべっちゃまくん。籠池さんとは、ともだちんこ?」というコメントが付いています。

 

彼のようにメディアに顔と名前を出して仕事をしている人が、自分の考えや立場をはっきり表明するのは、生半可な勇気や覚悟でできることではありません。違う考えや反対の立場の人からは日常的に激しい批判や罵声が飛んでくるし、「行儀がいい」人たちがそれこそ忖度を働かせて仕事を失うおそれもあります。真偽のほどはわかりませんが、帯番組の「飛べサル」が打ち切られたのは、政治的な発言が遠因になったのでは……という見方もありました。少なくとも、自分から降りたいと言ったわけではないようです。

 

私事で恐縮ですが、36年前に大学受験で上京したときに友人の下宿で聴いた「てるてるワイド」に大笑いし、たちまち名前も知らなかった「吉田照美」というパーソナリティのファンになりました。20代後半からは「やるMAN」の熱心なリスナーで、30歳のときに出した初めての著書が番組で取り上げられたときは、どんなに嬉しかったことか。その後、幸せなことに「やるMAN」や「飛べサル」に何度かゲストで呼んでもらって、直接お話することもできました。この仕事をやっていてよかったと、心から思った瞬間です。

 

どうやらラジオの帝王は、今のラジオの世界や今の日本に大きな危機感を抱いています。批判や不都合を承知の上で、自分の意見を言い続けることをやめません。バカバカしさやくだらなさを追求する吉田照美も素敵ですが、もの言う吉田照美もまぶしく輝いています。意見に賛成できるかどうかは人それぞれでしょうけど、その姿勢と気概は見習いたいもの。私たちはちょっと気を抜くと「行儀がいい」方向に走りがちです。クリエイティブな仕事に限らずどんな仕事でも、傷をおそれず、なるべくアブナイ人であり続けましょう。

 

ちなみに、帯番組はなくなりましたが、毎週土曜日の午後には『伊東四朗 吉田照美 親父・熱愛(パッション)』(文化放送、15時〜)があるし、4月から日曜日の朝には『TERUMI de SUNDAY!』(bayfm、9時〜)がスタートしました。ほかにも、目にしたり耳にしたりする機会はたくさんありそうです。引き続き、笑いと刺激を与え続けてください。

 

 

【今週の大人の教訓】
大事なことほど、笑いに包んで語ったほうが強く伝わる

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